日独連携視察レポート【獣害対策】③
狩猟イベント(学生企画・運営の狩猟)
活動レポートのたぶん最終回です。今回少し長文ですが、最下部に参考のURL等を記載しています。お時間あるときにご覧ください。
初回の報告でも記したように、ドイツでは狩猟を行うために非常に高度な知識と技術が必要です。そして、アカデミーの連携先であるロッテンブルク林業大学(HFR)では、ライセンスの取得も含めたカリキュラムが組まれています。※現地に留学中のアカデミーOBによると通常のライセンスを取得する以上にHFRでの資格取得のハードルは高く、HFRを経て狩猟活動を行っている人は特に優秀だとの事です
今回の視察では、学生が企画をする狩猟イベントに参加をさせて頂きました
この狩猟イベントは猟期に3回開催されます。最初の2回は狩猟学の担当教員やフォレスターが主催として実施しますが、最後の1回は学生が企画・運営を行うという実践的なカリキュラムです。
朝日が昇る前から受付(気温は-8℃)
参加者は受付で狩猟ライセンス・トレーニングの修了証の提示をして参加費5€を支払います。受付を済ませたハンターは午前と午後の人員配置や諸注意が記された用紙を受け取ります。
時間になるとホルンが鳴り開会式
今回の運営リーダーはHFRに入学する前から狩猟を行っていたこともあり、1年生とは思えない仕切りでした。
今回は100人規模の巻き狩りです。射手と勢子(Treiber)に割り当てられ、射手はHFRの2年生や地域のフォレスター&ハンターから構成されおよそ60人がハイシートに待機します。勢子は1年生が中心となっていることもあり、アカデミーにも来校してくれたバイムグラーベン教授から改めて諸注意が案内されていました。
事故防止の為、射手がハイシートにスタンバイ出来たら勢子も移動します。
道中には狩猟の影響による交通事故などを防ぐために、速度制限の案内設置や道路に接する面にはフラッグを張り巡らせ、獲物の行動を抑制します。
現地に到着すると、事前に定められたエリアと勢子が移動するルートの確認です。日本同様に電波の入らない森林でしたが、オフラインでもGPS情報とPDFデータに落としたマップで位置情報を確認できるシステムを活用していました。※こちらは最下部にリンクを貼っておきます。
勢子は藪の中を10~20m間隔で広がり帯状に声を出しながら移動していきます。役目は「追い立てる」というよりは「獣を動かす」です。勢子として動き出すと銃声が聞こえてきます。銃声が近いと不安もありますが、射手には厳しい制限がかけられており、ハイシートから60mを超える射撃は認められません。また、勢子が動いている時間は何があってもハイシートから降りる事は許されません。その時間内では例え捕獲できたとしても獣の確認をしに下に降りることも出来ません。
午前のターンが終了すると小休止。HFR所有のキッチンカーで賄いが出ます。参加費の5€はこの食費との事。
捕獲個体のピックアップチームが到着すると、解体のチームが待ち構えており手際よく解体が進められていきます
この際に個体識別番号と種類・性別・年齢を記録していきます
HFRではチュービンゲンからブッチャー(肉屋)を呼び、1週間滞在してもらいながら捕獲した個体の解体とパッケージを行うそうです。解体はブッチャーだけでなく先輩学生やフォレスターに教えてもらいながら1年生もチャレンジです。内臓の観察で健康状態の確認をしたり、歯列から年齢を計測したりと学びながらの解体です。バイムグラーベン教授いわく、経験者と初心者が混ざり学び会いながら経験していくことが重要なのだと。
※肉はHFRのHP内でも販売されています。
https://www.hs-rottenburg.net/informationen-fuer/wildkaeufer/
午後はエリアを変えて同じような仕組みでもう2時間の巻き狩りです
終了の時間になると、あるフォレスターに相談するハンターがいます
どうやら撃った弾が当たったモノの、逃げてしまったとの事。このフォレスターは追跡のプロであり、必要な位置情報やどこに弾が当たったのかの情報を確認したのち、現地へ向かいました。私も同行させてもらい、追跡とピックアップの手伝いをしました。
現地でハイシートの位置と着弾地点を確認。場合によっては10キロ以上も歩き回ると脅されましたが、優秀な犬の力で現地に到着してから2分ほどで倒れたイノシシを発見。
ハイシートから50mしか離れていませんでしたが、藪で隠れていたため近くに行かないと発見できません。狩猟用にトレーニングされた犬はとっても優秀です。
今回のエリアは午前350ヘクタールを12の区画に分け、午後300haを11の区画に分けた学校演習林で行われました。この日は午前15頭、午後9頭の計24頭のノロジカ・イノシシが捕獲出来ました。
最後に射手から集めた情報を整理して、森林内の野生動物の生息状況や捕獲頭数、ハンターの射撃熟練度などを情報として蓄積していくことで、情報を見える化していくのだそうです。
今回の視察を通じて
単に「獣害対策で捕獲を行う狩猟」ではなく、安全に持続的に森林内での活動(林業・レクリエーション・狩猟)を行う事が念頭にあるフォレスターとしての関わり方を垣間見る事が出来ました。
報告:新津裕(YUTA)
活動報告内で紹介している参考情報