活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2024年06月10日(月)

【アニュアルレポート2023】GISアプリを活用した架線設計の省力化

岐阜県立森林文化アカデミー活動報告2023より

GISアプリを活用した架線設計の省力化

准教授 杉本和也

目的

 急傾斜地や路網開設が困難な現場において、架線による集材作業は必須な技術であるが、設計や架設に手間がかかることが大きな課題である。スイングヤーダのような集材距離が100m程度の簡易架線であれば、見通しが効くため図面で検討するなどの設計作業は不要であるが、300mを超えるような中~長距離架線になると、先柱、元柱はどこにするのか、土場や集材機はどこに置くのか、張り上げた場合に、線下の高さはどの程度確保できるのか、など綿密に検討する必要がある。また間伐作業の場合は、伐開幅を大きく確保することができず、事前の測量作業が必要である。従来はコンパスや測量ポールを使って、架線のルートを現地で確認し、伐採が必要な立木をマーキングしていたが、人手が必要であり、厳密な測量ができない場合は、実際に張り上げる線が予定とずれてしまい、必要な手間が増えるケースもあった。近年、精度の高いGNSSやDEMデータの普及により、GISやGNSSを用いて簡易かつ正確に測量と現地確認ができるようになってきた。今回の研究は、これらを用いて架線の設計にかかる手間を減らす手法の検討を目的とする。

 

概要

 これまで、GISとRTK-GNSSを活用して先柱、元柱の位置を決定、GISによる架線の線下高さの算出、架線が効率的な配置できそうか検討する取り組みを進めてきた。RTK-GNSSは条件にもよるが誤差数cmと高精度で測位が可能なため、スマートフォンで作成した図面とRTK-GNSSにより測位した現在地を比較することで、高精度で架線ルートを予測することができ、線下伐採が必要な場合は、必要最小限の伐開幅に抑えることができる。タワーヤーダやダブルエンドレス式の架線等で間伐作業を行う場合に、伐開幅を必要以上に広げることは避けたいため、GIS、RTK-GNSS、スマートフォンの組み合わせは有効である。
GISはこれまでQGISを活用してきたが、QGISで作成した地図をスマートフォンで表示しようとした場合、ブラウザ上で確認できるWebMapに変更して表示する、もしくは位置情報付きのPDFであるGeoPDFを地図アプリで表示して現地踏査を行ってきた。しかし、現地で先柱や元柱を変更した場合、スマートフォン上で架線ルートを変更できなかったため、内業を行いQGIS上で再びルートを編集する必要があった。現地と内業の行き来を減らすため、今回は、Qfieldというスマートフォン上でQGISの操作が可能なアプリを使って、現地で架線のルートを編集し、内業を減らして先柱、元柱の選定、架線ルートの決定を行う仕組みを検討した。
 Qfieldとは、デスクトップのQGISと連動してスマホ上で操作ができるアプリで、Android版とiOS版が提供されている。QGISにQFieldSyncというプラグインをインストールすることで、QGISとQFieldを同期することができる。例えば、QGISで先柱、元柱の大まかな位置や線下高を考慮して架線のルートを作成し、現地のスマホでQFieldを開くと内業で作成した図面をそのまま表示させることができる。QFieldでは編集作業も可能で、現地で先柱、元柱の位置を確認した後で、架線のルートを変更し、RTK-GNSSで現地確認することが可能である。編集した図面はQGISと同期することも可能である。QGIS、RTK-GNSS、スマホのQFieldを活用した架線の設計手順を以下に示す。

① (内業)大まかな架線のレイアウト検討
 QGISで大まかな先柱、元柱の位置、土場の配置などを検討。下見等で現地踏査を行う機会があれば、先柱や元柱の候補、土場の位置などをスマホで位置を記録して、検討の際に活用する。CS立体図とQGISの3D表示を用いて、線下高を確保して効率的な集材が可能かどうかを検討する

図① QGISでの架線レイアウト3D表示

必要に応じて、DEM(Digital Elevation Model,数値標高モデル)から横断面図の作成や、負荷索、無負荷索の架線軌跡の計算を通して、集材時に必要な線下高を確保できるか綿密に検討する。作成した図面はQFieldで確認、編集できるよう同期しておく。

② (現地)RTK-GNSSとQFieldで現地確認
 高い位置精度が得られるRTK-GNSSを利用して、現地で選定した先柱、元柱の位置をQFieldで記録。架線のルートも現地の記録に合わせて変更する。現地でルートを踏査し、問題がなければ、QFieldで編集した架線ルートとRTK-GNSSで取得した現在地を見ながら、線下伐採が必要な立木にマーキングを行う

 

図② QFiled画面

 演習林でQGISとQFiledによる架線の設計、現地確認を行った後、実際に主索の張り上げを行ったが、QGISとQFieldで作成した架線ルートと、ほぼずれがないため、必要最小限で架線の線下を伐開できる考えらえる。線下伐採が必要であり、先柱と元柱の見通しが効かない場合は、この方法で有効に作業を計画できる。ただしDEMからの縦断面図作成や、綿密な線下高の算出は、スマホを操作してQField上で実行するのは困難であるため、内業で実施するのが効率的である。しかし、内業でQGISを使って作成した図面を現地で確認する作業や、既存データの編集はQFieldで容易にできるため、内業と現地をいったり来たりする手間を極力減らすことが可能である。

教員からのメッセージ

 架線計画において、GISを用いることにより、様々な架線レイアウトを検討することができる。またRTK-GNSSとスマートフォンを組み合わせることにより、実測作業を一人で行うことができるため、主索ルートの踏査および伐採作業を省力化することができる。架線を計画するにあたり、GISとGNSSをぜひ活用して効率的な架線配置を計画して頂きたい。

 

過去のアニュアルレポートは、ダウンロードページからご覧いただけます。