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2020年04月23日(木)

CASBEE Sランク~環境品質向上の取り組み~(morinos建築秘話44)

環境性能効率BEEで建物のエコ度が評価できるCASBEE。
前回は、分母にあたる環境負荷Lの評価35項目を見てきました。

環境性能を総合的に評価するCASBEE ~環境負荷低減の取り組み~(morinos建築秘話43)

ここで、CSBEE評価において重要な点を2つ確認しておきます。

1点目は、CASBEEでは環境性能に着目して評価するシステムのため、
・建物の美しさなどの審美性は評価しない
・費用対効果や市場価値、収益性などの経済性は評価しない
ことになっています。
この2つの項目は建築を計画するうえで非常に大切な要素ですが、あえて環境性能に特化することで、余計なバイアスを外してエコ度を評価できるようになっています。
morinosの審美性に関しては、建築秘話 建築計画シリーズをご覧ください。

2点目として、各種取り組みの重要性です。
前回は環境負荷の35項目を評価しましたが、すべて同列に扱われているわけではありません。それぞれ重要性を考慮して計算されています。
例えば、地球温暖化への配慮は環境負荷Lの100点中10点分の重みですが、morinosでの対応が不十分だったモニタリングは100点中4点分の重みになっており、評価内容によって重要性を加味して点数を導き出しています。

さて今回は、分子側の環境品質Qの57項目を見ていきます。

Q1:室内環境で、23項目
Q2:サービス性能で、30項目
Q3:室外環境(敷地内)で、4項目

これ以降、各項目を専門的な視点もまじえて細かく説明していますので、覚悟してください。
とりあえず結果(環境性能効率BEE)が見たい方は、最後に記載してますので飛ばしていただいて結構です。

※この評価結果は筆者の辻充孝による自己評価による結果です。

 

Q1 室内環境

温熱環境や音、光、空気環境などの室内環境全般の適切さを評価する大項目です。

Q1.1:音環境

◆Q1.1 室内騒音レベル

外部騒音と設備騒音が室内に影響をもたらす状況を評価する項目です。
morinosは竣工しており、騒音が変動しませんので普通騒音計で計測してレベルを判定します。
日中に騒音レベルを35秒間測定すると平均で31.2dBと非常に静かな状況(5m離れてささやき声が聞こえるレベル)でしたので、レベル5となります。
周囲の状況が静かなことも影響しています。

◆Q1.2 遮音

開口部の遮音性能や、界壁遮音性能、界床遮音性能(軽量衝撃源、重量衝撃源)を評価します。
morinosは平屋建てで一室空間のため、界壁遮音や界床遮音は対象外になります。

◆Q1.3 吸音

内装材による吸音のしやすさを評価します。
吸音性能が高まると、残響が抑制されて会話の聞き取りやすさが向上し、外部騒音も減衰することで喧騒感の低減につながります。
morinosは特に吸音用の仕上げを用いていませんので、最低のレベル1になります。
ですが、施設の利用目的から、動物のはく製や各種展示物を置かれることが想定でき、多少の吸音効果が見込めるのではと考えています。

Q1.2 温熱環境

◆Q1.2.1.1 室温

室内空気温度は温熱環境の基本的な指標であり、快適な室温が実現できるかを評価します。
学校建築においては、冬期18℃以上、夏期28℃以下の室温が実現できるのが標準(レベル3)ですが、状況に合わせてコントロールできる幅が高い(レベル5で冬期22℃以上、夏期24℃以下)と、高評価になります。
morinosは、断熱や日射熱制御性能を考慮して、ゆとりをもって暖冷房設備を選定していますので、レベル5になります。

薪ストーブとエアコンの空調設備計画(morinos建築秘話29)

余裕を持った空調設備計画

◆Q1.2.1.2 外皮性能

外界からの熱侵入の抑制機能について評価します。
基本的に、屋根や壁、窓の断熱性能と日射遮蔽性能のことです。

断熱と日射熱制御を考慮した温熱性能(morinos建築秘話28)

で紹介した通り、morinosの外皮はかなり高性能に出来上がっています。

非住宅建築では、設備で空調することが基本のため、住宅ほどの高性能な評価(住宅でも省エネ基準はまだまだですが)になっていません。
(最高等級のレベル5でも、断熱性能は、窓U値3.0W/㎡K以下、外壁や屋根1.0W/㎡K以下、窓の日射遮蔽性能SC0.2程度)
morinosは、レベル5と比べても、窓のU値で1.5倍程度、屋根や壁で5倍以上高い性能となっています。日射遮蔽性能は、概ねレベル5の0.2以下程度です。

