木工を仕事にしたいと考えている人へ 〜森林文化アカデミー・木工教員からのメッセージ①〜
いま、木工を仕事にしたいと思っている人は、夢を抱く一方で漠然とした不安や疑問を抱えているのではないでしょうか。
木で小物や家具を作りたいが、食べて行けるのだろうか。
海外からこれだけ安い物が入ってくる今、何をどう作れば良いのだろう。
この先AIやロボット技術が更に進めば、木工職人自体が必要とされなくなるのではないか。
これから必要とされるのは、どんな人材なのだろうか・・・。
▼厳しい状況が続く、製造業としての木工
木工を学べる場は職業訓練校系の学校、芸術系の大学、民間企業が営む技術学校などいろいろありますが、森林文化アカデミーが他の学校と大きく異なるのは、極論すれば「製造業ではない木工」を担う人材を育成していることです。それは木工のニーズがいま大きく変わりつつあるためです。
木製家具の輸出入の統計データを見てみると、2017年の日本から海外への輸出額は約40億円。一方、輸入額はなんと2500億円にものぼります。経済のグローバル化に伴い、材料が安く安定的に入手でき、人件費が安い国で大量に家具が作られ世界に供給されるようになったためです。国別にみるとトップ3は中国、ベトナム、マレーシアの順です。統計データを持ち出すまでもなく、いま大手量販店などに溢れる安い家具、いわゆる「ファストファニチャー」を見れば分かりますね。
さらに日本では人口減少が始まり、以前ほど家具や木工製品のニーズはなくなってきました。世界ではまだ人口増加が続いているので、日本の人件費が下がったり、円が相対的に安くなったりすれば日本の家具や木工品も今後世界へもっと輸出するチャンスがあるかもしれませんが、製造業としての木工はこれからも厳しい時代が続きます。
▼さまざまな分野に木工の新たなニーズ
一方、国内では木工への新たなニーズが生まれています。
モノ消費からコト消費へと言われる中、木工も製品を買うだけではなく作ってみたい、趣味として楽しみたいという人が増えています。日本人だけでなく急増する海外からの観光客も、日本らしい体験を求めています(日本の木工技術は世界的に有名なのです)。また、子育て支援策として親子の木工体験を実施したり、木のおもちゃをプレゼントしたりする自治体が増えてきました。
つまり製造業としてではなく、教育産業、観光産業、福祉産業として、木工に新たなニーズが生まれているのです。
▼足りない人材とは
これに対して現場には「作る技術者」はたくさんいるのですが、新たなニーズに対応して「つなぐ人」「プロデュースする人」がいないのが課題です。
相手の求めるニーズを理解して、その土地にある材料や技術をつなぎ、楽しい木工プログラム(コト)や魅力的な木工製品(モノ)をプロデュースする、そのような役割が求められています。
この役割をこなすには、「作る技術」だけ持っていては足りません。2つ、3つの分野の知識や経験を持ち、それらを組み合わせることで仕事が成り立ちます。木工と関係ない分野から転職してくる人にとって、これまで培ってきた技術を活かせるので、有利な条件と言えます。
森林文化アカデミーでは、このことを意識した教育を行っています。2年の間に、基本的な「作る技術」を学ぶだけでなく、「森林や木材の知識」、「人に伝える技術」、「教える技術」を学びます。
▼ニーズが高まる新しい木工〜グリーンウッドワーク
新しいニーズについて、具体例を挙げます。
森林文化アカデミーでは「グリーンウッドワーク」という、伐ったばかりの生木を人力の道具で加工して小物や家具を作る木工を採り入れています。製造業の現場では、しっかり乾燥させた木材を機械で加工するので、いわば製造業とは対極の木工と言えます。しかし、いまこの木工へのニーズが非常に高まっているのです。全国各地のさまざまな団体から、グリーンウッドワーク講座を実施してほしいとの要請が絶えません。ある有名な木工房からは、「グリーンウッドワークを事業の柱の一つに据えたいので、アカデミー卒業生をスタッフとして派遣してほしい」との求人まで届いています。
理由は、人力の道具だから初めての人でも安全に楽しむことができる、その土地の木を生かしたものづくり講座ができる、日本で昔から使われてきた木工品を作る体験ができるなど、先に挙げた教育産業、観光産業、福祉産業などの新たなニーズに応えられるキラーコンテンツだからです。
グリーンウッドワークは身近に生えている木を材料に用いるので、森林や樹木についての知識が欠かせません。森林や木材の専門家が教員として揃っている森林文化アカデミーだからこそ学べる木工だと言えます。
アカデミーではさらに、教員と学生がこのグリーンウッドワークのハード(使いやすい道具など)とソフト(分かりやすいテキストなど)の開発に取り組んでいます。多くの人に楽しんでもらえる環境を整え、新たな市場を作り、ひいては新たな雇用(=卒業生の働く場所)を作るのが目的なのです。使いやすい道具や分かりやすいテキストができれば、日本国内のみならず世界に市場を広げることさえ可能だと私は考えています。
▼こんな人材を育てたい
グリーンウッドワークを一層普及させるためには、たとえばこんな人材が必要です。関心ある人は、ぜひ森林文化アカデミーの門を叩いてほしいと思います。
「生木の供給システムを作れる人」
趣味の木工の市場が広がるためには、都会に住んでいても手軽に木材を入手できる仕組みづくりが欠かせません。システム作りと聞くとずいぶん大がかりで難しそうに感じるかもしれませんが、例えば海外には新鮮な生木を真空パックしてユーザーに届けるビジネスを始めた人がいます。
「ユーザーに使いやすい道具を開発できる人」
優れた鍛冶屋と組んで新たな道具をプロデュースする立場でも良いし、自ら木工技術を学んだ上で鍛冶屋を目指すのも良いと思います。新たな木工ニーズに応えられる道具はまだまだ開発の余地があり、良いものを作ることができれば世界に売り込めます。海外では、グリーンウッドワークに使う斧に魅せられ、鍛冶屋で数年間修行をした後に自ら独立して斧を作り始めたという若い女性(!)がいて、世界中から注文が殺到しています。
「語学が堪能で木工技術にも通じたコーディネーター」
海外から著名な木工家を招いて講座を開いたり、日本の木工文化や技術を海外へ紹介したりする仕事です。日本の木工技術の高さは世界的に有名で海外からの関心が高いのに、いま国内にはこのような仕事を担える人材がほとんどいないのが現状です。
▼最後に
実は私自身も30歳から木工の世界に入った転職組です。大学では国際関係学を学び、20代はテレビ局で報道番組を制作し、30代はイギリスで5年間家具職人をしていました。私はこの「語学・海外経験」「分かりやすく伝える技術」「木工技術」の3つの技術を組み合わせることで、自らの仕事を特徴あるものにしています。
だからこそ、別の職業を経て木工に入ってくる方、歓迎です。これまでの経験とアカデミーで学ぶ木工技術とを組み合わせ、きっと強みにできるはずです。一緒に木工の新しい市場をどんどん開拓していきましょう。
経済のグローバル化、AI、ロボット。先が見通せない時代ですが、30年後も100年後も木工技術者は必要とされ続けると私は考えています。経済がグローバル化すればするほどローカルの伝統文化に価値が生まれ、先進化すればするほど伝統の基本技術を学ぶ必然性が生まれます。木工に夢を持って飛び込んで来てくれる人を待っています。
木工を仕事にしたいと考えている人へ② もあわせてお読みください。