こんなん咲いてました97
ただいま美濃周辺ではソメイヨシノが満開です。この週末は花見で過ごされる方も多いのではないでしょうか。桜は日本人の心、否定はしませんが、ソメイヨシノが咲く時期と重なるようにして咲く美しい花もあると思うのです。今回はそんな花をご紹介。
長良川の河川敷を橋の上から眺めていると、満開のソメイヨシノの隊列を圧倒するように手前にそそり立つ大きな木があるのがわかります(写真1)。もちろん植えたわけではなくて、自然に生えて大きくなったものです。この木の名前はコゴメヤナギ。「コゴメ」とは、植物の名前につけられるときには通常「小さな」という意味で使われることが多いのですが、この木は樹高20mを超えることも珍しくなく、ちっとも「コゴメ」ではありません。小さいのはおそらく花の集まりである花序なのでしょう。
河川敷の個体をみると、木全体が黄色く見えます。新芽が芽吹いて萌黄色になったようにも見えますが、それにしては黄色が濃いですね。これは若葉ではなくて花が満開だからです。
同じ長良川の別の場所ではコゴメヤナギが2本が隣り合って咲いています(写真2)。しかしよく見ると右側の木の方は樹冠が黄色っぽくて何だかまばらな感じ、左側の木は緑色が密な感じです。この違いはどうして生じるのでしょう。
近寄ってよく見ると右側の木の花序(花の集まり)では黄色い葯が見えています。中には裂開して花粉が出ているものもあります。雌しべは見当たりません(写真3)。逆に左側の木の花序を見ると雄しべはなくて代わりに雌しべの先の白っぽい柱頭が点のように見えます(写真4)。
つまり、左の木が雌で、右の木が雄なんですね。並んで生えているとは、なんと仲のよろしいことでしょう。これなら交配には困りそうにありませんね。
それぞれの花を拡大して見てみましょう(写真5)。ヤナギの場合花弁と萼は退化してしまい、毛むくじゃらの苞と腺体、あとはそれぞれ雄しべと雌しべがあるのみです。青い定規のひと目盛りが1mmなので、1個の花がいかに小さいか分かります。花弁がないので地味に思うかもしれませんが、花粉が黄色くて目立つからか、訪花昆虫は多いように思います。写真を撮っている間にもひっきりなしにアブやミツバチが訪花していました(写真6)。雌花は花粉がないので蜜だけが報酬だと思うのですが、どのくらい出ているのかは分かりませんでした。また時間を追って観察してみたら面白いかもしれません。
河川敷を見渡すとそこかしこにヤナギが生えています。河川敷の樹木は増水時にゴミや流木をひっかけ、土砂を堆積させて河道を狭くしてしまうので、河川整備では伐採されることも多いですが、これだけ大きな木があることで、多くの生きものがそれを利用していることもまた事実だと思います。多くの昆虫がヤナギを食草にしていますし、河川敷のヤナギでクワガタを探したことのある方もいると思います。1本のヤナギは多くの生きものの住みかになっているんですね。
あえて桜の花真っ盛りのこの季節、多くの生きものに思いを馳せながらヤナギでお花見をするなんて風流だと思いませんか?
教員 柳沢直