昼光が建物の奥まで届いています。

◆Q1.2.1.3 ゾーン別制御性

室内空間の温度むらを無くすために、細やかなゾーニング空調を行うシステムの採用を評価します。
学校は対象外の用途ですが、morinosに設置された薪ストーブは、発熱量が高い放射暖房設備のため、近寄ると非常に暖かいですが、離れると放射熱は2乗に比例して減衰する性質があります。
そのため、利用者が自ら心地よい距離を取って活動することで、ローテクではありますがゾーニング空調のように使用することができます。

距離感で暖かさが変化する放射暖房設備:薪ストーブ

◆Q1.2.2 湿度制御

夏期には快適性を求めた除湿と冬期には健康面を考慮した加湿などの湿度制御の評価を行います。
Morinosでは過剰な湿度コントロールを行いませんので標準的なレベル3として評価しています。

◆Q1.2.3 空調方式

利用者に局所的な不快感を与えないように、居住域の上下温度差や気流速度を軽減するための空調方式を評価します。

薪ストーブとエアコンの空調設備計画(morinos建築秘話29)

で紹介した通り、morinosの空調方式は3種類。(薪ストーブ、床下エアコン、壁付けエアコン)
特に床下エアコンは、上下温度差や気流感の軽減に有効です。
また薪ストーブも気流感を感じることなく熱を享受できます。
空調方式はレベル5となります。

床下エアコンの吹き出し口

Q1.3 光環境

◆Q1.3.1.1 昼光率

昼光率は直射日光を除く屋外の照度(全天空照度)に対する室内の測定点の照度の比で、採光可能性を示す指標です。値が高いほど評価が高くなります。

morinosの昼光率を概算で計算してみました。建物中心の机上面の昼光率は、約7%程度。
学校建築では、一般的に1.5~2.0%程度なので、見た目の印象と同様4倍近い昼光率が得られています。
レベル5が2.5%以上なので、当然レベル5の評価となります。

昼光利用のねらいと効果:日中は照明いらず(morinos建築秘話19)

部屋の奥まで昼光が届きます。

◆Q1.3.1.3 昼光利用設備

積極的に昼光利用を意図して設けられたトップライト、ハイサイドライト、ライトシェルフや光ダクト、集光装置などを評価します。
morinosはハイサイドライトによって、空間の奥まで昼光を取り入れる仕組みを入れています。
また北のバックヤードではトップライトを設置することで、適度な明るさの取得に寄与しています。

バックヤードに設けられたトップライト

◆Q1.3.2 グレア対策(昼光制御)

開口部に庇やオーニング、ブラインドなどによる窓際のまぶしさ(グレア)対策を評価します。
morinosは大きく張り出した大屋根を庇に見立てていますが、それ以外のスクリーンなどは取り付けておらず、一般建築より劣るレベル2となります。
今後の活動の中で、利用者、運営者によって、ガラスに和紙を貼ったり、緑のカーテンや外部スクリーンの取り付けによって、グレアを感じるところに対策ができることを期待しています。

◆Q1.3.3 照度

机上面の明るさを照度で評価します。

照明計画と光の質(morinos建築秘話9)

で紹介した通り、設計段階から、照度設計を行い、夜間でも適切な明るさができるように計画しています。
学校用途では最高等級にレベル4になります。

照度設計された照明計画

◆Q1.3.4 照明制御

点灯、消灯、調光によって室内の明るさ、照明位置を制御できる度合いを評価します。
morinosは室内ほぼ全ての照明で調光も行うことができ、利用実態に合わせて適切な明るさが実現できます。ほぼワンルームながら照明回路も11回路(内8回路は調光付き)あり、場所ごとに適切にコントロールできます。(レベル5)

 

Q1.4 空気質環境

◆Q1.4.1 化学汚染物質(発生源対策)

シックビルディングの原因となった揮発性有機化合物(VOC)に配慮しているかを評価します。
使用している建築材料は、大半が無垢のスギやヒノキですが、構造用合板などの建材においてもVOCの中でもホルムアルデヒドの放散の少ないF☆☆☆☆のみを使用しており、レベル5となります。
現在の新築では毒性の強いアスベストは使用されませんので評価対象外です。既存建物では注意が必要です。

