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2024年06月17日(月)

ニホンジカの影響を知る:Cr「森林獣害の基礎」

これからの森林とのかかわりを考える為の「森林獣害の基礎」を開講しました

 森林は林業三世代とも言われるほど未来を見据える必要がある産業だからこそ、外的要因の野生動物とのかかわりを知っておく必要があります。今回はとある森林を視察し、そこでの様子と感想を学生がまとめてくれました!

 

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 今回はクリエーター科1年の専攻科目「森林獣害の基礎」の授業での視察についてご紹介します。「森林獣害の基礎」という科目は、森林獣害の種類や被害状況を理解し必要な対策を考えることを目的としています。

 

 近年野生動物による森林被害が問題となっていますが、全国ではその被害面積は約五千ヘクタールに上り、そのうちシカによる被害は約7割を占めているとのことです。(林野庁HPより)
 岐阜県も例外ではなく、シカの被害が深刻となっています。その中でも特に大きな被害が確認されている岐阜県南西部のとある森林を訪れましたのでご報告します!

 約1時間林道を走って目的の森林を目指します。

 途中にシカの足跡やフンや毛を見つけ、シカを発見できる期待は高まりますが、当日は最高気温30度の真夏日ということもあり、なかなかシカの姿を捉えることができません…

生え変わりのお尻の毛:ニホンジカ

無数の足跡:ニホンジカ

 でこぼこの林道を進み、標高約900mのところへやってきました。
 昼休憩をとって、シカの被害状況の確認とフィールドサイン探し開始!
 しかし、森林に目を向けると次々とシカの被害を目の当たりにし、とてもショックを受けました。

樹皮剥ぎのあと

スギ、ヒノキの苗の食害

植栽して10数年の植林地

※植林して10年以上経っているのにこれだけしか成長していません!

 枝葉の食害によりこんなにディアラインがはっきり…(ディアラインとは、林業作業道沿いの下層植生や枝葉が食べられることによりできる採食ライン/林野庁)

 

 こんなにシカの被害が増えてしまっているのには理由には以下のようなものが挙げられます。
・以前より人が森に入らなくなったため
・猟師さんの減少、高齢化のため
・一度に1m以上の降雪が少なくなったため など等数えだしたらきりがありません

 これらの理由を考えると、ネガティブな要素が多いように感じます。しかし、当日オス4頭、メス13頭のシカを目撃すると、シカを可愛く思う気持ちやシカを見れた喜びを感じられました。

 シカの食害などで実際に材木としての価値がなくなってしまうので本当に重大な問題ではありますが、その被害を少しでも抑える方法を考えつつ、山を見る視点を変え、山を案内するツアーやシカの生態を観測する会を開くなど、人と山の距離を近づける方法を考えることも重要だと感じました。

―林業専攻 渡邉―
 実際にシカの皮剥ぎやスギヒノキの芽の食害を目の当たりにして、本当に衝撃を受けました。何十年も手をかけて育てた木が材として価値のないものとなってしまうということは、山にかかわる人たちにとっては耐え難いことだと思います。利益を生み出す方法として、森林ツアーや山での体験等の方法は有効ではあるものの、本来このようにシカが増加する状況となっている原因は私たち人間にあるということを改めて考えるべきだと感じました。

―環境教育専攻 坂本―
 林業も獣害を受けていることは授業で学んでいましたが、想像以上の被害を受けていて驚きました。また、シカなどの被害が酷い地域は山奥ということもあり、獣害だけでなく雪による被害のダブルパンチを受けていて、もしも自分の山だったらと考えると辛い状況でした。樹木の食害などは、人的被害や農業被害のような人間の暮らしに近い部分の獣害の陰になりがちなので、まずは林業にも甚大な被害が出ている状況を多くの人に認知してもらうことが重要なのではないかと思いました。

―環境教育専攻 森田―
 1日の視察を経て、「シカって可愛い!」という気持ちが正直な気持ちです。綺麗な毛並み、群れでピョンピョンと跳ねる姿、じっとこちらを警戒して見つめる瞳ですら可愛く感じられました。シカを見つけるたびに私たちの歓声が上がり、じっとその先を食い入るように見つめる時間が確かにありました。
 シカを可愛く思える人間の気持ち、林業に携わる方々が生きていく中で木を切れないときのやりきれない気持ち、そして一生懸命生きようとしているシカの姿…どれも大切な実感や事実だと思います。長い目で見れば、シカの数も自然の力に淘汰され、収まっていくのだろうけれど、そこに生きるシカたちの生活を思うと「仕方ない」とも言い切れない気持ちになります。同じ大地に生まれた存在として、うまく折り合いをつけられないだろうか…とも思います。
 最後、「自分が山主だったらどうするか」という教員の問いを受け、学生内で「ジビエ食を展開する!」「シカ観察するツアー!」「食害を逆手にとって価値づける!」などの意見が交わされましたが、さまざまな視点で森を見ていくことで、シカと人間の関係性が変わってくるように感じました。
 私は「この世界(特に森)っていいなあ」「人と繋がるっていいなあ」と素直に思える人が増えたらいいなと感じていますし、そのためにどうしたらいいか考え、実践を積み重ねたいと思っています。そして、将来そのような場を創っていきたいと感じていますが、今回の視察及び意見交流を通して、それらに関する示唆を得られたように感じました。ここで感じたことを将来に繋げていきたいと思います。

以上

 机上で獣害の事を知っているだけでなく、実際その被害の現状を目の当たりにすることでよりリアルに自分事に捉える事が出来たと思います。今後木材生産をするだけでなく、森林を活用する上でも野生動物とのかかわり方をどう考えていくのか。そんな事を考えるキッカケになれば幸いです。

 

報告:新津裕(YUTA)