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2018年10月01日(月)

小菅村:タイニーな村の地域資源の活かし方

森林環境教育専攻の科目「森林空間利用プログラムと事業化」で山梨県北都留郡小菅村を訪れました。

小菅村は多摩川源流に位置し、森林面積が村の約95%を占める山間の小さな村でありながら、隣接した東京都内の大学や企業など連携した研究や事業プロジェクトが数多く生まれるユニークな土地柄です。 今回は、最近注目を浴びているタイニーハウスプロジェクトや、そのバックグラウンドとなる小菅村の事業政策のスタイルと地域資源を生かした取り組みついて学びました。

 

最初に、道の駅『こすげ』に隣接するデモンストレーション用のタイニーハウスに体験宿泊しました。 タイニーハウスとは、持続可能な社会の生活スタイルとして提案された地球環境にやさしく小さくても快適な家です。

小さな空間の中で感じる建材や家具の無垢材の存在感は、より近く密度が高く自然の中にいるような居心地です。

使わない時には壁の一部として収納できるテーブル・コンパクトで機能的なベッド・部屋の仕切り壁を排除し高い天井を活かした用途ごとのスペース。小さいのにそれを感じさせない快適な空間です。限られた空間に美しさと機能がぎゅっと詰まったタイニーハウスの魅力を存分に感じることができました。

 

翌日小菅村役場で、プロジェクトの発案者である建築家の和田 隆男さんにタイニーハウスのプロジェクトについてうかがいました。

和田さんは小さな小菅村だから『できること』と『できないこと』に気づき、今あるリソースを工夫しながらこの課題を打開しつつあります。最近、建築家の和田さん自ら小菅材の天然乾燥の研究を試行されているそうです。 効率を考えると建築材の天然乾燥は敬遠されがちです。しかし『少量生産で時間はかかっても天然乾燥して着実にストックを増やしてゆき、タイニーハウス や災害時など必要な時に使う』というスタイルにたどり着きました。

 

コンパクトな村で地域材を需要・供給する方向性は、タイニーハウスの省スペース・省資源・省エネを工夫する思想にマッチしたようです。それにいち早く気づいたからこそ、大量消費型のスタイルではなく、自分たちの規模に応じた循環的な森林資源の使い方のビジョンを描くことができたのではないでしょうか。

 

他にも和田さんが設計された小菅村に点在する工夫を凝らした木造建築をいくつか見せていただきました。

役場の裏手 省スペースで考えられたデザイン

小さな軒のような形状は木の美しさを雨水の汚れから防ぐだけでなく、『ツバメがえし』の機能を兼ねています。ツバメに向けた「ここに巣を作らないでね!」というサインです。

体育館とは思えない一階の明るさと開放感 正面にそびえる大木は地域住民の寄贈

村の公共の体育館。安全性を考慮した建具を使って明るく、内外両方から見通し良い開口部にしています。正面には地元から寄贈された樹齢百数十年のヒノキを、立木の時の存在感を残してシンボルとして使っています。自分の提供した大切な木が御神木のように建物を守っているようで寄贈した方は訪れるたびきっと誇らしく嬉しい気持ちになりますよね!

 

公民館の外観

最後はリノベーションされた公民館・図書館。丸太の素材を生かしたまま建物の2階と3階の間のテラス吹き抜けにランダムに配置し、古く無機質だった建物を見事に蘇らせました。内側の図書館の窓から見るとまるで森の中にいるよう!?  塗装のばらつきは偶然から生まれたそうですが、より自然に見えたのであえてそれを活かしたそうです。

 

昼食のために道の駅に戻る途中で山の斜面に目を向けると、一風変わった景色が視界に飛び込んできました。

小菅村の特徴的な畑風景

山の南斜面一面に畑が広がっていました。理由を伺うと、日照時間が短い山間の地で作物を取るための知恵だと教えていただきました。

この畑は急な斜面のため慣行農業用の機械は入らず、手作業で耕しているそうです。また、耕すときに土壌が下に流れ落ちないように、斜面の上から下に向かって鍬を下ろさないといけないとのこと。そのため、平地での作業以上に大きな負荷のかかる作業です。お金で食べ物を買う時代では忘れがちですが、安定した食糧を得る大変さに改めて気付かされます。

 

 

道の駅『こすげ』に戻り、施設内の『源流レストラン』で昼食へ。地域の食材を使ったパスタとピッツァをみんなでシェアしながらいただきました。

山女魚の魚醤を使ったイカ墨パスタ

とても美味しく、またアイデアにも感動したので、得に印象的だった3品をご報告。

まず、最も印象強かったのが『山女魚のアンチョビピッツァ』。アンチョビ=カタクチイワシの固定観念があったので、このアイデアとの出会いは非常に刺激的で感動しました。ただ、それと同時にジャガイモの美味しさにも感動。調べてみると『富士種』という江戸時代からの伝統品種を使っているとのこと。伝統品種を受け継ぎ栽培している農家の人に感謝です。

続いて、『フレッシュトマトのマルガリータ』。この品を最初に一口食べたときに、思わず「トマトが美味しい!」って言葉がでました。シンプルなマルガリータなだけに、素材の味がはっきりとわかります。あとで調べて、小菅産のトマトを使っていると知り、小菅産を見る目が変わりました。

3品目は、山女魚の魚醤を使ったイカ墨パスタ。魚介の旨味がはっきりと感じられました。魚醤と聞いても使い方が浮かばなかっただけに、実際の料理を食べることで使い方のイメージができたのも良かったです。

 

 

昼を終えて、役場へ戻ると、小菅村の船木村長が迎えてくださいました。

小菅村の船木村長から今の小菅村の活動を聞く

非常に謙虚な口ぶりながらも時折冗談を交えて話されていて、とてもユニークな方だというのが第一印象でした。

会話は、嵯峨先生がスタッフとして参加されていた研修に船木村長が参加していたという思わぬ縁の話で盛り上がった後、村の目指す姿の話に広がっていきました。そのお話からは国や地方の財政の赤字化が進み、農山村地域に還元される財源がさらに厳しくなった場合を見据え、その中で小菅村を持続させていくための対策を真剣に考え、実行している様子が伝わってきました。その取り組みの一つとして、2018年5月に小菅村では『こすげ村人ポイントカード』という制度を運用開始したとのことでした。

船木村長のお話からは、これからの農山村地域を持続させていくためのヒントをたくさん伺うことができました。お忙しい中、ありがとうございました。

 

 

役場を出た後、自然文化史研究会の事務局長である黒澤さん案内の元『植物と人々の博物館』見学させていただきました。この施設は伝統的な雑穀栽培に関する研究成果が展示されていました。雑穀を中心とした展示の収蔵量に驚きです。

伝統野菜の美味しさを味わった後だけに、この活動の重要性を強く感じ、活動されている方々に感謝しつつ、今後も長く継続してほしいと思いました。

植物と人々の博物館の展示風景

今回の小菅村訪問は、色々なアイデアに触れることのできる刺激的な内容でした。

 

報告:石川麻衣子、菊池拓也(森林環境教育専攻1年)

構成:新津裕(森林環境教育専攻  教員)