木造住宅は火に弱い?鉄骨造やRC造は?~防火の授業の2日間~
ニュースで木造住宅の焼け落ちる姿がよく放送されます。
木は燃えるのだから木造建築は危ないというイメージを持っていたりしませんか?
実際のところはどうなのか。「木造建築の防火」の授業を受けましたので、その報告と共にタイトルの疑問について明らかにしていきましょう。
諸事情により来年の就職先がまだ決まっていない木造建築専攻2年の太目です。
木造建築専攻では毎年「木造建築の防火」と題した授業があります。
担当は非常勤講師の桜設計集団一級建築士事務所安井昇先生です。
昨年はアカデミーでの講義でしたが、今年は八ヶ岳の麓にある秘密基地にお招きいただき、木造建築専攻の一二年生で伺いました。
アカデミーから車で約三時間。木々に囲まれた道を抜けると見晴らしの良い斜面に秘密基地が建っています。
ここは安井先生が構想、設計された建物で、災害時にも活用できるように、太陽光発電、鉛蓄電池、太陽熱温水器、プロパンガス、薪ストーブ、受水槽が設置されています。電力会社との契約はしていません。
長く伸びた軒の下には広いデッキがあり、天気の良い時には遠くに富士山を望むことができます。小さな見込みで作られた木製建具2枚で区切られているため、開いたときだけでなく、閉じているときも広がりを感じることができ、心地のよい空間になっています。
建物については過去のブログでも詳細に触れているのでそちらをご覧ください。
以下講義の内容です。
安井先生がこれまでに関わってこられた様々な実験の動画も見せていただきながらの講義でした。
実験も焼スギ板づくりと、「どっちが熱い」を行いました。
焼スギ板づくりは3枚のスギ板を煙突状に結んで、着火します。
15mmほどの厚さのスギ板の向こう側では炎が燃え盛っていますが、スギ板を手で支えることができます。これが木の凄さです。
3分ほど燃やし続けた後、倒してスギ板を広げると勝手に火が消えます。大気に熱を奪われてしまうからです。
この実験についても過去のブログで触れられていますのでぜひご一読を。
次に「どっちが熱い」
15mmのスギ板VS屋根ふき材や外壁材として用いられるガルバリウム鋼板0.35mm。
15mmのスギ板VS内装材で頻繁に用いられるせっこうボード12.5mm。
それぞれ同時にガスバーナーで一分ずつ熱した後、熱せられていない面は果たして触れるのか。
ガルバリウム鋼板を触れる人がいたらぜひ教えてください。
木材も石こうも水を蓄えています。この水分が防火で重要な要素になります。
水分はご存じの通り100度で蒸発します。火が燃えるためにはまずこの水分を蒸発させなくてはならないため、温度の上昇を抑えることにつながるのです。
さらに木材がもともと持つ断熱性により、対面への温度が伝わりにくくなっています。
さて、とはいえ木は燃えるのだから木造建築は危ない。そう思ってはいませんか?
ではS造(鉄鋼)やRC造(鉄筋コンクリート)での火災はどうなのでしょうか。
S造やRC造でも火災は起きます。マンション火災の報道を目にする機会もありますよね。少し前には放火によるとても痛ましい事件もありました。
燃焼するためには、酸素、可燃物、熱エネルギーの3つが揃う必要があります。
燃えないはずのS造やRC造では何が燃えるのか。内装材や外装材などの仕上げ材、家具や書類などの物です。
木造住宅であってもいきなり柱や梁、天井や床に火が付くわけではありません。どのような建築構造であってもまずは仕上げ材や物が燃えるのです。隣室や隣棟への延焼につながるほどの大きな火災にならない限り、構造躯体による差はそこまでありません。
木は1分で約1mmの速度で燃え進みます。様々な実証が進む中で、建築基準法での木材使用も徐々に緩和され、防火に木材を使うことができるようになってきました。
燃えしろ設計での中規模建築も作られ始めています。
昨年度の冬に高知で見学したCLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)も現しで使うことができます。
今回はそんなCLTで昼食を作りました。
キャンプが好きな方はスウェーデントーチをご存じかと思います。
丸太に切れ込みを入れ、中心部に火をつけて使います。薪をくべる必要がなく、大きさにもよりますが2時間以上燃え続けてくれます。
そんなスウェーデントーチをCLTでも作ることができます。
切込みを入れたCLTに五徳になるよう、ビスを打ちます。また空気を効率よく吸えるよう、切込みの最下部にドリルで穴をあけます。
効率よく燃焼し、調理にも使うことができます。
使用後は水をかけて消火。
乾けば再利用することもできます。
竈で羽釜を使って炊飯もしました。
安井先生の講義では頻繁に「燃え抜けない」という言葉が出てきます。
これは火が壁や天井を抜けて隣に移らないということです。
燃え抜けないことにより、消防活動までの時間を稼ぐことができ、延焼が防げ、人も安全に避難することができます。
安井先生の設計理念は「設計は日常が最高になるように。非日常が最悪にならないように。」。
この理念を体現するような設計をし、また多くの人に知識を広め、新たな技術開発等の活動をされているのだと感じました。
安心、安全にくらすための建物を建てるだけならそこまで難しくないのかもしれません。
しかし、心地よく、安心、安全に暮らすための空間を作るには知識が必要で、設計者にはそれが求められるのだと思います。
防火のことだけでなく、設計することの面白さと難しさに触れた二日間だったと思います。
大変お世話になりました。ありがとうございました。
さて、これで終わりではありません。
アカデミーへの帰路の途中、卒業生が4月からお世話になっている工務店様の見学をさせていただきました。
長野県は上伊那郡箕輪町にある北沢建築様。
ここには知る人ぞ知る名建築があります。
某アイドルグループのMVの撮影や、某高級車メーカーの広告の撮影にも使われた加工場です。
ここは現在もアカデミーの非常勤講師をお務めのMs建築設計事務所の三澤文子先生と、北沢建築様で設計され、構造設計は東京大学の稲山先生が担当されました。
アカデミーの情報センターでも使用されている樹上トラス構造になっています。
情報センターと違うのは、部材の断面寸法。
情報センターでは太く大きな丸太が使われていますが、この加工場では18m×24mの大空間を製材の流通材で構成しています。
最大でも360mm×120mmの断面寸法で、これは柱に使われています。
施工はもちろん自社で行い、技術力の高さが窺えます。
外壁の仕上げには実験的に透明ポリカを使われており、辻先生も興味津々。
他にも茶室や
展示住宅兼事務所棟も見学させていただきました。
そして胡桃山荘。
こちらは加工場を設計したMs建築設計事務所が設計、北沢建築様が施工しています。
無垢の木がふんだんに使用され、外の景色も相まって正に山荘。
Jパネルを名栗仕上げにした壁や床が空間を演出しています。
個人的に一番興味を引いたのはキッチンカウンター兼ダイニングテーブル。
キッチンは周りの床より一段下がっており、テーブルトップもリビングから見ると低くなっています。
このおかげでそんなに天井の高くない1階でも、家具の高さを抑えることができ、空間に圧迫感を与えずに広々とした印象を与えています。
北沢建築様で見学させていただいた空間はどれも見て美しく、居て心地よい空間でした。
長野出身の身として、長野にこういった住宅が増えていくと良いなあと思いました。
以上長野での楽しくも充実した二日間のご報告でした。
第19期木造建築専攻学生:太目光