自力建設2021「家具をつくる」
今回は、自力建設の家具のお話です。自力建設プロジェクトでは、その年に建設する建物に合わせた家具を、木工専攻の学生と共同で製作します。建築側は、施主の要望を実現するためにどのような家具が必要かを考え、木工側はこれまでに習得した技術を生かしてどのように形にするかを考えます。
家具の制作は、年度の終わりに木工専攻の学生と共に「家具を作る」という授業で行っています。今年の自力建設「木立のこみち」の要望である、グリーンウッドワークなどウッドデッキで行う外のアクティビティをサポートするような家具を考えました。
事前に前野先生を初めとした木工の先生方に、建築の代表者がヒアリングを行いました。ヒアリングでは、棟梁の橋本さんが当初提案していた「カウンター」に加えて、カウンターに合わせて使用できる「スツール」そして、外での講義のための「ホワイトボード」の3つの案が出ました。今年は、建築11名、木工9名の総勢20名という大人数で制作していきます。20名を「カウンター」「スツール」「ホワイトボード」の3つのグループに分け、デザインから製作までをおこないました。
カウンター
デザイン・・・会議では当初、外で授業もできる大きな机にするという案も出ていました。天板と足を分けて作成し、収納できるデザインや、ホワイトボードと一体にした機能的なデザインなど様々な意見が出ました。しかし、大きなテーブルにすると、片付けなどの手間が増え、使用したいときにすぐに使用できなくなるという意見が多数あり、今回はシンプルな一枚板で作成することになりました。
製作・・・大枠なデザインは決まったものの格子からカウンターテーブルがどれだけ出るか、また奥行きをどれだけとるのかなどを考慮した時のサイズ感、使いやすさをみんなで協議していきました。まずアカデミーではおなじみのグリーンウッドワークをするときのことを考えてサイズ感を考えていきました。オノ、南京カンナ、ナイフなどを置いたときにはみ出ないようにサイズを取りました。しかし大きすぎると天板に足をつける訳ではないので強度面で不安が出るのでそのサイズ感の塩梅に苦労しました。
モックアップを作り実際のサイズ感を検討して、再度大きさを見直していきました。その結果天板のサイズは以下の図面のようになりました。グリーンウッドワーク、昼のお弁当場所などに不自由がない大きさ、庇、通路とマッチするような大きさがこれだと木工、建築の学生の両方の合意がとれました。ちなみに天板の柱から入り口のほうの奥行65㎜となっており、庇と通路の2本目の65㎜角法杖と同じ幅になっています。
図面が決まり、必要寸法が分かったので、木取りをするところから作業が始まりました。今回は板の幅が広いのでヒノキを幅はぎして一枚板を必要枚数作る必要がありました。天板は合計6枚必要だったので、なかなか大変な作業でした。
また庇の下とは言え屋外で使うことを考慮して鉄製の反り留めを天板の下につけることにしました。反り止めを入れるために方法は2通り考えられました。1つはトリマーで反り止め金具がはまるように溝を彫っていく。もう一つは昇降盤で溝を切り、両端を幅はぎして溝を隠すというものでした。今回は掘る溝が二段階ありトリマーへの負担、作業性を考慮して2つ目の昇降盤を使って作業をすることにしました。
塗料に関しては格子と同じ色のオスモを使い統一感を出しました。出来上がった天板を見ると、サンダーをかけて下地がしっかりしているため格子より色のノリが良く、綺麗に仕上がりました(さすが木工クオリティー!)。
天板と格子の取り付けは通路と庇でも活躍したパネリードを使いました。強度面、取り付けが容易である、メンテナンス性などを考慮して決めました。パネリードのための下穴はあえてダボで埋め木をせず楽に外せるようになっていて、今後天板が壊れても楽になおすことができます。
何とかピッタリと収めることができました。サイズ、使いやすさ、庇との一体感など良い感じに仕上がったのではないでしょうか。今年入学した新入生はお昼に自然とこのテーブルを使用しているのを見かけます。それを見ると作った甲斐があったなあと思いまいした。
スツール
カウンターの高さに合う椅子=スツールがほしいねという意見から、スツールづくりが始まりました。
<サイズの検討>
まずはカウンターにちょうどよいスツールのサイズを探すことからスタート。縦にした丸太の上に座って、座面の幅、奥行き、高さ、足を置く貫の幅と地面から距離…などを検証しました。身長158㎝くらいの人から175㎝くらいの人まで試して、身長の幅が合ってもちょうどよくなるサイズを探りました。
<試作1:板材でつくる>
ちょうどいいサイズが見えてきたところで、細い板材を組み合わせて試作を行いました。
一つは「石巻工房(宮城県石巻市)」のプロダクト「AAスツール」を参考にしたもの。「真似ばっかりじゃいけない!」ということで、もう一つは改変版として、横から見ると「人」の字のように組み合わせたものを作成しました。作成してみると、改変版は少し不安定なかんじがありました。「AAスツール」は見た目もすっきりとし、バランスも安定しています。尚且つスツールを複数重ねてコンパクトに収納できます。実際に作ってみて、本当に無駄がない構造であることがよく分かりました。
問題は、持ち運ぶには少し重いということと、なんとなく空間にフィットしていない感じがするということが挙げられました。
<試作2:丸太と生木でつくる>
板材を組み合わせる方向で検討してきたものの、なんとなくしっくりこない…
ならばいっそ、真逆に振ってみようということで、座面を輪切りにした丸太、脚を生木(手削り)とすることに。原案は木工専攻の奇才・テルさんのものです。
作ってみたところ…なんかいい!
