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2017年11月10日(金)

大盛況でした!第2回日独木造建築シンポジウム

日独林業シンポジウムで賑わいをみせている森林文化アカデミーですが、木造建築の分科会でも講演会とパネルデスカッションが行われ、大盛況となりました。

ロッテンブルグ大学のデデリッヒ教授

今回のテーマは「地域の木造建築の持ち味を活かすには」というもの。
お互いの国の木造建築の魅力や考え方を出し合い、議論することで、その国らしい木造建築のあり方を考えていきました。

山崎真理子先生には、日本の木造建築と木材利用の目指すべき方向を、大きなスケールで語っていただけました

まず、名古屋大学農学部准教授の山崎真理子先生による講演からスタート。
山崎先生は「木材資源の循環利用」「木材の強度」「木の空間の居住性の評価」を専門とされていますが、日本の歴史文化を含めた、とても幅広い知識と見解をお持ちの方です。
今回は【日本における建築木質材料の特徴・強み・課題】と題してお話いただきました。

・日本は地震・台風・津波など災害の多い国土であると同時に、世界第2位の森林国でもある。その気候風土と豊富な森林資源から、日本の木造建築構法・文化が生まれた。
・明治維新のあと、自国の建築を否定し西洋化したことや、第二次世界大戦、その後の木造禁止令などによって、1945年頃から1985年頃まで”木造建築暗黒時代”続いた
・気候変動枠組条約「京都議定書」「ダーバン決議」による国際的な要請によって”木材利用推進の追い風”が発生。木材自給率は2000年の18%から現在30%まで改善した。
・日本の強みは”木の国日本という雰囲気”、”木造戸建住宅への愛着”、”高い耐震技術”、”豊富な森林資源”
・課題は多いが「高等教育の不足」「林業・林産業・建築業の連携不足」が特に挙げられる。
環境と経済をトレードオフの関係から「win-win」の関係にし、そのこと自体が社会性を持つように
・改めて「木材利用という文化の開発」が必要。

「木材利用」という「文化」を開発するという視点の提案

日本の建築は木をどのように使ってきたのか?どのように流通しているのか?日本の木造建築を取り巻く背景をわかりやすく解説いただけたので、基本的な日本の現状を会場と共有することができました。
また、現代日本の木材利用における”強み”と”課題”も抽出し、これから目指していくべき開発の方向も提案されました。
トップバッターとしてこれ以上ないほど完璧な内容で、流石としか言いようがありません!

 

小泉雅生先生からは、精緻な論理に基づいた先進的な挑戦の事例をご紹介いただきました

続いては、住宅建築に携わる人ならみんな知っている「LCCM住宅」を設計した小泉雅生先生による講演です。
LCCM住宅とはLife Cycle Carbon Minus House(ライフサイクルカーボンマイナスハウス)、つまり「ライフサイクルでのCO2排出量をマイナスにできる住宅」の開発です。

名著です

CO2排出量が建設時に多くかかっても、運用時にマイナスにしていける住宅がLCCM住宅です

設計事務所「小泉アトリエ」を主宰しながら首都大学東京大学院で教鞭を執る小泉先生からは、ご自身の設計した「LCCM住宅」と「アシタノイエ」の設計手法を軸に、実務と研究の両方の視点でお話をいただきました。

・日本とドイツの気候の違い。日本は冬でも日照時間が長い。夏蒸し暑い。
・日本人はお風呂が大好きなので、ドイツに比べて給湯エネルギーの消費割合が多い。ドイツ人は朝シャワーを浴びるが、日本は夜お風呂に入る。つまり日本は冬の日中の日射を夜に利用できる。もっと太陽熱利用をするべき
・日本の家は吉田兼好が「家のつくりやうは、夏を旨とすべし」というように夏の暑さ対策を主につくられてきたが、これからの省エネ時代は冷暖房エネルギーの消費を抑えるために「夏も冬も旨とすべし」
・「LCCM住宅」では建設時と運用時のCO2排出量を徹底的に計算し、基礎コンクリートは建設時のCO2排出量が多いので、一般的なベタ基礎でなく布基礎にして量を減らした。
・木材の乾燥に使われるエネルギーは、輸送に使われるエネルギーよりも多い。そこで「地場木材を木屑で乾燥させ」大幅な抑制を実現した。林業との連携がエネルギーの視点からも重要ということがわかる。
・通風と採光を、夏季と冬季で使い分けることのできる「衣替えする住宅」とした。四季のはっきりした日本ならではの工夫。
・自邸「アシタノイエ」では実験的に構造材の最小断面50ミリ角に挑戦したが、接合部ではどうしても太くせざるを得ず、建て方も大変なので、これは真似しない方がよい。

