建物の隙間の大きさはどのくらい?(morinos建築秘話31)
建物には目に見えない隙間がいたるところに開いています。
例えば、床と壁、壁と天井の取り合い、コンセントや配管廻り、サッシ廻りなど、ピッタリ納まっていると思っても、実際には、コンマ数ミリの隙間が開いています。
この目に見えない隙間を計測するのが「気密測定」です。
有志の学生と一緒に気密測定をしてきました。
気密測定の仕組みは単純です。
下の写真は気密測定機を組み立て始めたところです。
真ん中にある白い筒は単なる強力な換気扇です。矢印の向きに空気を出します。
この換気扇に、後ろのグレーの筒を付けていきます。単なる穴の開いた筒です。この筒で、空気の乱れをなくしスムーズに空気の移動を促します。
この組み立てあがった気密測定機を開口部にセットして廻りをプラダンボードで塞いで目張りをします。
そうすると下の写真のように、換気扇の取り付いた筒の部分だけが穴が開いた状態になります。
筒に取り付いた2本のピンクチューブは、この筒を通り抜けた空気の量を測るものです。
よく見ると、もう一本ピンクチューブが、外に出て行っているのも見えます。このチューブで屋外の気圧を計測します。
そして、計測器にこれらのチューブと室内と室外の温度センサーもセットすると、気密測定機のセット完了(下の写真)です。
この状態で換気扇を動かし、室内の空気を外に追い出します。(減圧法という測定方法)
室内と室外の気圧を計測して、建物の隙間の大きさを測ります。
隙間が少なければ、気圧差が大きくなりますし、隙間がたくさんあると、いくら空気を外に出しても気圧差が付きません。
さて測定結果は、相当隙間面積 C値 4.4 c㎡/㎡、総相当隙間面積 αΑ 959 c㎡でした。
相当隙間面積C値の意味するところは、床面積1㎡あたり、4.4c㎡の隙間が開いているということ。
総相当隙間面積 αAは建物全体でどのくらい隙間が開いているかということです。
といわれてもピンときません。
ちなみにアカデミー本校舎は、過去の実習でも計測したことがありますが、C値は、8~10 c㎡/㎡程度。
(アカデミー本校舎の気密測定の様子はこちらのブログより)
アカデミー本校舎の概ね倍程度の性能です。(隙間が半分程度)
とすると、なかなかいいの?と思いますが、そうではありません。
現在の一般的な住宅で、C値 4~5 c㎡/㎡程度ですので、morinosは普通くらいの性能です。
特に基準はありませんが、気密住宅といわれるのはC値 2 c㎡/㎡程度。高気密住宅となるとC値 1 c㎡/㎡以下が目安です。
先月、私たちがプロジェクトで関わった近江八幡の住宅で気密測定をした時はC値 0.6 c㎡/㎡でしたので、やはり悪めです。
ですが、ここであきらめてはいけません。
morinosはいろいろな実習場所。
気密測定機の換気扇を動かした状態で室内を負圧にしたまま、いろんなところから入ってくる隙間風を探します。
特に大きいのは、木製建具廻り。よく見ると、外の光が漏れています。
ではこれらの隙間を今後パッキン材等で気密改修をしていくとどの程度性能向上が見込めるか、順番に目張りをして、それぞれの建具の隙間の大きさを確認していきました。
まずは、東のメインエントランスの両引き戸。養生テープで目張りをしていきました。
この状態で再度気密測定を行うと、C値は3.9 c㎡/㎡。αAは856 c㎡。
つまり、この建具だけで、959 c㎡ - 856 c㎡ = 103 c㎡の隙間があったということ。
建具の大きさは270 cm×220 cmの大開口。外周長さは4周で980cmですので、均等に隙間が開いていると、約1mmの隙間が全周囲にあるということです。
たった1mmと思うかもしれませんが、これだけで建物全体の性能に1割も効いてきます。
このように、建具一つづつの隙間を計測します。
次に、南側の3つの木製両開き戸も目張りをしてみます。
結果は、C値は3.3 c㎡/㎡。αAは721 c㎡。
ここでも、建具3か所で135 c㎡の隙間がありました。東エントランスほどではないですが、かなりの大きさです。
ではさらに、北側の2枚の片引き戸と西側の1枚片引き戸、排煙窓の目張りです。
結果は、C値は1.7 c㎡/㎡。αAは372 c㎡。4枚の建具で、349 c㎡もの隙間がありました。
特に大きかったのが収納庫の木製建具。200 c㎡近くあります。
ここまで目張りすると、気密建物と呼べる感じです。
今回のように隙間の位置がわかると対策も考えられます。
今後、メンテナンスも兼ねて気密パッキン施工や建具加工を行い、少しづつ改修できればさらに室内環境が向上します。