◆Q1.4.2 換気量

換気量が十分にとられているかと評価します。
morinosでも計画段階で換気量の計算を行い、必要量の換気が得られる換気扇の導入をしています。

◆Q1.4.2.2 自然換気性能

開閉可能な窓が充分に設けられているかを評価します。
高層建築だと、開閉可能な窓の設置は困難ですが、平屋のmorinosでは各部に出入口を設け、オープン状態で固定できる仕組みも入れており、十分な換気量が得られます。
具体的に見ても、開口可能な面積が24.24㎡、床面積129.04㎡ですので、床面積に対して約1/5程度(レベル5で1/15以上)とかなり大きな開口面積が確保できていますのでレベル5になります。

全開口できる開き戸。コンシールドで固定もでき、片側だけ開けるとウインドキャッチャーにもなります。

◆Q1.4.2.3 取り入れ外気への配慮

外気取り入れ口は可能な限り良質な新鮮空気を取り込める様に配慮されるべきです。汚染源としては、車や工場などの排気が考えられますので、一定以上(6m以上)の距離を取るか、汚染源とは異なる方位に向けることが大切です。
Morinosは周囲に、汚染源として考えられるものは少なくレベル5です。

◆Q1.4.3 CO2の監視(運用管理)

空気質を適正に維持するための体制がとられており、有効に機能しているかを評価します。
CO2監視が手動でも行えればレベル3ですが、現在は特にCO2観測装置を用意していませんので、レベル1としています。
CO2計測器を置いて、常時見れるようにすることも環境教育の一環となると考えられますので、手配してみましょう。
また、管理マニュアルや常時監視システムでさらなるレベルアップも図れます。

※2021年1月23日からCO2の測定を始めておりレベル3になります。
CO2の分析はこちらのブログから「二酸化炭素濃度はどのくらい?(morinos建築秘話60)

◆Q1.4.3.2 喫煙の制御

非喫煙者が煙に曝されない対策を評価します。
アカデミー本校舎も含めて、morinosでは、敷地全体で原則禁煙区域となっており、喫煙スペースにも目隠し等で人目に触れないような仕組みとなっています。

 

Q2 サービス性能

機能性や維持管理、耐震性能など、各種性能を評価する大項目です。

Q2.1 機能性

◆Q2.1.1.3 バリアフリー計画

訪れる人が特段の不自由なく施設を利用できるかを評価します。2000㎡以上の場合はバリアフリー新法の適合が義務となっています。
具体的には出入口の巾(これは基準を満たしています。)や、アプローチ、駐車場、トイレ、案内表示などが対象となりますが、morinosの外構やサイン計画はまだ計画途上。車いす用の駐車スペースなども想定はあるものの、表示などが追いついていません。
今後のレベルアップは確実ですが、現状は対象外として評価します。

◆Q2.1.2.1 広さ感・景観

利用者にとって、広く感じられる空間や景観が楽しめる空間は、心理性・快適性を向上させます。ここでは、天井高さによる広さ感、開放感を評価します。
morinosの天井高さは概ね3.7mと高めのためレベル5となります。
天井高さがそのまま開放感や快適性に寄与するわけではありませんが、morinosは写真の印象からも開放感が感じられますよね。

天井が高く開放感のある室内

◆Q2.1.2.3 内装計画

魅力的で居心地のよい空間を構成する建物全体のコンセプトや機能の配慮事項を評価します。
morinosは建物コンセプトで、本物の素材(擬木ではなく無垢材など)を中心に構成することを決め、各所にこだわりをもって計画しています。
また、照明計画も建物本体と一体化して内装を決める段階で、3Dパースを用いて検討してきました。
これらの取り組みによってレベル5になります。

3Dパースでインテリアも検討

◆Q2.1.3 維持管理に配慮した設計

内装仕上げや設計で、維持管理のしやすさを評価します。また、掃除用具室やモップの乾燥スペースなど維持管理機能の確保についても評価します。
特に面積の大きなmorinosのフローリングは、

表層圧縮・ACQ・圧密 3種類の床材(morinos建築秘話5)

で紹介した通り圧密フローリングに、UVセラミックコーティングを施し、防汚性、耐摩耗性の高い床となっています。その他一般的な対策を施しました。

圧密フローリングに、UVセラミックコーティング

Q2.2 耐用性・信頼性

◆Q2.2.1.1 耐震性

建物の耐震性能(許容応力度設計、限界耐力設計、時刻歴応答計算など)を評価します。
morinosでは、許容応力応力度設計で構造設計を行っています。

事前に1ステップ:morinos構造計算の流れ(morinos建築秘話35)