「最先端の環境配慮型設計手法」である小泉先生の事例は、デザイン、性能、そしてその設計プロセスが、実務者なら思わず「納得!」と言いたくなるものでした。また、環境問題における社会からの要請を解決しようとする使命感と、建築家としてのチャレンジ精神が、極めて高度に合致していると感じました。会場からも盛大な拍手が。

 

「標準品を使って無二のものをつくるということの大切さ」を語るデデリッヒ教授

そして、ドイツのロッテンブルグ大学からはLudger Dederich教授の講演です。
ドイツの木造建築ってどんなものなの?
ドイツの木造建築業界はどんな様子なの?
林業とどう連携しているの?
と、会場の日本人みんなが思っているわけですが、デデリッヒ教授のお話は「建築材料としての木材がドイツでどのように使われているのか」「都市の木造化へのチャレンジとチャンス」「20世紀を超えた時持続可能性」という三つの観点から、それに答えてくれました。

・ドイツの木造住宅は、昔は軸組構法だったが、現代では枠組壁構法が主となっている。
高い加工技術と工業化によって、無垢材、集成材、LVL、CLTとしての木材利用が、効率的かつ積極的に成されている。
・最近、これまで過小評価されてきた「ブナ」の利用が始まり、強度的にも森林資源利用としても革新的
・ヨーロッパは、田舎では空き家が目立ち、都市では家が不足している。都市に集中する人口に対応するため住居を都市に増やす必要がある
ロンドンは「炭素税」の導入により木造建築が爆発的に増えていて、木造のメッカになるだろう。
・木造の高層化も進んでいて、ストックホルムで2020年にCLTの15階建てが完成予定。
・木造を高層化する際には、階段室をRCでつくり、居住空間を木造にする。
・既存の木造共同住宅の屋上にCLTでつくった階を乗せるような形で増築する例もある。建築面積は増やさずに、居住スペースだけ増やすことができる。
・ドイツでは木材使用量に対して森林資源を計算し、きちんと確保している。
・バイオマスエネルギーとしても余すところなく木材利用がされているが、その反面、エネルギー利用と材料利用が競合している。
・CO2を濾過する装置が開発されたが、集めたCO2を処理する方法がない。だが、森林には光合成という奇跡の技術が備わっている。材料としての木材は炭素を貯蔵しており、木造建築は持続可能な社会の可能性がある
「標準品をつかって唯一無二の作品をつくることが重要」

デデリッヒ教授の話すドイツの木造建築は、常にすぐ後ろに「森林資源としての木」が垣間見えるものでした。木材を無駄なく利活用するための技術や、工業化による高効率化も、社会全体のバランスの中で必要に応じて行われており、やはりその社会そのもの成熟度を感じさせるものでした。

 

日本木造建築各分野の専門家がズラリ。デデリッヒ教授は総合的な知識をお持ちです

さて3名の講演によって、日独の建築業界、それを取り巻く背景の違いを、会場全体で共有できたところで、いよいよパネルディスカッションです。
パネリストとしては、森林文化アカデミー教授の吉野安里先生、准教授の辻充孝先生、大和リース小林秀人氏の3名の専門家が加わり、コーディネーターとして私、森林文化アカデミー講師の松井匠が担当しました。

もっとも白熱した話題は「メンテナンス」についてでした。
当たり前のことですが、建物にはメンテナンスが必要です。現代日本では「メンテナンスは手間もコストもかかる負担」のように認識されており「メンテナンスフリー」という言葉も流行っています。

山崎先生「木でつくる住まいは、住まい手自らがメンテナンスできるという”楽しみ”があるはず。メンテナンスフリーはその”楽しみ”を奪うこと。さらに木材は長持ちさせるだけでなく、適宜交換という観点もあるべき。外装材などは腐ったら取り替えればいいという循環が普通になれば、木材産業の活性化にも、森林環境の適正化にも繋がる」

デデリッヒ教授ドイツでは1㎡につき、年間12€のメンテナンス費用を貯蓄しておくことが常識。家は一生に一度の事業で、孫の代までそこにある。大切に使い続けるために手入れをするという意識が当たり前に根付いている。メンテナンスは負担ではなく、適正なマーケットであるべき

