自力建設のメンテナンス
木造建築専攻の1年生の教育プログラムである自力建設は、開学以来22棟が竣工しています。
さすがにいろいろと不具合が出てきているものもあります。
そこで木造建築専攻と林産業コースの合同授業で、現状の確認から、対策を検討し、メンテナンスを行いました。
授業初日に気になる自力建設を確認したところ、早急に修繕が必要な自力建設が2つ。
2010年「あらかしのだんだん」と2014年「森湊灯台」です。雨漏りやデッキの傷みがひどい状況でした。
早速、「あらかしのだんだん」の調査です。
雨が吹き込むデッキ板は踏み抜きそうな状況で、その下の梁もかなり傷んでいます。
図面を確認して、どの程度まで劣化が進んでいて、どこまで修繕するかを検討しています。
次に「森湊灯台」の状況確認です。
壁面の一部の木材が剥がれ落ち、下にある防水紙も紫外線で劣化が激しくなっています。
室内側から見ると、30mmの板材に腐朽菌の菌糸が集まった子実体が目視できます。かなり腐朽菌が浸透していることがわかります。
あとは、材料の段取りです。今年は1年生の自力建設が大規模で木材をかなり消費しており、十分なゆとりがありません。構造実験の残材である程度賄えないかの検討をしました。
これで、劣化状況と材料の段取りから、メンテナンス計画をたてます。
仕上げの素材をかなり変更したりと大掛かりに更新する部分もあるため、当時の棟梁(卒業生)にメンテナンス計画の方針を連絡し、了承をいただきました。
森湊灯台の棟梁は、本人も気になっていたようで、メンテナンス方針に賛同いただき、しかも授業当日は大阪から助っ人に来ていただきました。ブログにもアップされています。
さて、メンテナンス本番です。
「あらかしのだんだん」では、劣化した部材を取り外していきます。
そうすると、表面からは見えていなかっら更なる腐朽菌の存在が明らかになりました。
再度、部材を段取りし、新たに土台から作り直します。
木造建築専攻も林産業の学生も一度自力建設を体験していますので、さすがに手慣れたもの。テキパキと加工を施していきます。
新しい部材に置き換わりました。
今回の根太は防腐剤が注入されたものです。
あとは、取り外したデッキ材と新たなデッキ材を張り戻して完成です。
さて、もう一棟の「森湊灯台」のメンテです。
こちらも劣化している壁面をとりはずし現状の確認です。幸い構造躯体の劣化はほとんど見られません。
壁面を新しい材に置き換えていきます。
今回の防水紙は改質アスファルトルーフィングです。
前回使用していた透湿防水シートより丈夫です。半屋外施設のため、内外温度差ができず湿気の透湿機能は必要ないため、この素材を選定しました。
そこに、ガルバリウム鋼板を張って完成です。
竣工当時は杉板で風合いも良かったですが、メンテナンス期間を考えて、劣化対策が強化されるガルバリウム鋼板に変更しています。
また室内も劣化が進行していました。雨漏りによって、床のナラ材が腐朽している箇所が数カ所ありました。
まずは、ストックしていた広葉樹材から、寸法に合わせて木取りを行いました。
これに色合わせをして塗装します。
竣工時の床は贅沢に漆塗装でしたが、さすがに手間がかかりすぎるので、今回は自然系塗料のリボスを用いています。まだ色目が明るく馴染んでいませんが、使っていくうちに徐々になじんでくると思います。
今回は2棟同時進行で大規模なメンテナンスを行いましたが、学生の動きはなかなかのもの。ボーっと手待ちの学生はおらず、自ら進んで仕事を探して作業しています。
どのような条件で劣化が発生し、進行していくのか、実際にメンテナンス体験をしてみると、よく理解できます。
今回の経験が自身の設計時に、劣化しにくい納まりを検討する材料になれば幸いです。
それにしても、アカデミーの本校舎や自力建設等、身近に素晴らしい教材があるのはすごいことです。
教授 辻充孝