設計条件として、標準層せん断力係数C0が通常0.2のところを0.25(1.25倍の安全率)として想定しています。
また、壁量は1.28倍のゆとりを見ていることから、建築基準法に定められた60%増の耐震性を有しています。(レベル5)

◆Q2.2.1.2 免震・制震・制振性能(内部設備保護)

地震や強風による揺れによって内部設備等の性能低下や建物の機能維持ができなくなることに対する対策の評価です。
Morinosは免震や制震(地震制御)・制振(強風制御)システムは導入していませんので、一般的な建築としてレベル3となっています。

◆Q.2.2.1 躯体材料の耐用年数

躯体材料の耐用年数を評価します。木造建築ですので、シロアリと腐朽に対する劣化軽減の取り組みで評価することになります。
morinosの構造躯体は、コンクリートベタ基礎の上に、構造用製材規格等に規定された耐久性区分D1に指定されたヒノキを中心に構成されています。
また、外壁は通気構法とし、床下点検口などの設置も行っています。(レベル5)

構造システム ”WOODS”(morinos建築秘話32)

◆Q2.2.2 外壁・内装仕上げ材の補修必要間隔

外壁仕上げ材の補修間隔を評価します。
外壁、内装とも杉板の本実板張りですので、30年程度を想定(CASBEE戸建より)しており、レベル5となります。

◆Q2.2.5 空調・給排水配管・主要設備の更新必要間隔

各種設備機器の更新必要間隔について評価します。
給水は架橋ポリエチレン管を使用し、40年以上の耐用を見込んでいます。交換も容易な計画です。
エアコンに関しては、特に取り組みは行っておらず一般的な耐用年数の15年程度を見込んでいます。

◆Q2.4.1 空調・換気設備の災害時対応

災害時などを想定し、設備の二重化やバックアップ体制などを評価します。
暖房設備に関しては、バイオマス燃料で非電化の薪ストーブと電力を用いるエアコンの2機種を想定し、それぞれ単独で暖房負荷を処理できる容量となっています。

薪ストーブとエアコンの空調設備計画(morinos建築秘話29)

◆Q2.4.2 給排水・衛生設備、電気設備、配管支持、通信設備の災害時対応

各種設備の災害時の際に利用できるように2重に経路を確保したり、無停電装置の導入などを評価します。
morinosでは特別の対策を行っておらず、一般的な非住宅建築まで至らずレベル1となっています。

Q2.3 対応性・更新性

◆Q2.3.1.2 空間の形状・自由さ

空間の形状・自由さを「壁長さ比率」を用いて評価します。壁長さ比率とは、「外周壁の長さ+耐力壁の長さ」を「専有面積」で割ったもので、どのくらい動かせないものがあるかを示す指標です。値が小さいほど“空間の形状・自由度”が大きいと判断できます。
morinosの外周長さは、52.38m、唯一ある壁のシンボルの左官壁の長さは3.5mです。
ですので、動かせない壁長さ55.88m÷床面積129.04㎡=0.433となります。
0.3≦レベル3<0.5になります。(レベル5には0.1未満が必要)
あれだけの大空間でレベル3と感じますが、非住宅建築物の評価用CASBEEですので、数千㎡の建物も想定しています。床面積が小さくなるとその分外周長さ割合が増えるため、壁長さ比率は上げにくいのです。

◆Q2.3.2 荷重のゆとり

積載荷重のゆとりを想定しておくと、将来他の用途に転用する際にも可能性が拡がります。そこで、積載荷重のゆとりで評価します。
morinosは、設計荷重を2900N/㎡として、充足率が1.297でしたので、積載荷重を3761N/㎡として計画していましたので、レベル5となります。(学校建築物は、3500N/㎡以上がレベル5)

◆Q2.3.3 空調設備、給排水管、電気配線、通信配線の更新性

空調配管や給排水管の更新時に構造体や仕上げ材を痛めることなく更新、修繕ができるかなどを評価します。
morinosのエアコンは外壁に面して設置され、建築を痛めることなく修繕できるのでレベル4となります。
レベル5にするためには、ISS(インタースティシャル・スペース・システム)によって、建築と設備が統合されたシステムを設計した場合になりますが、morinosの性質上、ここまでの仕組みは必要ないと判断しました。
給排水管と通信配線は構造躯体、仕上げ材を痛めることなく改修(レベル5)でき、電気配線は構造躯体を痛めることなく改修(レベル3)できます。