もうこの段階までくると学生も慣れてきて、私が見ていなくてもどんどん計測を繰り返していました。頼もしいですね。
morinosマニアック ----------------
アカデミーで使用している気密測定機は、室内外圧力差が50Pa以上ないと自動計測できません。
今回、設置して自動で計測開始・・・・・エラー・・・圧力差が出ないために計測できません。
そこで今回は、手動で換気扇の風量を調整して、圧力差を見ながら計測しました。
建具を全て目張りをした状態で、ようやく50Pa以上の圧力差が出て自動計測できました。
さて下の写真が、目張りを終えた最終段階の計測時の結果の表示画面です。
総相当隙間面積 αAは 372 c㎡。相当隙間面積 C値は2.9 c㎡/㎡となっています。
あれっ、さっき書いていたのはC値1.7 c㎡/㎡ではないの?と思いますが、実は分母にあたる床面積の取り方は気密測定では4種類あり、どの値を使ってもよいことになっています。
1.通常通りの床面積(吹き抜け部分は天井高さ2.1m以上あれば床に見込む)morinosでは129.04㎡です。
2.morinosのような基礎断熱の床下空間や小屋裏空間があると、その気積を仮想天井高2.6mで割って仮想床面積を足した床面積。morinosでは、166.26㎡になります。
3.morinosのような不規則な吹き抜けがある場合は2.6m以上の高さ分の気積を仮想天井高2.6mで割って仮想床面積を足した床面積。morinosでは、173.89㎡になります。
4.建物全体の気積を仮想天井高2.6mで割って仮想床面積を足した床面積。morinosでは、217.32㎡になります。
複雑な形状の建物や天井の低い建物など、各種建物を公平に評価しやすいので、私は4の仮想床面積を使うことが多いです。
上に書いた気密性能も、4の仮想床面積217.32㎡で算出した値です。
仮に実際の床面積129㎡で求めると、上の液晶仮面のC値 2.9 c㎡/㎡になります。(最終の目張りをした性能)
さて気密測定には、もう一つ着目すべき数値があります。
隙間特性値 n値です。上の液晶画面ではn値 1.54 となっています。
これは、隙間の形状をある程度予測するもので、必ず1~2の間の値になります。
1に近づくと空気の流れは層流域にあり、2に近づくと乱流になっています。
大きな穴があると乱流になりやすく、小さな穴が分布していれば層流になりやすいことから、穴の状態を表すと言われています。
つまり、傾向としては大きな穴がある場合は2に近づき、微細な穴が分散している場合は1に近づきます。(あくまで目安です。)
最終段階でn値1.54でしたが、目張りをしていない現状のmorinosは、n値 1.72 でした。やはり気密性能の向上によってn値が小さくなっていました。
ではmorinosの気密性能でどの程度の隙間風(空気が入れ替わる)が想定されるのか、計算してみました。現状のC値4.4 c㎡/㎡、n値1.72の値です。
美濃市の1月の平均風速は1.7m/s、平均外気温3℃なので温度差を17℃と想定すると、1時間に0.27回程度空気が入れ替わる計算(上の表の最下段の数値)になります。
多いか少ないかの判断の目安としては、
計画換気用の換気扇を回しっぱなしだと0.5回/h程度(気密が高ければきちんと狙った給気口から入る想定)、
アカデミー本校舎のC値10 c㎡/㎡で計算してみると0.61回/h(いろんなところからの空気の流入)です。
アカデミー本校舎でセミナーなど受けられた方だと、体感的にわかりやすいですが、外の寒い空気が入ってくるのが概ね半分程度の状況です。
もちろん風が強かったり、外気温が寒いと、隙間風も大きくなります。いろいろな状況での隙間風の量を計算してみました。
横軸に外部風速、縦軸に隙間風による換気回数を取っています。4色の色の線が外気温と室温との温度差です。
赤い丸印が先ほどの0.27回(風速1.7m/s、温度差を17℃)を示しています。
風が強くなると換気回数が増えますし、外気温が下がって温度差が付いても換気回数が増えます。
気温や風速は、私たちではコントロールできません。
隙間風を押さえるには、気密性能が大切というわけです。
ちなみ、建具の隙間がしっかり改修されて気密性能C値が1.7 c㎡/㎡になった場合の結果も見てみます。
換気回数が0.09回/hとなり、隙間風はほとんど感じない程度になります。
このmorinos建物自体が、いろいろな計測やメンテナンスの教材。
今後のmorinosの進化も楽しみにしてください。