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2024年08月14日(水)

林業事例調査2024(4)橋本山林さま視察(2024/7/23AM)

林業事例調査3日目は再度徳島県に移動し、橋本山林さんの視察を行いました。
橋本さんは110haの山林を所有する自伐林家です。前日に視察した香美森林組合を「大きな林業」とすると、橋本さんの山は「小さな林業」を営んでいます。アカデミーに限らず林業に就業することを希望する人は、そのほとんどが規模の大きい事業体に所属することが多い中で、自分で山を持ち山づくりを行っていく自伐林家の取り組みについて、間近で見る貴重な機会となりました。
今回はその内容について、林業専攻1年の米澤が報告します!

まずは橋本さんとの視察調整を担当していただいた、自伐型林業推進協会の中嶋健造さんから林業の今までの歩みと、橋本さんのような専業林家の特徴などについてお話がありました。

快く迎えてくださった橋本忠久さん(左)と中嶋健造さん(右)

つぎに、橋本忠久さんと橋本延子さんから、橋本家の歩みとどのようにして山づくりをしてきたのかについてのお話がありました。橋本さんの山は、農林水産大臣賞や内閣総理大臣賞、さらには環境省の自然共生サイトに徳島県で初めて認定されるなど、高い評価を得ていますが、それに至る道のりは決して平易なものではありませんでした。自分たちで山を守っていこうというきっかけになる出来事や相続の問題、お金の工面など今後の山づくりにも影響を及ぼすような選択の連続だったことが、ひしひしと伝わってきます。「非効率なところをあえて残さないと継続性が保たれない、そんな視点で山を見てほしい」と忠久さん。まさに山と向き合いながら、森林施業をしてきた橋本さん一家。その丁寧な山づくりについてこれから見ていきましょう!

忠久さんと延子さんから、「自伐」の自とは、自由自在・自立・独自の意味があるということを教わりました。

橋本さんの山は「木材生産のための森林の中に、自然度の高い植生が保持されている(鎌田、2018)」と称されるように、生物多様性の豊かな森となっています。そんな森を実現するために必要なのが高密度な作業道です。大橋慶三郎さんから指導をいただいて敷設された作業道には、丈夫な道づくりを行うためのいくつもの工夫がありました。

首回りを用いて、山の地形と作業道の敷設を説明する忠久さん

まず作業道の幅が狭いことが挙げられます。といっても、2tトラックが通れる幅となっているので、十分だとの説明もありました。持ち山だからこそ、自分たちが使えればいいというスタンスで作業道をつくることができ、法面の植生保護もできているようです。道を広げすぎずかつ多くつけることによって、植生にも配慮しながら木を搬出しやすくしているという工夫も見られます。

この木を切れば道幅を広くできる。だからといって切ってしまうとどうなるか。あえて残しているのです。

ここも自然の力を使った道づくり。あえて根を切らず土を押さえるようなはたらきを持たせています。

排水については、U字溝を使うと落葉によって詰まってしまい水が溢れて土壌流出につながってしまうため、表層を流れるように設計しています。

生態系に配慮した道づくりを行うことで、林業経営も行いながら生物多様性の保全にもつなげている橋本さんの山。
「人工林から天然林のようにする」100年後の価値観がどうなっているか分からないからこそ、スギ・ヒノキだけでなく色んな樹種を残すように取り組まれています。結果として豊かな植生を維持することにもつながっていますね。

このような感じで下層からもいろんな樹種が出てきていました。

事例調査恒例?の学生による質問攻めコーナーにも、みなさん快く応えて下さり感謝申し上げます。学生の関心としては「自然共生サイトの認定」「生態系豊かな森づくり」「作業道について」といったものが中心に挙がりました。

学生の感想

橋本山林さんは、林業地で唯一自然共生サイトに登録されているということを聞いており、以前から一度どんな森か見てみたい…と思っている場所でした。実際に森を拝見した印象は、「きれいな森」でした。自然のままでもなく、人工的すぎず、人が手を入れているのが分かるけど、自然な森。橋本さんのお母様に、「共生サイトとして環境保全のために新たに行っていること」をお聞きすると、「今まで無意識にやっていたことが環境保全や改善に自然と繋がっていた」と衝撃的なお答えが返ってきました。「とにかく続ける。失敗し続けても、成功するまで止めない」という気持ちで森を見続けてきた方々だからこそ、自然と森が求めるもの、環境の作り方を体で感じられているのだな、と感動しました。家族が満足できる範囲でやる。だからこそ森にも人にも無理がない、という施業の前提も、授業で教わったこととはまた違った視点で、とても勉強になりました。森づくりには様々な考え方がありますが、人が森に関わる、新しい方法を勉強させていただきました。(2年 後藤)

自分は卒業後、自伐型の林業を目指しており、橋本山林さんは以前から知っており、一度は現地に行ってみたいと思っていたので、今回念願が叶いました。先日には、福井県で開催された橋本光治先生の作業道研修会にも参加させていただきました。
橋本先生の作業道作りの作業方法や信念を教えていただいた後に、長年作られてきた作業道を実際に見ることができ、大変勉強になりました。お伺いしていた通りの急峻な斜面に作られた作業道を目の当たりにし、これだけ厳しい条件にもかかわらず、壊れない道作りを実践されている技術の高さに驚きました。それと同時に、自分自身も頑張って技術を磨き、長い年月をかけて同じ山と向き合う林業に取り組みたいと強く感じました。(2年 小林)

 

今回の視察で一番印象に残ったのは、木を伐るだけが林業ではない、木は自然の中で成長するからこそ、自然と向き合った森林施業を行っていくことが大事だということです。半日だけでは橋本山林さんのすべてを知り尽くすことはできませんでしたが、ここで見たこと聞いたことを活かしてこれからの活動につなげていきます!

お忙しい中視察を調整して下さった自伐型林業推進協会さん、受け入れて下さった橋本山林さん、みなさま誠にありがとうございました。(林業専攻1年 米澤)


(林業専攻教員 津田)