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2021年01月20日(水)

社会関係資本整備等を考える「社会圏」レイヤー(morinos建築秘話53)

morinos建築秘話52で、morinos SDGsの大元となる「環境(生物圏)」レイヤーの評価を見てきましたが、今回は、中層を支え、最も多くのGOALが集まる「社会圏」レイヤーを見ていきます。

SDGsウェディングケーキモデルの中層を支える「社会圏」レイヤー

これは、社会資本整備、人的資本・地域コミュニティ等の社会関係資本整備等を考えるレイヤーです。

SDGsウェディングケーキの中間層である「社会圏」には、17のGOALのうち下記の8つが含まれています。

GOAL1.貧困をなくそう(貧困)
GOAL2.飢餓をゼロに(飢餓)
GOAL3.すべての人に健康と福祉を(保健)
GOAL4.質の高い教育をみんなに(教育)
GOAL5.ジェンダー平等を実現しよう(ジェンダー)
GOAL7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに(エネルギー)
GOAL11.住み続けられるまちづくりを(都市)
GOAL16.平和と公正をすべての人に(平和)

「社会圏」では、私たち人間が不自由なく生活し、働けるような世界を作り上げるための目標が含まれています。

「環境(生物圏)」によって私たちが暮らす生活環境が整ったとしても、“健康問題”、“差別・偏見”、“教育環境”といった、生活基盤に必要な社会環境が整わなければ持続可能な社会の実現・維持は不可能です。

「社会圏」に含まれるそれぞれの目標を達成することで、その上位にある持続可能な社会に必要な「経済圏」の基盤を作り上げることにつながります。

まずはGOAL1「貧困をなくそう」ですが、CASBEEでは、GOAL12「つくる責任 つかう責任」に集約して評価しますので、経済レイヤーの時に合わせて確認します。評価する内容は以下の通りです。

 

次にGOAL2「飢餓をゼロに」も同様にCASBEEでは、GOAL12「つくる責任 つかう責任」に集約して評価しますので、経済レイヤーの時に合わせて確認します。評価する内容は以下の通りです。

 

GOAL3「すべての人に健康と福祉を」に関しては、

しっかり取り組めている項目として、温熱性能があげられます。ピーク時にも適切な室温を維持し、上下温度差を軽減すると同時に、暖冷房設備もしっかり効くように設計しています。
また、光環境においても同様です。昼光利用を考えつつ、照明を細かく制御できます。少し物足りない点としてはグレア(眩しさ)対策です。
空気や衛生環境も換気や建材選定で対策がしっかりされています。湿度コントロールが無いのが少し足りないくらいです。
防犯対策に関しても、セキュリティサービスに加入し、入退室管理システムが機能しています。

一方、十分に取り組めていない項目は特になく、GOAL3に関しては、かなり高評価です。

結果としてGOAL3「すべての人に健康と福祉を」は評価2.7(1~3段階中)と積極的に取り組んでいます。

次は、GOAL4「質の高い教育をみんなに」です。

しっかり取り組めている項目として、学習環境に適した温熱や空気、光環境の整備はGOAL3でも確認しました。この要素は利用者だけでなく、学習を担うスタッフの労働環境の向上にも寄与しています。
また、学習スペースの確保として。カウンターやテーブルなど、その時々に応じて場所を選べるフリーアドレス方式を採用しています。同時にフリーWifiの無線LANを完備するなど、学習に必要な設備も整えています。

一方、十分に取り組めていない項目は特になく、GOAL4に関しても、かなり高評価です。

結果としてGOAL4「質の高い教育をみんなに」は評価2.7(1~3段階中)と積極的に取り組んでいます。教育機関としての森林文化アカデミーにとっては、この項目は特に大切にしたい項目です。

次は、GOAL5「ジェンダー平等を実現しよう」です。

しっかり取り組めている項目として、大きな空間を家具の配置で多様に使用できるなど、空間のゆとりを確保して将来の可変性に対応しています。
また今回の建築時に、既存のトイレへの導入を再構築し、男女共用型トイレへのアクセスを可能にすることでLGBTに配慮しています。

結果としてGOAL5「ジェンダー平等を実現しよう」は評価2.5(1~3段階中)と比較的積極的に取り組んでいます。

次は、GOAL7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」です。

しっかり取り組めている項目として、省エネルギー寄与する断熱性能の向上や日射熱や自然光などの自然エネルギー利用、薪ストーブなどの省エネ性能の高い機器の採用があげられます。
また温熱環境や電力使用量をモニタリングするなどのマネージメントシステムも導入しています。

一方、十分に取り組めていない項目として、太陽熱温水や太陽光発電、地中熱などの未利用エネルギー利用など、創エネの取り組みができていないことや、蓄電や蓄熱の取り組みがなされていないこと、地域における分散型エネルギーシステムと連携できていないことなどがあげられます。

結果としてGOAL7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」は評価1.9(1~3段階中)とまずまずの取り組みにとどまっています。

次は、GOAL11「住み続けられるまちづくりを」です。

しっかり取り組めている項目として、環境性能を確保しつつ省エネでランニングコストを低減させたり、レジリエントデザインを取り入れたりしています。
また、良好な景観形成に配慮した素材の選定やボリューム、周辺の生物環境の保全と創出に配慮しています。
morinos自体が地域に開かれたオープンな施設のため、深い軒下にコミュニケーションスペースを確保して実践が実現できています。

一方、十分に取り組めていない項目として、敷地、外構において防犯性能を高める工夫を十分行えていないことや、地域のスマート化と連携する建築計画、分散型エネルギーシステムの構築ができていないことがあげられます。

結果としてGOAL11「住み続けられるまちづくりを」は評価2.7(1~3段階中)と積極的に取り組んでいます。

社会圏の最後は、GOAL16「平和と公正をすべての人に」ですが、CASBEEでは、GOAL12「つくる責任 つかう責任」に集約して評価しますので、経済レイヤーの時に合わせて確認します。評価する内容は以下の通りです。

以上が、社会関係資本整備等を考える「社会圏」レイヤーの取り組み評価です。

SDGsの各GOALを建築の評価に落とし込んで、項目が整理されていますがいかがですか。
ざっと目を通すと、なるほど。その視点で評価するのかといったものから、それは関連があるのかといった項目まで様々です。

ですが、俯瞰的な視点で総合的に建築を見るのに、非常に優れた指標だと考えられます。

次回は、最後の経済レイヤーとパートナーシップの取り組みを評価してます。

准教授 辻充孝

今回のSDGsの評価に関しては、morinosのCASBEE評価がベースにありますので、以下の建築秘話も参照してください。
 

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。
morinos建築秘話シリーズ