小泉先生LCCM住宅に面白い研究があって”日射遮蔽ルーバーはアルミ製か、内付けの木製か、外付けの木製か、3つのうちどれが建設時+運用時のCO2排出量を抑えることができるのか”というもの。結論としては「外付け木製ルーバーを定期的に交換するのがもっともCO2排出量が少ない」ことがわかった。アルミは製造時にエネルギーを大量に使うし、劣化を避けて木製ルーバーを内付けにすると日射遮蔽性能が落ちる。木製を外付けしてたまに交換するのが一番というわけ。省エネルギーの観点からも木製ルーバーの適宜交換は優れた考え方ということが言える

辻先生メンテナンスを利用者が行うことは重要だが注意点もある。アカデミーでもデッキのメンテナンスをしているが、面積が広く学生や職員が行うには広すぎる。劣化対策をきちんと行ったうえで適切な部位や面積などを考えて設計する必要がある。」

また、デデリッヒ教授からはこんな質問が。
「ドイツは中小企業が元気で機械化や開発を進めている。その時に参考にしているのは日本の”カイゼン”という考え方。日本建設業界の中小企業はどうして元気がないと言われるのか」
「ドイツでは坂茂など日本人建築家が活躍しているが、日本ではなかなか外国人建築家の活躍の場がないように思える。なぜ?」

これには、性能規定が中小企業の開発をしにくくしているという意見、責任の所在についての意見、外国人建築家だけでなく若手建築家の活躍の場もこれからつくっていく必要があるという、日本の建築業界の問題点が浮き彫りになりました。

最後は、お一人ずつ今日のまとめをいただきました。

山崎先生「日本は「林業・林産業・建築業」という壁を取り払って「森林資源産業」という名前で統一するくらいの連携を目指すべき
小泉先生「現代の建築の目指す新しいビジョンについていけていないのは、地方の工務店とアトリエ系設計事務所。このままだとこの二つは生きていけなくなるだろう。もっと努力するべき」
デデリッヒ教授日本の伝統への敬意をドイツに持ち帰りたいと思う。伝統を価値として認めることが必要。また炭素吸収=価値として定着させなくてはいけない」
小林氏鉄の代わりとしての木ではなく、木に無理をさせないことが大事。また、商品としての建築だけではこれからのチャンスは生まれない」
辻先生家をメンテナンスをしていくという覚悟が、日本社会では薄くなっているので意識づくりが必要。また、人材をどうやって田舎に呼ぶのかということも大きな課題」
吉野先生材木の安定供給が重要だが、それがトップダウンで行われるのではなく、それが”元気のある地域”から始まるのが大切

デデリッヒ教授は「日本の伝統への敬意」をドイツに持ち帰るとのこと。そしてこれからの日本の木造建築は「産業の壁を取り払い地方に人を呼ぶ”広いスケール”と、森林と建築の維持に必要な”長い時間”という発想が手がかりになるのではないか」というまとめで、パネルディスカッションは終了。
大いに盛り上がり、これからの日独の林業・木造建築にとって有意義な意見交換の場になりました。

来年の連携ワークショップについて打ち合わせ。面白くなりそうです

そして、次の日は今年度末に行われる日独木造建築ワークショップの打ち合わせです。
ロッテンブルグ大学の学生さんたちと、森林文化アカデミーで設計プログラムを行う予定ですが、その詳細は後日……。
アカデミー内を案内し、コテージや自力建設も見てもらいました。打ち合わせの内容も含め、かなり楽しく満足してもらえたようで、これからの連携が楽しみになる二日間でした。乞うご期待!

報告:講師 松井匠

利用するかもしれないので「森のコテージ」を見学

自力建設「オアシス」は炊事場ですが、屋外の炊事場はドイツにはなく、こういった建築は珍しいとのこと

今年の自力建設の外壁板とACパネルを解説

ちょうど工事していた自力建設「里山獣肉学舎」。クリエーター科坂田君に解説してもらいました

日本の伝統的な木組の接合部についても、坂田君に解説してもらい、デデリッヒ教授はとても関心されていました

自力建設の駐輪場「スイッチ」も見学し、木材の使われ方に興味をお持ちでした

パネルディスカッションでも白熱したメンテナンスですが、ちょうどメンテナンス中の自力建設「ほたるの川床 」も見ていただき、日本の木材腐朽菌により建材への影響を見てもらいました。