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2020年04月17日(金)

構造性能検証:常時微動測定(morinos建築秘話41)

構造性能を検証するために、実際の建物で常時微動測定という振動測定をしました。

いくつかの振動測定がありますが、そのうちの一つの方法として常時微動測定があります。
建物は常に(常時)人間が感じない程度の小さな振動(微動)をしていて、その振動をセンサーにより計測することができます。この計測を常時微動測定といいます。
この振動測定から、建物の振動性状を示す指標の一つである固有振動数を求めることができます。
尚、新築の2階建て木造住宅の平均的な固有振動数は6.0Hz程度です。

常時微動測定の結果を表1に示します。固有振動数は、東西方向で11.0Hz程度、南北方向で6.9Hz程度です。最近の一般2階建て住宅の固有振動数は5.5~6.5Hz程度であることを考えますと、高い剛性を有する建物です。
常時微動測定の固有振動数から、建物の弾性剛性と建物の最大耐力を推定したものを表2に示します。
構造設計における剛性および許容耐力を表3に示します。
構造設計における値に対する常時微動測定による推定値の比率を表4に示します。但し、最大耐力と許容耐力、降伏変位と許容耐力時変位のそれぞれについて異なる事項ですので、単純に比較することはできません。

剛性について、東西方向も南北方向も構造設計における剛性よりも常時微動測定による推定剛性が高いです。
これは、木材の材料品質・乾燥・施工精度のばらつきなどを構造設計時に考慮するために「構造架構」の剛性(実質的には強度)を安全側に低減して設計したため、構造設計で算入していない土塗り壁の剛性の影響などであると考えられます。すなわち、①設計での想定以上に「構造架構」の施工精度が良く、②当該建物には実質的な剛性・耐力が設計値以上にある、などが考えられます。
常時微動測定の結果と、中地震及び大地震における必要耐力曲線としたものと比較します。
非常に高い性能を有することが分かります。構造設計時の剛性を併記しました。

実大振動実験の破壊概要と常時微動測定による固有振動数を表5に示します。
実大2階建て建物の振動実験では、固有振動数が5.0Hz以上の建物に対して、阪神大震災レベルの強い地震動を入力した場合に、内外装材に多少亀裂が生じた程度でした。

 

 

先進的な設計事務所や工務店などでは、この常時微動測定を木造住宅などの性能検証の方法のひとつとして利用しています。

新築の建物が建設されたときに測定して設計時の耐震性能を確認することに利用したり、改修の前後で測定して耐震性能が高まっていることの検証に利用したりされています。

測定対象も木造住宅や事務所のほか、社寺建築などの測定も実施しています。

教授  小原 勝彦