Q3 室外環境(敷地内)

敷地内の生物環境や景観への配慮などを評価する大項目です。

◆Q3.1 生物環境の保全と創出

敷地内の動植物環境や緑化状態、自生種の保全や小動物の生息域の確保に配慮事項などを評価します。
morinos周辺の外構計画は順次計画を進めていて、緑化計画も進行中です。
例えば、岐阜県ならではの岩石状況が確認できる小石や木チップ、スギの実、削り屑の小道などの整備も進んでいます。(レベル5)

岐阜県の岩石状況が確認できる小石が敷かれた搬入路

◆Q3.2 まちなみ・景観への配慮

周囲の景観になじむような素材や色合いに配慮したり、歴史性の継承などの取り組みを評価します。
morinosは既存の情報センターの軒高さに合わせ、岐阜県産のスギの外壁を利用し景観に配慮している。(レベル5)

白い薄化粧の丸太と無塗装の外壁(morinos建築秘話23)

既存の情報センターの軒高に合わせた屋根の高さ

◆Q3.3.1 地域性・アメニティの配慮

地域固有の材料を使用したり、ピロティなどのを開放したりと、地域性やアメニティへの配慮を評価します。
morinosは、地域性のある地元の木材利用を行い、ピロティの設置や、建物内外を連続させ中間領域を形成しています(レベル5)

室内外がシームレスにつながる両引き戸とその先にある大きなピロティ

◆Q3.3.2 敷地内温熱環境の向上

夏期の敷地内歩行空間の暑熱環境を緩和する取り組みについて評価します。
morinosは、敷地にゆとりがあることで、風の通り道が確保でき、舗装を極力行わないことで歩行者の暑熱環境を緩和しています。(レベル4)
屋上や壁面緑化の推進やエアコンの室外機を高い位置に設置するなどでレベルアップが計れます。

 

以上がCASBEE評価の分子側、環境品質Qの57項目です。

まとめてみると平均レベル4.4です。(一般的な新築木造建築はレベル3)
前回のブログで紹介した環境負荷低減性LRの4.2より良い結果になっています。

環境性能を総合的に評価するCASBEE ~環境負荷低減の取り組み~(morinos建築秘話43)

スコアも出ました。

 

環境品質Qは86点です。(100点満)

 

これで、前回の環境負荷Lの19点と合わせると、環境性能効率BEEが計算できます。

環境性能効率BEE=環境品質Q:86点 ÷ 環境負荷L:19点 = 4.5

です。つまり、一般的な建物(BEE 1.0)に比べて4.5倍のエコ度となりました。最高等級の五つ星、Sランクです。

一方で、ライフサイクルCO2は四つ星(星4.8)となり、惜しくも五つ星とはいきませんでした。

下の棒グラフの見方ですが、
①参照値が一般的な建築物のCO2排出量です。

②建築物の取り組みがmorinosの評価になります。概ね半減しています。運用時だけだと7割近く減らしています。

創エネ設備を搭載していない状態でほぼ半減ですので、morinosに太陽光発電などを乗せて敷地内でCO2削減ができれば(③オンサイト手法)五つ星になります。

また、排出量取引(④オフサイト手法)を用いても五つ星は確実でしょう。

全体の環境性能のレーダーチャートは下図になります。

環境品質の3項目と環境負荷低減性の3項目、計6項目がバランスよく向上していることがわかります。

 

すでに高い環境性能のmorinosですが、今後の取り組みでまだ向上できる余地がありますので、運用しながら改善が期待できます。

 

 

CASBEEの建築評価92項目(住宅版は48項目)を見てきましたが、いかがでしたか。
そんなことまで考えるの?というものもあったのではないでしょうか。

 

温熱性能だけに特化して造るのでもなく、自然素材でつくればいいものでもなく、たくさんの人が利用する建築は特に、幅広い視野をもって総合的に考える必要があります。

その気付きのひとつになるのが、今回紹介したCASBEEです。

 

今回の最初に書いたように、費用対効果や市場価値、収益性などの経済性は評価しない環境性能に特化した評価のため、全てのレベルを最高等級にするのが最上級の設計というわけではありませんが、これまで考えていなくて、ちょっとした工夫で向上できる要素もいろいろあります。

 

これをきっかけに、視野を広げて建築を見る目を養っていただければ幸いです。

 

※建物の詳しい説明はmorinos建築秘話シリーズをご覧ください。

morinos建築秘話シリーズ

准教授 辻充孝