活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2022年02月18日(金)

【地域連携】美濃会館基本設計提案プロジェクト




和紙の商いで栄えた美濃の中心街「うだつ上がる町並み」は高台にあり、そこから国道の方に降っていくと、擁壁に沿って降りる階段があります。その下にひっそりと建つRC二階建の建物が美濃市新町の「美濃会館」です。市民の人権相談や憩いの場として長く親しまれるこの建物は、一大行事「美濃まつり」の花みこしを飾るために新町の全世帯が集まって、和紙の花を竹竿につける「花巻」を行う場としても、地域交流の大切な意味を持っています。

2021年11月、美濃市役所福祉子ども課の方がアカデミーに来校され、「美濃会館」の建て替えに際し、アカデミーの協力を仰ぎたい旨の相談がありました。老朽化と耐震性能不足による建て替えで、新しい建物は、木造平家建てを想定しており、現在の機能を取捨選択しながらコンパクトにしたいとのこと。この日は計画の概略をお聞きし、学生が設計提案する協力体制の形を提案しました。

森林文化アカデミー建築専攻では、こうした地域からの建築相談を、学生が実際の設計案件に携わる貴重な学びの機会として捉えています。「道の駅にわか茶屋」も美濃市と合同で行った設計プロジェクトです。今回希望者を募ったところ、一年生の斎藤真梨乃さん、橋本剛さん、名和史緒梨さんが手を上げ、「美濃会館建て替え計画」基本設計提案プロジェクトが始まりました。

早速、2日後に現地「美濃会館」の踏査を実施。現地で担当の方や館長にお話を伺い、既存建物と敷地周辺状況を確認、改めて現在の利用状況や、建て替えに際しての要望をお聞きしました。

 

要望と留意事項

・木造平家建て
・県産材を使用したい
・駐車場不足と旧式便所の改善
・花みこし製作及び、祭りの前の待機設置場所として利用
・体操や生涯学習の場
・建て替えコスト、運用コストの両面を抑えたい
・補助金との兼ね合いで進行するため、計画そのものがあくまで検討段階。

制作成果物

・平面プラン
・外観のわかるパースなど

 

この日の要望と現地踏査をもとに、一ヶ月後、関係者に対して学生ひとり1案ずつの提案をさせてもらうことになりました。

三人とも外部の案件で設計を行うことが初めてのため、敷地図のトレースから始め、プランの考え方、スケッチの描き方などを教員から指導を受けながら、ひと月後には三者三様の案が仕上がりました。

12月に担当、館長に対して各自一案ずつプレゼンし、全ての案に対して「実現可能な案にまとまっていて驚いた」「全部採用したいほどだ」など好意的な意見をいただきました。この日に提案した3つの案を持ち帰り、関係部署で1案に選考してもらう流れになりました。

年末にメール連絡があり、3案を市長に見せたところ斎藤案に決定し、いくつかの追加要望があることがわかりました。

年明けに、美濃市役所で打ち合わせを実施。以下の追加要望がありました。

市長からの追加要望

・建物形状にアクセントがあるのが良い
・屋根形状は良い(陸屋根は避けたい)
・天井材はなしがいい(後々の維持補修等を考慮)
・室内の土足利用は避けたい(室内外で靴は履き替えたい)
・会議ができるような空間が欲しい

 

要望を踏まえ、最終成果物を2月初旬に提出することで合意があり、その際は市長へ直接プレゼンの機会をつくっていただけることになりました。

斎藤案が選定されたことを受けて、斎藤さんを中心に三人で役割分担し、プロの仕事と遜色のない成果物を仕上げることを目指します。方針や意匠を決めるのは斎藤さん、大空間の屋根を支える小屋組の構造検討と3Dモデル作成を橋本さん、外壁の素材の検討や面積等の情報を名和さんが整理する形で、短い時間の中、基本設計をまとめあげました。

 

2月10日、美濃市役所大会議室で、市長と美濃会館館長、アカデミー副学長と事務局長を含む関係者に、斎藤さんが中心となってプレゼンを実施しました。

案は、多目的室と集会室を60度の角度でホールを介して繋ぐ木造平家建てで、変形した難しい敷地形状でもポケットパークのような植栽外構のあるプランです。大空間を実現するための構造の工夫や、祭りの前日に完成した花みこしを外から見えるように展示できる大開口、車椅子でそのままトイレを利用できる土間などが市長からも高く評価されました。収納スペースの確保などの意見をいただき、データを成果の提出となりました。

 

今回のプロジェクトでは、実際の設計実務と同じ流れと作業を経験したことで学びにつながり、且つプロレベルの成果物を出すことができました。「美濃会館」建て替え工事はスケジュールや予算などまだ未定ですが、実現に向けて進む際には、改めて学生と共に関わり、良質な木造建築を増やすことで、町に寄与できると思います。

 

 

木造建築教員:松井匠