鍛冶フェス!〜手道具について語り、削り、楽しんだ3日間〜
1月11〜13日の3日間、森林文化アカデミーで「鍛冶フェス〜ものづくりを支える鉄の道具〜」と題したイベントを行いました。
岐阜県では 2019年度から、林業・木工・木造建築などの仕事に用いる、鍛冶屋が作る道具の供給状況を調査しています。県内には森林や木材に関わる優れた伝統技術がありますが、道具の供給が途絶えてしまうと技術の継承ができなくなるためです。 この調査の途中経過を報告し課題を共有する場と、多くの方に道具に親しんでもらう場を設けたいと考え、企画したイベントです。
①パネルディスカッション 〜刃物の作り手と使い手が語る〜
今回の調査で道具の産地を訪ねてみると、職人が高齢化し、後継者が育たず、技術伝承が危機に瀕していました。そんな中、林業用刃物産地の高知県では組合が「鍛冶屋創生塾」を立ち上げ、研修生を公募して育成を始めました。また、木工用刃物産地の新潟県長岡市では、クラウドファンディングも活用して鉋鍛冶の後継者を育てるプロジェクトが始まりました。木工用刃物産地の兵庫県三木市では、名門鉋鍛冶工房で十年以上にわたる修行を経て3代目を襲名した若い鍛冶職人が現れました。これらの新しい動きをみんなで共有し、次につなげたいというのがパネルディスカッションの趣旨でした。また、道具の作り手と使い手が直接対話することで道具の改良や新しい需要開拓にもつながると考え、岐阜県内から林業家と大工さんの2人にも加わっていただきました。
パネラー
江崎 尚史さん(林業家、岐阜県山県市)
西山 賢さん(山林用刃物商、高知県香美市)
進藤 恭平さん(鍛冶屋創生塾助手、高知県香美市)
川上 舟晴さん(大工、岐阜県高山市)
千代鶴 貞秀さん(鉋鍛冶、兵庫県三木市)
水野 清介さん(鉋鍛冶、新潟県長岡市)
林業分野では、まず岐阜県を代表する林業家が登壇。江崎尚史さんは林業家の4代目として林業に携わるとともに、森林文化アカデミー非常勤講師をはじめ林業の各種技術研修で講師を務め、手道具の教育を行っています。(約4分30秒、撮影・編集:boum 武藤弘明)
林業分野の道具の作り手側からは、高知県香美市で2019年11月に立ち上がったばかりの「鍛冶屋創生塾」についての報告がありました。この短い動画は開講したばかりの頃に調査で伺って撮影したものです。
(約30秒)
下の動画は開講から2ヶ月後の2020年1月に、助手の進藤恭平さんが撮影したものです。
(約1分)
木工・建築分野では、岐阜県高山市の大工さんが登壇。川上舟晴さんは大工として住宅建築、社寺建築を手がけるほか、高山榑へぎ研究会会長を務めるなど手道具を用いる伝統技術の継承にも力を入れています。
(約4分40秒、撮影・編集:boum 武藤弘明)
木工・建築分野の道具の作り手側からは、兵庫県三木市の鉋鍛冶・千代鶴貞秀さんと、新潟県長岡市与板町の鉋鍛冶・水野清介さんが登壇。千代鶴さんは岐阜県出身で、10年以上にわたる修行を経て2019年春に3代目を襲名したばかりです。一方の水野さんは、クラウドファンディングも活用して2020年から後継者を育成することを決意し、動き出しました。下の動画は、千代鶴貞秀さんのウェブサイトのものです。
パネルディスカッションの様子を短くまとめた動画です。
(約17分40秒、撮影・編集:boum 武藤弘明)
この3時間にわたるパネルディスカッションの詳細は、報告書でお読みいただけます。(デザイン・レイアウト:伊藤幸子)。伝統技術の後継者育成に携わっておられる方には参考になる情報があると思います。PDF版を以下からダウンロードすることができます。手道具の製造・利用に関わる団体、伝統技術の後継者育成に関わる団体などの方には印刷版をお送りしますので、ご連絡ください。
ダウンロードはこちらから。
鍛冶フェス・パネルディスカッション報告書
②ナンキンフェス 〜南京鉋の祭典〜
手道具の中でも、南京鉋(なんきんがんな)と呼ばれる曲線や曲面を削る道具にスポットライトを当てたマニアックなイベントです。年間数千本ものスプーンやヘラを南京鉋で削る木工家との出会いや、これまで市場になかった高性能の南京鉋を作り始めた若い道具製作者たちとの出会いがきっかけでした。手道具の世界に何か新しいムーブメントが起きつつあるのではと感じ、彼らの実演を見て、いろいろな南京鉋を削り比べて、さらに希望者はオリジナルの南京鉋を作れる、という2日間のディープな講座を実施しました。講師を務めたのは以下の4人のみなさんです。
講師
大久保 公太郎さん(木工家、長野県松本市)
吉野 崇裕さん(木工家、山梨県富士河口湖町)
杉田 悠羽さん(道具製作者、岐阜県富加町)
西 禎恒さん(道具製作者、兵庫県多可町)
ナンキンフェスの様子をまとめた動画です。
(約8分、撮影・編集:boum 武藤弘明)
最後にみんなで南京鉋のポーズ。水平の腕は台、立てた腕は刃を表しています。
林業・木工・木造建築などの仕事に用いる道具の供給状況の調査は、2020年度も継続する予定です。そして鍛冶フェスvol.2も。ぜひご期待ください!
久津輪 雅(木工・准教授)