格子がカクカクしているので、その中に丸っこい、有機的な形があるだけで場がほっこりしました。求めていたスツールに一歩近づきました。
<試作3・本番:円盤と生木でつくる>
スツールの目標の作成数は4つとすることにしました。丸太の座面はかわいいけれど、さすがに4つもあるとワイルド感と不統一感が増しすぎるね…ということで、座面は木の板を円盤に加工したものにすることにしました。
旋盤機を駆使するのは木工専攻の旋盤職人・白滝くん。他の人は削り馬を使ってせっせと脚と貫を作りました。
途中で座面の板が割れるなどのハプニングもありましたが、なんとかスツールづくりを完了できました。考案から試作、作成まで4日間と短い期間ではありましたが、試作を重ねた結果、納得できる形にできました。現在もお昼の時間や打合せの際に使用されており、想定したとおりに使われていることにほっとしています。
ホワイトボード
ホワイトボードは、当初カウンター(机)と一体にする案も出ましたが、カウンター班との協議の結果、カウンターはシンプルなものに、ホワイトボードは独立したものとして考えることになりました。格子の柱に引っ掛けて使用するアイデアがすぐに出て、一番早く製作に取り掛かったのが、ホワイトボード班でした。
今回は収納や使い勝手を考えて、同じ仕様のものを2枚作ることにしました。1枚のサイズが、幅は木立の庇の格子柱間隔(910mm)ぴったりにしてしまうと、使い勝手が悪いので少し小さい900mmにしました。さらに左右の区別をなくし、遊びを作ることで、枠がないので2枚並べると1800mmの連続したホワイトボードとして使えるように設計しました。高さ寸法は取り外ししやすいように、またカウンターと干渉しないように、上下に手を入れられるくらいのサイズを検討し720mmに決まりました。
ここで、そもそもホワイトボードを「買う」ではなく「作る」ということに疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。昨年度の自力建設「緑のアトリエ」では既製品のホワイトボードが設置されましたが、今回は取り外しを可能にするため、また、建物に調和するように木でホワイトボードを作ることにしました。
では、どうやって木をホワイトボードにしたかというと、幅剥ぎした板の表面をきれいに磨いて塗料を塗って作りました。今回は「ドライイレーズ」という塗料を使って作りました。この塗料自体は半透明なのでそのまま木材に塗ると木材の色で仕上がってしまいます。それでは木材の色が邪魔をしてしまいホワイトボードとしては使いにくくなってしまいます。そこで、木材は色の淡いヒノキを使い、白の塗料で下塗りをしました。下塗りにはいくつかの塗料を試し、木目を残しつつきれいに仕上がるミルクペイントに決まりました。
二つの液体を混ぜて使います
その他にも、板が反らないように反り止めを入れたり、格子側の取り付け部分には、自力建設の施工で余ったダボを活用したり、ホワイトボード側の掛ける部分は一番劣化しやすい部分なので耐久性を考えミズナラを採用し、掛けやすく、外れにくい寸法を検討したりと、いろいろ工夫を凝らしました。
収納に関しては、ドライイレーズは紫外線に強くないので、木工房の中の壁に掛けてしまえるスペースを作りました。場所を取らない上に屋内でも使えるようになっています。
完成したホワイトボードは市販のマーカーを使ってもきれいに書けて、消した時も跡が残りませんでした。また、書いた文字や絵は、白く下塗りをしたおかげで、狙い通りはっきり見えるようになりました。さらに、その白さを活かしてプロジェクターのスクリーンとしても活用されています。今では授業や毎週木曜日に行われるグリーンウッドワーク部、その他ウッドデッキでのイベントの際に活躍しています。
今年は例年に比べ学生の人数が多かったので、短い期間ではありましたが、それぞれの家具で十分な仕上がりのものを完成させることができたと思います。竣工してから2か月が経ちましたが、すでにすっかり日常に溶け込み、先生方も含め、学科や専攻、学年を問わず多くの人に使ってもらっています。今回の「家具を作る」では、家具を工夫することで、建物の使われ方に大きな変化が生まれるということを、驚きを持って実感した機会になりました。また、製作にあっては、木工専攻同期のアイデアや技術力に大いに助けられ、お互いとても良い刺激になりました。今後も今回作成した家具が多くの人に使われながら、ウッドデッキの活用の幅を広げていってくれることを期待しています。
執筆:建築専攻21期学生