丸太の素性(morinos建築秘話2)
V柱の特徴あるmorinos(morinos建築秘話1)。今回は、V柱の丸太の素性について。
V柱の素材にヒノキ丸太を用いることで進んだ基本設計。2018年8月には、再度、隈研吾さんにお越しいただき、私たちの計画案を学生からプレゼンする機会をいただきました。
隈さんからは「学校の中で、実際の建物の設計が進み、学生がみんなで参加しているこれは世界でも類を見ない本当に素晴らしいことだと思う。さらに、世界中の建築教育では意匠と構造が分離しており双方の対話がないが、この設計は違う。夢のようだ。」とのうれしいコメント。
丸太に関しても「とてもきちんと設計が進んでいることに驚いた。特に、”収める以上のデザイン”というものを意識してくれている点が良い。こういった建物は顔が大事。今回はV字丸太だが、それを見たら誰もが”岐阜のアカデミーにあるアノ建物か”を思ってくれるというのは、この施設の目的にも合致している。」とのコメントもいただき、丸太の重要性が増してきました。
隈研吾氏と涌井学長とデデリッヒ教授と語ろう!「森林総合教育センター基本設計講評会」
そこで、morinosの顔となるヒノキ丸太は、アカデミー演習林から求めることに。
学生が試算した丸太の末口径で概算330mm(胸高直径450mm程度)、7mの通直な丸太。なかなかの上物が必要です。
林業と建築の教員合わせて6名で演習林に入り、林齢マップから目星をつけていたゾーンを物色。
15本程度の候補をマーキングしてきました。100年を超える立派なヒノキたち。まさにこの時のために、先人たちが丁寧に育ててきた木です。
さらに、5月に立木伐倒の前処理として立木乾燥を実施。チェンソーで根元の突っ込み切りを行い、通水をある程度遮断し乾燥させる技能です。
それから2カ月。7月末にいよいよ伐倒です。
立木を山の上側に倒す上方伐倒で、枝葉を付けたまま葉枯らし乾燥させました。上方伐倒は下方伐倒に比べ伐倒時の材へのダメージが少なく、また、後工程の集材もしやすいのが利点です。
通常は谷側に重心があるため、上方伐倒にはさまざまな技術が必要です。また材割れを防止し材の品質を確保するなど、細やかは配慮が必要です。この難しい伐倒は、林業教員はじめ、学生の有志によって実施されました。
さらに1本は、三ツ紐伐り(みつひもぎり)と呼ばれる伊勢神宮式年遷宮の御用材伐採などで披露される木の幹に3方向から斧を入れて伐り倒す技法で伐倒しました。
山の神に対する儀礼や、伝統の技術、安全管理など、中津川市の三ツ伐り保存会の方に指導いただきました。
チェンソーとは異なり、一振り一振りが木に食い込んでいき、まさに命を頂いている感触が忘れられません。百年の命を建物で継いでいかねばと心新たにしました。
次は集材です。
まずは適切な大きさに造材し、アカデミーの広場まで12本出してくるという大変な作業です。通常の集材と異なるのは、大径木、長尺材で、しかも大型林業機械が入れないということ。
さらに夏真っ盛りの酷暑のなか集中力を切らさないようにリスク管理を徹底しつつ、材を傷つけず丁寧に集材します。
こちらも、林業の先生、学生が頑張ってくれました。
集材された丸太は加工場に運ばれ、皮をむき背割りを施し乾燥していきます。
様々な個性のある丸太を選木し、建物のどの部分にどの向きで使用するかを決めていきます。木配りといいます。
三つ紐伐りの丸太は最も目につく東の端に配置して来場者に林業の話題提供に、節(成長のあかしの枝の後)の多い生き生きとした丸太は室内本体中央部に配置して屋根を支えるイメージで、それに合わせるV字の丸太も負けない太目の丸太を、、、といった具合に、丸太の個性に合わせて配置しました。
丸太の位置が決まれば、大工さんの仕事です。一本ずつ個性を読み取り、墨付けして刻んでいきます。予備の丸太はないため、慎重に作業を進めていきます。
林業の先生たちも、加工場を訪れ、自分たちが出してきた丸太の様子を我が子のように見ています。
加工している大工さんからも「丸太柱が平面でも立面でも斜めになっているうえに、1本1本の丸太の形状が微妙に違う。一筋縄ではいかない。とにかく墨付けまでが一苦労。でも、大工としての腕の見せ所だと思うよ」との感想。
加工された丸太は再度アカデミーに戻ってきて、建物を支える重要な位置に据え付けられます。
建設途中には隈研吾さんにもお越しいただき、状況を確認にただ来ました。
隈さんからも、期待以上に迫力があっていい建物になる。この特徴ある丸太は少し薄化粧して白染めにすることなど打ち合わせをしました。
そして、現在のmorinos。
いろいろな手を経た丸太は、立派に立ち上がり、来訪者を迎える顔となりました。
下の丸太が、三ツ紐伐り丸太です。どこにあるかわかるかな?
准教授 辻 充孝