隈研吾氏と涌井学長とデデリッヒ教授と語ろう!「森林総合教育センター基本設計講評会」
今年2月に隈研吾氏をお呼びして行った設計WSからスタートした「森林総合教育センター(仮称)」の設計。そのときに決まった基本計画を元にさまざまな検討を経て、基本設計ができてきました。そこで本日改めて、隈研吾氏と涌井学長をお呼びして講評会と意見交換が行われました。
講評会には、隈研吾建築都市設計事務所の長井宏憲先生と、岐阜県林政部長の高井氏に加え、スペシャルゲストとしてはるばるドイツロッテンブルグ林業大学からルドガー・デデリッヒ教授にもお越しいただき、錚錚たる顔ぶれです。
この企画はアカデミーの授業「森林文化」の中で行われており、主任担当の川尻副学長から説明の後、いよいよ開会です。
まず開会の言葉を涌井学長から。「今日は学生の皆さんと大いに語り合いたい。遠慮なく思ったことを発言してほしい。」
「森林総合教育センター(仮称)」は一体どういう施設なのか?代表運用者で森林環境教育専攻教員の萩原ナバ先生からプレゼンいただきました。「全ての人と森をつなぎ、森と暮らす楽しさと、森林文化の豊かさを、次世代に伝えていく。そのための施設にしたい。」
次に、これまでの設計経緯について木造建築の辻先生から解説があり、そのあとでいよいよ基本設計案の発表です。
2月から今日まで、隈事務所とナバさんとアカデミー建築チームが、何度も打ち合わせ、検討を重ねてきた成果を発表しました。
まず、2年生で構造設計を志す坂田信くんが、構造解析によってこの建物が地震や風圧に耐えることを証明します。
「構造材の大きさを樹種から検討し、加力時の傾きを1/120red以下に抑えることで、安全を確認できました。」
続いて全体設計を担当した大上さんから、3Dモデルと素材実物サンプルを用いてのプレゼンです。
「この建物の一番の特徴である丸太のW型ファサードの力強さを際立たせるために、屋根の収まりは素直に木口を見せるデザインを採用しています。」
そしていよいよ講評。
隈研吾氏からコメントをいただきます。
「とてもきちんと設計が進んでいることに驚いた。特に、”収める以上のデザイン”というものを意識してくれている点が良い。こういった建物は顔が大事。今回はV字丸太だが、それを見たら誰もが”岐阜のアカデミーにあるアノ建物か”を思ってくれるというのは、この施設の目的にも合致している。」
「施設利用の目線で考えると、皮付きのリブは見込み寸法を小さくした方がいい。視線を遮る可能性があるから。」
「積雪を考慮して樋に融雪ヒーターを。」「グレーチングを手作りにしては?」
非常に具体的で、適切で、建築的な指摘の数々です。どの指摘もきちんと解決に導くことができるよう、アドバイスを含めた講評をいただきました。
涌井学長からは「この建物は、将来の増築も視野に入れるべき。運用もその気概で臨んで欲しい。」
「建物周囲のランドスケープが非常に大切。」「この施設はいつも綺麗に使うように運用して欲しい。」
など、一回り大きなスケールで講評いただきました。
森と人との親和性が高いドイツのルドガー・デデリッヒ教授にもコメントをいただきました。
「”生活”とは”自然が生きている”ということを含む」「木の他に、水を意識したい。雨樋に集めた水を見せれるようにしたらどうだろう」「理解することと、把握することは違う。把握するには触る必要がある。触れる丈夫さを大切にした施設にして欲しい。」
デデリッヒ教授からは、ドイツの人々が自然と近い関係にあり、その暮らしと自然が融和していることを伺わせる講評をいただきました。
アカデミーの「先端建築学」で素材論を展開してくださっている長井先生は、設計・模型・プレゼンをお褒めいただきました。
ここで会場の学生さんからも質問や意見があがります。
「動物の剥製を置くには、棚が狭すぎるのでは。剥製は日光に当てると傷むので、その辺りも考慮して欲しい。」との意見に、
「剥製のことまで想定していなかったので対応したい。今後こういった対話を重ねて、色々な意見をいただきながら、実施設計の中でみんなが利用しやすい建物にしていきたいと思う」と答える大上さん。設計者として満点の回答だと思います。
休憩を挟み、第二部は涌井学長と隈研吾氏を中心に、近くを囲うようにして座る配置でフリートークが始まりました。
進行は涌井学長です。
まず今回の建物についての印象を今一度お聞かせくださいと隈研吾氏に聞くと、
「学校の中で、実際の建物の設計が進み、学生がみんなで参加しているこれは世界でも類を見ない本当に素晴らしいことだと思う。さらに、世界中の建築教育では意匠と構造が分離しており双方の対話がないが、この設計は違う。夢のようだ。
この設計プロセスは先導的なのでドキュメンテーションとして出版したほうがいいと思う。バイリンガルな本にしたらいいのではないか。」と設計プロセスを含めて、激賞いただきました。
デデリッヒ教授に隈研吾氏が、ドイツと日本の木の文化の違いについて訪ねるシーンも。
「ドイツは森も木も”守る”という意識で利用する。」とデデリッヒ教授。材木になる木が、むしろ余ってしまっている日本の現状とは異なる意識です。
「デザインと構造強度との葛藤があったんじゃない?」と隈研吾氏に言われ「正直、そうですね。」と答える坂田くん。「君の解説はとてもよかった。」と褒められました。
話は、クライアントであるナバさんの要望にどう答えていったかという設計者としての葛藤から、対話の重要性、クライアントも一緒に作るという意識、全体を包む世界観についてを経て、森林文化と地球環境にまで拡がっていきます。
この後のミーティングでデデリッヒ教授からは次のコメントをいただきました。「とても質が高いイベントだった。特に近い距離でみんなが参加して設計について話し合うのは本当に素晴らしい。この建物が竣工し長い年月が経っても、参加した学生はポジティブな気持ちで今日を思い出すだろう。」
涌井学長の進行で、フリートークは終始和気藹々としながらも真剣に、会場全体でこの施設のビジョンを共有して深めることができた、夢のような時間でした。
設計も工事もこれからですが、この上なく有意義な会になりました。今日の意見を元に、さらにいい建物に設計していきたいと思います。
最後は、みんなで記念撮影。みなさん、ありがとうございました!竣工をお楽しみに!
今日の司会の木造建築教員:松井匠
(休憩中のひとコマ。
川尻副学長が今日のために挽いた「皮付きの椀」と「わらび餅」でおもてなし。
お椀はお土産としてお渡ししました。)