外と内をつなぐ「建具」のデザイン(morinos建築秘話26)
morinosの建具のお話です。
建具というのは窓や戸や襖のことですね。日本の民家では、柱の間に入っていて、動かすことで多様な空間をつくり出すことから「柱間装置(はしらまそうち)」という言い方もするんですよ。
さてmorinosの建具は全て木製造作、手づくりのオリジナルです。使い勝手を考慮していろんな工夫をしています。
■メインエントランスの両引戸
まず東面のメインエントランスは「森の入り口」としてたくさんの人を大きく開いて迎え入れるために2.7m大開口です。
建具は、開けた戸が邪魔にならない引戸。閉じた時もmorinosの特有の「内と外との繋がり感」を失わせないように大きなペアガラスが入っています。
ガラスの周囲の枠を框(かまち)というのですが、引戸としての強度を確保しながら、重々しい印象にならないように寸法のバランスをとっています。
取っ手は、子どもも大人もみんなが掴めるように上下に長くしてあり、カバノキの質感をより意識できる「名栗仕上げ」です。
召し合わせ部分には「ピンチブロック」というゴムが入っていて、これが隙間風を防ぐのに役立ちます。
■南面の両開き戸
morinosの南面には三箇所も出入り口があります。こちらは両開きの扉。見た目はメインエントランスの引き戸と変わりません。あんまりいろんなデザインが混在すると疲れるでしょう?morinos建築の主役は左官壁なので、他はさりげない方がいいのです。さりげなく、そう、この扉には金物が隠れています。
扉がバーンと勢いよく開きすぎたり閉じたりして怪我をしないようにするための「コンシールドドアクローザー」です。閉じると、何も見えませんよね?どうです。さりげないでしょう。
■断熱排煙窓
この窓は建物内に火災が発生した際に、煙を逃すための窓です。……まあ、万が一の火災の時は、すぐに外に出れる建物なので、避難は一瞬で済むのですが、法律上この大きさが必要になっております。普段は閉まったままで、緊急時に外倒しになります。そして、開口部は温熱的にウィークポイントになりがち。ですのでこの建具には丁寧に「フェノバボード 」を入れてもらいました。最も断熱性能の高いフェノールフォーム系断熱材ですね。これで安心。
■ランダム格子のドア
見せる収納庫の扉です。……実はここは、もともと扉はありませんでした。左官壁に出入り口として引き戸があり、壁を通り抜ける動線だったのです。ですが工事も佳境の昨年末、来訪された隈研吾先生の「収納の出入口は左官壁に無い方が、より壁が引き立つので、南側に付け直そう」というアドバイスで一転、扉ができました。なるほど……確かに、左官壁はシンボルとしての意味が強く、主役です。出入り口は無い方がメリハリもあり、南側に出入り口があると、搬入搬出は距離的に楽かも……。
しかし柱のない「浮いたランダム格子」にどうやって扉をつける?ということでその日のうちに関係者で会議。次の日には黒い鉄骨を浅い棚にしながら構造にするという案でまとまりました。
できた扉がこちら。外側はランダム格子、内側は均一な格子です。床の穴に棒を落として止める「フランス落とし」で止めます。開けたときに扉の吊側でランダム格子がぶつからないように納めています。非常に素直なプランになったと思います。
■床下エアコンの引き込み建具
morinosは基礎断熱による床下エアコン空調を採用しています。設備というのは基本的に、普段使ってない時は見せたくないものです。よっぽど空間に馴染むデザインがされているものは違和感なく置けるけど、エアコンは大きいしいつもなかなか手強い。どうやって隠そうかと考えるのですが、下手に格子で隠したりするとエアコンから出た風がうまく室内に行き渡らずに、本来の性能が出ません。日本のエアコンは素晴らしい性能ですので、そのポテンシャルを遺憾無く発揮して欲しいところ。ですのでmorinosでは、エアコンを使う時は建具を全開に、使わない時は閉じて完全に隠すというコンセプトの下、引き込み建具を採用しました。仏壇をしまう建具によく使われるシステムですね。開いていても邪魔になりません。
■セキュリティキーボックス
どうですかこのさりげなさ。このセキュリティの機械、morinosに合わないですよね。だから完全に隠しています。隠し扉で板目も合っていますね。さすが澤崎建設は一流の大工さんです。
開けたり、閉めたりすることで、内と外の関係を変える機能をもつ「建具」。建具の世界は奥が深く、建具だけ極めようとしても一生かかっても足りないかも。建て具1つの中に、機能と性能と意匠が詰まっています。
正直言ってmorinosの建具の気密性能はあまり高くありません。まだ気密測定はしていないけど、お世辞にも高気密にはならないでしょう。片引きにして框を下げたり、柱に押し付けるようにして気密を上げる方法もありますが、今回は締まり金物を取り付ける場所がなかったり、付けることができても開け閉めに手間がかかるようになることから、空間構成と使い勝手のバランスを熟慮して、この仕様に落ち着きました。一般開放施設で、しかも「建具を開けっ放し」にして運用することが多いという想定で、1年間運用して見ながら、不足があればまた工夫できると思います。
1つの全体に向かって、機能・性能・意匠の良い塩梅を決めるのが、デザインですよね。