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2024年07月22日(月)

観察:クリエーター科「森林獣害の基礎」

全4回の実習の最終回

獣害には「家屋被害」「人的被害」「生態被害」「農林業被害」と様々な被害がありますが、これまでの視察の中で生態的な被害や林業被害を見てきました。最終日ではどのような気づきがあったのでしょうか

 

今回も学生がブログ王の記事を書いてくれました

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1ヶ月前から始まった「森林獣害の基礎」もこの日が最終回です。
今回は”獣害と資源について考える”ことを目的として、春日大社・奈良公園エリアを訪問しましたので、その様子をご報告します!

道中の道路標識観察
アカデミーから奈良公園まで高速道路を使用して約2時間半。いつもより早くアカデミーに集合して奈良へ向かいます。長い道中も単なる移動時間となってはもったいありません。沿道の獣害の状況について観察しました。例えば「動物注意」の道路標識から、その場所でその動物との接触被害があることが読み取れます。どのような環境で、どの動物が出るのか。看板の頻度から、その動物の出現頻度も予測ができます。高速道路上では気軽に減速できないため、看板が出る度にとにかく連写して記録を残しました。



国連で定められているトナカイ的なシルエットのシカ注意の警告に、最近はニホンジカらしいシカのイラストも加わりました。他にもタヌキやサル・イノシシの注意看板もありました。


看板以外にも、”田んぼに柵が張ってあるか”、「竹薮になっているとイノシシが、草地ができているとシカがいるかもしれない」…というように、”植生はどうなっているか”など、今までに出会ったフィールドサインを振り返りながらの沿道観察も行いました。

長い道のりもそんなこんなであっという間に奈良市内に到着しました。

林業専攻の米澤君が看板の位置をまとめてくれました

左のオレンジ色のシカを旧、右の蛍光色のシカを新標識と表示しています。

奈良公園でのシカ観察

前回までの授業では、シカが農林業に深刻な被害を及ぼす害獣であり、捕獲・駆除の対象であることを学んできました。一方、今回の目的地である春日大社・奈良公園エリアには、1000年以上昔からシカを”保護”してきた歴史があります。奈良時代、御蓋山(春日山)に神様が白鹿に乗って来られたとの言い伝えから、神の使いとして大切に愛護されてきており、「奈良のシカ」は1957年に国の天然記念物にも指定されています。

先日見学した獣害エリアでは、シカの痕跡はあちこちにあるものの、血眼になって探しても中々動くシカの姿を捉えることができませんでした。また、数十メートル離れていても警戒心が強く、すぐに逃げられてしまい写真にも収められませんでした(2024/6/17ブログ参照)。一方、奈良公園では、到着するやいなや探すまでもなく沢山のシカがいて、彼らが鹿せんべいをくれる観光客に群がり、積極的にアプローチしている様子が目に飛び込んできました。野生動物でありながら人馴れしており、おじぎをしたり、人間の心を鷲掴みにする眼差しや振る舞いで餌をもらう技を身につけていたりする個体が多数見受けられたことに衝撃を受けました。


一般財団法人奈良の鹿愛護会によると2023年7月時点の奈良公園内のシカ生息頭数は1,200頭で、春日大社境内にある「鹿苑」では交通事故での怪我や病気で治療中のシカや、出産前後の母ジカ・生まれたての子ジカを計約380頭を保護しているとのことです。

新しく改装工事中の苑鹿苑

人間の都合で、害獣としても観光資源としても扱われるシカですが、今回の見学を通じて図鑑や剝製からはわからないシカの魅力や人との共生の可能性に気づかされました。

個別個体の観察

全員で一通り公園を回った後は、個人に分かれてじっくり鹿の行動を見ました。具体的には、この子と一頭決めた鹿を15分以上、追いかけて観察しました。

私が追いかけたのは、この鹿。

(画質が荒くてすみません…)
「しんちゃん」と名付けました。背骨に沿って2列の模様が綺麗に並んでおり、性格的にも芯の通った鹿だという印象を受けたからです。この時期の鹿の角はまだ形成途中で柔らかく、ビロード状の毛に覆われています。

最初に見かけた時しんちゃんは、道路を横断したものの柵を抜けられず、もたもたしていました。

2分以上行ったり来たり。行き交う車は、しんちゃんを待ったり、避けて走ったりしています(奈良では車よりも鹿が優先)。しまいには次に来た鹿も後ろに待たせることに。
その後は、ひたすら草を食べます。

短い芝ばかりですが、少し伸びたものを探して、ひたすら食べます。
アカメガシワは嫌いなのかな?

観光客が鹿せんべいを差し出しても、匂いを嗅ぐなど軽い挨拶はしますが、食べません。草を食べ続けます。一度だけ、若い女の子がくれた煎餅を食べました。その子から4〜5枚立て続けに食べましたが、他の人からは一枚も受け取りませんでした。謎です。他にも煎餅を差し出した女の子はいましたから、女の子だからというわけでもなさそうです。ちょうど食べる気分だったのかな。

歩きながら二回ほど、ポロポロとうんちを落としました。

他の鹿との交流は少なそうです。一度だけメス鹿のお尻に挨拶をしました。

しばらくすると、大雨がザッと降りました。と同時に、周辺の鹿が一斉に駆け出して行きました。しんちゃんも付いて行きます。

私も途中までは追いかけましたが、結局どこを目指していたのか、なぜ走り出したのかは謎なままです。全ての鹿がついて行ったわけではなく、少し離れた場所の鹿たちは特にどこかへ駆け出すことはありませんでした。

鹿によって行動や性格、他の鹿との関係性は様々で、学生みんなが異なる経験をしました。また機会を見つけて今度は丸一日、鹿の行動を追ってみたいです。

以上

報告は林業専攻2年の森さんでした。山林では見えないニホンジカの生態や行動を知ることと同時に、道路標識をはじめとした様々な視点から野生動物に関する理解が深まってくれたのではないでしょうか。

編集:新津裕(YUTA)