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2021年01月15日(金)

冬の表面温度はどのくらい?~冬の実測その2~(morinos建築秘話50)

1月13日(水)14:45分頃にmorinosの表面温度を計測しました。この日は晴れたり曇ったりの冬空です。

計測時のタイミングは曇りでした。その時の温湿度は下の状況です。(オレンジ色は実測値、黒は計算値)

建物の北側外気温湿度は、7.2℃70%と、概ね平年通りくらいの気温です。
室内温湿度は、床下18.0℃49%、室内の足元から23℃33%、腰高25.9℃27%、頭の高さ26.5℃27%です。
暖かい環境で仕事されてますね。

では、各部の表面温度はどんな感じでしょうか。

まずは南から見た外部のサーモ画像です。温度目盛りが右側にあり、0℃~20℃の範囲を取っています。
暖かいところは、熱が漏れている部位です。
測定場所は、〇印で示しています。写真をクリックすると拡大でき測定Noが読み取れます。

室内に面していない軒裏(Sp4)が、5.3℃です。北側外気温は7.2℃ですので、方位や測定の時間差や風速、熱放射の影響で、低くなっていますが、5.3℃を比較する表面温度の指標として他の部位を見ていきます。

外から見て最も暖かい(熱が漏れている)のは建具のガラス(Sp1)(Ug値2.6W/㎡K)で、9.7℃
建具は開け閉めする関係で、重量を軽く仕上げたかったので、トリプルガラス(3枚ガラス)ではなく、ペアガラス(2枚ガラス)です。

では、トリプルガラス(Sp2)(Ug値1.50W/㎡K)の場所はどうでしょう。計測すると8.6℃
高い位置にあるので、室温は1~2℃程高いため熱が逃げやすい不利側に働きますが、ペアガラスより1.1℃低い状況で、やはり断熱性能が高いです。

ではもっと断熱性能が高い外壁部分(Sp3)(U値0.3W/㎡K)はというと、6.3℃
断熱性能が上がるにしたがって、表面温度が低く(熱が逃げにくく)なっているのがわかります。

U値と表面温度の説明は、熱貫流率U値と室内表面温度-焚き火の暖かさの秘密(morinos建築秘話22)を参照。

表面温度の計算値と比較してみます。
外気温が5.3℃、室温26℃の場合で計算するとペアガラスで11.3℃、トリプルで8.7℃、外壁で6.0℃とほぼ実測値とあってきます。
もしシングルガラスだったと仮定して計算すると外部の表面温度は18.7℃と相当熱が漏れることになっていました。
今回の建具は全てペアガラス(アカデミー本校舎も全てペア)でしたが、シングルと比べてこれほど差が出てきますので、効果は大きいです。

 

次に室内を見てみます。同様に温度目盛りが右側にあり、15℃~30℃の範囲(以下の室内は全てこのレンジ)を取っています。
温度ムラが少ないので、全体がのっぺりした同じような色合いです。高性能建物を示すいい傾向です。

各部を順番に見ていきます。カッコ内は外部と同じ外気温を5.3℃、室温26℃とした場合の計算値。
床面(Sp1)は23.8℃(床下18℃、無断熱フローリングU値2.90W/㎡Kで計算すると22.5℃)
外気に面していない内部の壁(Sp2)は24.3℃(室内の温度ムラが無いとすると基本は室温と同じ26℃)
天井(Sp3)は25.2℃(天井U値0.19W/㎡Kで25.6℃)
上部外壁面(Sp4)は25.3℃(外壁U値0.3W/㎡Kで25.3℃)
トリプルガラスの開口部(Sp5)は23.5℃(ガラスU値1.5W/㎡Kで22.6℃)
となっています。計算予測値ともかなり精度よくあっています。

最も大きな温度差が付いているのは床と外壁ですが、1.5℃の温度差に収まっています。
非常に安定した室内表面温度です。
体感温度は概ね(室温+表面温度)÷2で表せますので、建物のどこに行ってもヒヤッとするところはありません。昔の家の窓際が寒いのは、室温が低いからではなく冷えた窓に体温を奪われるためです。

 

この日、朝のうちは薪ストーブをつけていたとのことですが、私がうかがった14時半にはすでに消えてました。
ですが、左官壁に囲まれた薪ストーブ周辺はほんのり暖かめ。どのような温度でしょうか。

薪ストーブ本体(Sp1)は55.4℃。薪ストーブ使用中の表面は200~300℃ですので、火が消えてそれなりに時間が経ってます。
断熱煙突表面(Sp2)は35.0℃
薪ストーブ背後の壁(Sp3)は29.8℃
薪ストーブ近くの土間(Sp4)は26.4℃
薪ストーブから離れた土間(Sp5)は19.9℃
薪ストーブから離れた壁(Sp6)は26.2℃

薪ストーブ周辺の温度は、概ね上で見た一般的なmorinosの表面温度よりも少し高めです。朝に炊いた薪ストーブの熱を左官壁が蓄えているようです。
唯一低くなっているのは、薪ストーブから離れた土間です。一般床よりも低いですが、これも熱容量が大きいために暖まりにくいからです。昼過ぎまで薪ストーブをつけていれば逆転していたかもしれません。一度暖まってしまえば、冷めにくい特徴があるので活用したいものです。

 

最後に、床下と繋がるスリット部分です。morinosは基礎断熱(床下も室内と見立てる)のため、床下と室内がつながってます。

床下は日射熱が入りませんので、室温(床付近23℃)より少し低めの床下室温(床下18℃)です。

表面温度を測ってみると、
床下と繋がるスリット(Sp1)は19℃
室内の床(Sp2)は21.7℃
窓際の床(Sp3)は18.3℃
となりました。
中央の床より少し低めです。また、窓際の床は、ガラス面を伝ってくるコールドドラフトの影響で、さらに少し低めの温度です。といっても18℃以上キープしています。

では床下内部はどうでしょう。床のスリットを取り除き覗き込んでみました。

床下は断熱材でがっちりガードされています。

床下表面温度(Sp1)は15.4℃
熱橋になりやすい鋼製束(断熱補強あり)(Sp2)は12.9℃

気になっていた床を支える鋼製束廻りの温度も比較的安定していました。この温度であれば結露の心配もありません。

ある瞬間を切り取っただけですが、表面温度のまとめでしたがいかがですか。
私としても思いのほか計算予測と合ってました。これも工事の施工精度がいいからですね。
いくら設計段階で緻密に計算しても、施工が悪いと台無しになってしまいます。設計と施工がしっかりかみ合って、はじめて良い建物が完成します。
さらに上手く運用すれば、予想外の心地よさも現れてきます。
morinosはまだ1歳にもなっていません。これから上手に付き合っていきたいですね。

morinosマニアック----------

表面温度の計算は、室内と室外の気温がずっと続いたらという(定常状態)の計算結果。
現実は刻々と変化(非定常状態)する内外の気温変化、日射、これらが伝わるときの蓄熱など、さまざまな条件が影響します。

そこで、今回の計測では変化の少ないタイミングを見計らって計測しています。
外気温データを見ると、この日は11時から15時までの間で、0.5℃以内の気温変化、しかもほぼ薄曇りで直射光もなし。
上記の計算結果が概ねあっているのもうなずけます。

准教授 辻充孝

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。
morinos建築秘話シリーズ