木造建築計画の基礎
クリエーター科1年の「木造建築計画の基礎」。今年の一年生は4人。じっくり少人数で学んでいきます。
テキストは、私のオリジナルのもの。敷地の条件整理から、計画目標値の考え方、その後の実測方法など順番に学びます。
(授業風景は写真を撮ってないので、使ったスライドからいくつか紹介します。)
環境に配慮した計画のための10のステップです。建築初学者もいますが、この順番に進めると、考えも整理できて、適切な計画になっていくはず。
最初のステップ1は、最終的な住まいのイメージを固める作業から。
普段から考えていることなど、思いつくキーワードを上げていきます。その中からこの住まい手にはこんな家に住んでほしいという家をイメージします。空間認識でトレーニングしていますので、立体的なイメージも膨らむかな。
ステップ2からは、計画の可能性を探るために、いろいろな条件を整理していきます。最初は、計画地を広く見る気候条件の確認です。気象庁のHPや、日照シミュレーションを行って、計画地特有のポテンシャルを確認します。
ステップ3では、もっと計画地によって、地形の傾きや隣地がどうなっているか、計画地内からは何が見えるかなど、具体的なイメージを固めていきます。岐阜県はGISが進んでいますので、さまざまな情報が簡単に手に入ります。
さらに計画地に行って、体をもって感じます。
ステップ4では住まい手の暮らし方を読みます。
インタビューをもちろんのこと、光熱データから客観的に分析を行います。
学生にも、光熱費データを持ってきてもらいましたが、なんか少ない!!!アカデミーに入り浸って、家に帰っていないのでは・・・。
ステップ5でいよいよ計画です。これまで調べてきた、気候条件や敷地条件、暮らし方などを反映させて計画します。
計画演習の授業で培った短時間設計を繰り返し、一つの計画案に煮詰めていきます。
ステップ6では、温熱性能の4つの大切な要素を検討しデザインしていきます。
それぞれの性能がどんな効果をもたらすか、意識して性能設計をしていきます。
これらの詳細な計算は、環境性能設計の授業で補足していきます。
ステップ7では、機械設備を考えます。機械設備では、エネルギー削減と利便性を考えて、それぞれの立地によって、エネルギー消費の多い要素から高性能設備を導入します。
標高差、南北差のある岐阜県では、高山のような寒冷な地域から、岐阜市の温暖地まで幅広い地域にまたがります。
岐阜市であれば、給湯が一番多いので、給湯削減の太陽熱給湯や、エコキュートなどが候補でしょう。先日の日独建築シンポでも小泉さんから、日本ではもっと太陽熱給湯を活用した方が良いという話がありました。(日本人はお風呂が大好きなので、ドイツに比べて給湯エネルギーの消費割合が多い。ドイツ人は朝シャワーを浴びるが、日本は夜お風呂に入る。つまり日本は冬の日中の日射を夜に利用できる。もっと太陽熱利用をするべき。)
一方、高山市では、暖房が最大になってきます。日射熱をしっかり取り込んで、バイオマス等の暖房も候補に挙がってきます。
ステップ8では、これらの温熱性能と設備でどのくらい一次エネルギーを消費するか計算していきます。
この計算に使うのは建築研究所のエネルギー消費性能計算プログラムです。温熱性能を変えるとどれだけ暖房や冷房エネルギーが変化するか。高効率設備の効果はなど、いろいろなパターンで試していきます。
高効率エアコンの効果はわずか1GJ削減?(年間3000円弱の節約)学生も驚きです。
それほど効果が顕著でなければ設備に頼るのではなく、断熱性能や日射熱取得性能を向上させる方が良いに決まっていると、なった・・・かな?
断熱などの施工では地域の職人さんも活躍します。
ステップ9では、設計効果の確認です。温湿度実測やエネルギー消費量を計測します。予定している暮らしと異なっていれば、結露や不快感等が発生してしまいます。そこで、このステップの暮らしをメンテナンスが大切です。次回の設計にもフィードバックできます。
各燃料がどんな用途に使用されたのか分析する用途分解も学んで、詳細に暮らしぶりを分析していきます。
最後のステップ10は、幅広い視点で、総合的に住まいの性能を捉えます。
温熱環境以外にも、暮らしに影響する要素はたくさんあります。構造や防火性能向上による安心感の他、清浄空気を入れ替える換気性能、素材の選定や、外構計画とセットになった拡がり感、表面の色彩等のデザインによっても暮らしの豊かさも実現します。
例えば下の図は、LEDのスペクトル分布です。蛍光灯では光の三原色を利用して色をつくっているため、RGB(赤緑青)の光が強く出ていますが、LEDは比較的滑らかな発光で良くなっています。(ブルーライトが少し多めですが。)一方太陽光は、すべての可視光がたっぷり出ているため、非常に美しく見えます。この発色を見ると、昼光利用の贅沢さが浮かび上がります。
その他も、いろいろな性能やデザインの重要性も見ていきました。アカデミーでの学びの全てが計画につながっていくことを感じてもらえたのではないかと思います。
准教授 辻充孝