雨樋のデザインと機能、雨水タンク(morinos建築秘話12)
morinosに降った雨を処理する雨樋、雨水タンクのはなし。
morinos建築秘話1で紹介した通り、プランニングを始める前に、既存の情報センターとmorinosに降った雨をどう処理するか。ここを片付けてから計画がスタートしました。
基本的な考え方は大きな雨樋で雨を受ける谷樋を形成して、雨水を処理することに。木造建築は水分が大敵です。(morinos建築秘話11参照)
いろいろ形状を工夫して、出来上がった軒樋がこちら。カーブと直線が混ざったデザインです。
計画初期段階では、単純な四角い箱で計画していました。ですが、いろいろな試行錯誤がありこのデザインに決まりました。
この雨樋デザインも前回紹介した破風板(morinos建築秘話11)同様に一般の来場者はまず目がいかない部分。ですが、設計者はこだわらないといけない部位です。
「ここも、大切な部位デザインだよね」という設計者間の共通認識を得て、私たちの提案を隈事務所とやり取りをして検討していきました。この雨樋は、既存の情報センターのヴォールト屋根と、直線的なmorinosの屋根が合わさる境界を受け持つ大切な要素。これらのデザインをうまくつなぐ必要がありました。
そこで、考えたのが必要雨量(後述)を受ける基本性能の確保しつつ、情報センターの丸い屋根から連続する曲面がそのまま直線となってmorinosの屋根につながる一筆書きのようなラインを構成する雨樋です。
下の写真の雨樋は、曲面から直線に流れるように連続していませんか?(morinos建築秘話11で触れた破風板のシャープなデザインも注目)
この雨樋で連結された空間が下の写真。丸みを帯びた樋の印象が柔らかいですね。
樋の色もいろいろ考えました。
子どもたちの利用も多いことから、赤や青を基調にしたカラフルな色あいも検討していましたが、昨年末に隈さんが現場に来られた際に「連結空間の自然な流れが感じられるように、屋根の色にそろえるのがいいよ」とのアドバイスもあり、屋根と同色に。
樋が主張しすぎない連続感のある軒下空間になりました。
隈さんの現場指導緒ブログはこちら 「隈研吾先生によるmorinos建築施工指導」
morinos側から見る(下の写真)と直線のラインが効き、トップライトと屋根を雨樋の隙間から漏れる光で、少し明るめの軒下空間です。徐々に陰影が付いてくる既存情報センターの壁面に、黒く塗装した収納棚をかなり確保しましたので、V柱の表の顔のデッキに相対する裏方仕事の活躍場所になるはずです。
竪樋も鉄骨で造り、雨樋と竪樋で独立した構造となっています。メンテナンスで人が乗っても大丈夫です。
さらに、竪樋で集められた雨水の一部は、地下に埋められた921Lの雨水タンクにつながり、手押しポンプでくみ出せます。(一般的な浴槽は180L程度ですので、お風呂5杯分程度の量が貯めれます)
ポンプを漕ぎすぎるとタンクが空になって、次の雨まで水を出すことができません。雨の流れを体感できる仕組みです。子供たちがひたすら漕いでいる姿が目に浮かびます。
この雨の流れは、ドイツのロッテンブルク林業大学のデデリッヒ教授から頂いたアイデアをもとに考えたものです。
デデリッヒ教授と隈さんの基本設計講評会の様子はこちら 隈研吾氏と涌井学長とデデリッヒ教授と語ろう!「森林総合教育センター基本設計講評会」
個々の建物を独立した状態で維持するため、雨樋と建物は連結していません。そのため、建物と樋の間に多少の隙間が開いており、降雨時にデッキ面を少し濡らします。木材劣化は大丈夫でしょうか。
年間降雨日数は岐阜県で概ね100日強(ちょうど全国でも中間ぐらい)、確かに雨は大敵ですが、それ以上に劣化原因の多くは、夜露によって毎日、湿ることが繰り返されることです。夜露を防ぐには、天空に向かって熱が奪われる放射冷却を防ぐことで、屋根を掛けることが有効です。(ここは全て屋根下です。)
アカデミー本校舎のデッキも、多少雨が吹き込む屋根下と、屋根が無い部分で劣化具合が全く異なります。屋根で雨を防ぐことも重要ですが、夜露を防ぐことが効果テキメンです。
ですが雨粒も入り込まない方が当然使い勝手もよくなるので、運用の工夫で、いろいろ考えられそうです。
このブログの最後に、最近顕著になりつつあるゲリラ豪雨に対する雨処理についてです。
--------------------以下、マニアックすぎるので関心がある方だけ見てください。
雨量の目安を独法 防災科学技術研究所(通称NIED)より確認すると、
25mm/h 大雨洪水注意報発令基準
50mm/h 都市機能で想定されている排水機能の限界値
187mm/h 日本における時間雨量最高記録
300mm/h 10分間雨量における最高記録(50mm/10min)
上記の過去のデータを参考に、今回のよな施設では180mm/h程度を想定して樋の設計をすることが通例です。
今回の樋は、既存の情報センターの雨と、morinosの雨をダブルで受ける谷樋となっています。
2つの建物の屋根を合わせると、屋根の水平投影面積は780㎡と巨大です。もしここに180mm/hの雨が降り続けると、1時間で約140 m3もの雨を処理しないといけないことになります。
これを軒樋、竪樋の両方で、きちんと処理できるかを考えないといけません。
概算で、メインの竪樋が6本(竪樋は加えて端部に1本づつの計8本)あるので、1本あたり130㎡分の屋根の雨を処理する必要があります。
ここに降り注ぐ降雨量は、0.0065 m3/sec(降雨強度180mm/hにおける1秒間の降雨量は5.0×10^-5m/sec、ここに130㎡を乗じると降雨量が求まります。)
今回の軒樋の排水量を計算します。
計算は複雑なので、計算過程は省略しますが、水勾配1/1000として、軒樋の1秒当たりの排水流速は、0.945m/s。
ここに、排水断面積と流量安全係数1.5倍を考慮すると、
軒樋の排水能力は、0.06 m3/sec となり、およそ10倍近い排水能力があります。300mm/hのゲリラ豪雨でも大丈夫です。
次に竪樋の排水量も計算します。
竪樋の落とし口の流束は、重力加速度9.8m/sec^2として、約1.3m/sec。
ここに、竪樋の流量係数0.6、150φの断面積から求めると、
竪樋の排水能力は、0.019 m3/secとなり、3倍近い排水能力となります。
ただし、これらは健全な状態での計算のことで、落ち葉が積もったり、下水本管の許容量をオーバーすると、この性能は発揮できません。樋は人が乗れる強度を確保していますので、定期的なメンテナンスも重要です。
万が一、落ち葉が積もって雨があふれ出しても、下は半屋外の防腐剤注入の木デッキ。建物本体からは離れています。そのサインが見えたら樋の掃除ですね。
准教授 辻充孝