活動報告
最近の活動
月別アーカイブ
2025年01月14日(火)

2024ドイツサマーセミナー報告①

明けましておめでとう御座います。
今回は、昨年9月に実施されたドイツサマーセミナーについて2回に分けて報告します。
サマーセミナーとは、本学が連携協定を結んでいるドイツの南部 バーデンビュルテンベルク州に位置するロッテンブルク林業大学校と、同じように連携協定を結んでいる日本の大学(岩手大学、鹿児島大学、信州大学など)と共同参加するセミナーで、ツアー形式でドイツの林業・森林空間活用などに関する講義や現場、施設などを1週間程度で巡ってくる夏の特別セミナーです。
 今年度は、9/15~22の8日間で実施され、2人の林業専攻の学生が参加しました。その2人の報告会の資料から8日間を振り返ってみたいと思います。

セミナー初日(9月15日)

2024年サマーセミナー1日目はロッテンブルク林業大学がある町、ロッテンブルクの町歩きからスタートしました。この町は南ドイツのバーデン・ヴェルテンベルク州に位置する人口約4万人の町になります。現在ロッテンブルク林業大学の学生でありアカデミー卒業生の小原有光(おはらありちか)さんと現地の学生2人ジョセフィーヌさん・セバスチャンさんに案内していただきました。

ロッテンブルクの街の風景

ロッテンブルクの街の風景(ネッカー川の橋の上から)

ロッテンブルクの町は昔から砂岩の産地として有名であったこともあり、教会も砂岩で造られていました。ここには告解部屋いわゆる告白部屋が残されており、現在でも1週間に1日利用されているそうです。昔は、前の人が終わるとすぐに対応できるように隣のドアから入り、待機していたほど大勢の方が利用していたそうです。細部の装飾にはきれいな木目が印象的でした。

教会

教会の中の告解部屋

中心街に向かう途中に見えてきた塔は、現役の刑務所でした。一目見ただけでは分かりませんでしたが、歴史ある古い刑務所だそうです。周囲の有刺鉄線フェンスには時々サッカーボールが挟まっており、日中には囚人たちの賑やかな声が町に聞こえるそうです。刑務所近くには貴重なフレスコ画が唯一現存する中世の門が残されており、驚いたことにその塔は賃貸可能とのことでした。

見え隠れする刑務所の一部

賃貸可能な中世の塔

中心街に差し掛かり少し小道に入ったところで私たちの前に見えてきた景色は、ローマ帝国時代の兵士たちが戦う周りで大勢の親子が賑わっているものでした。なんとこの日はローマ帝国の町がロッテンブルクにあったことと関係したお祭りの日。特別に当時を再現した出店や兵士の戦いが行われていました。近くの資料館では発掘されたローマ帝国時代の遺跡がそのまま展示されています。

ローマ帝国時代の演劇を披露する若者たちを囲む町の人

ローマ時代のトイレ遺跡@ロッテンブルク街中の博物館にて

この日の夕食はロッテンブルクでも古くからある有名なレストランに案内していただきました。レストランの地下では少し前まで稼働していたビール醸造機が私たちを迎えてくれました。セバスチャンおすすめのマウルタッシェンスープ(餃子スープに似ている)は絶品でした。そのほかにも、シュペッツレやビールをおいしくいただきました。

各レストランごとにあったというビール醸造機

マウルタッシェンスープ

この日、学生たちは近くの修道院に泊まりました。2日目からついにドイツの森に入ります。

セミナー2日目(9月16日)

サマーセミナー2日目は、ロッテンブルク林業大学からスタートしました。ロッテンブルク林業大学でサマーセミナーを担当してくださっているハイン先生の講義を受けました。ハイン先生のご専門や学校の歴史、現在ドイツが直面している気候問題などについてレクチャーいただきました。その後、演習林に向かい育てたい木を選ぶ実習を行いました。こうした造林の方法は「将来木施業」(しょうらいぼくせぎょう)と呼ばれています。本校の講義や実習だけでなく飛騨の広葉樹施業でも実践されている方法なので、ドイツの地で他大学の学生と一緒に選木できたことは貴重な体験でした。

ハイン先生との選木実習

午後は経済学専攻のステファン教授から、都市ではない田舎でのこれからの経済についてレクチャーしていただきました。ドイツも日本同様に人手不足が深刻化しており、特に農業といった第一次産業を支える対策が求められていました。国際競争と同じステージに立つのではなくその地域ならではの何かが必要。たとえ、海外製品を使っていたとしてもその利用活用が地域性を持っていることが重要であるとおっしゃっていました。地域が違えば山も違う。日本でこそ、地域性のある経済を求めていきたいと思いました。

ステファン教授

セミナー初3日目(9月17日)

サマーセミナー3日目は、フンスリュック=ホーホヴァルト国立公園に訪れました。ここは大きく①林業的活用エリア(公園に隣接するエリア)②半分だけ人間の手を入れるエリア③全く人の手を加えないエリアの3つのエリアに分かれていました。公園を管理しているフォレスターによると、2018-2022の乾燥被害は甚大で何万ヘクタールという被災規模だったそうです。

フンスリュック=ホーホヴァルト国立公園

➀エリアではキクイムシ被害と野生動物の急増が周辺住民を不安にさせていました。キクイムシ被害を抑止させる対応として伐採された木が道脇で市場に出荷されるのを待っていました。

キクイムシ被害地と伐採処理木

②エリアでは、①エリア同様にキクイムシ被害抑止のため伐採され、樹皮がはがされた状態で木材が山斜面に置かれていました。ここでは木材生産が目的ではないのでできるだけバイオマスを山に留めておく措置が取られていました。写真のなかでちらほら高い位置で伐られている立木がありますが、これは枯木を好む生物のために保存しているとの事でした。ちょっとした環境の違いが、斜面全体の微地形を変化させ微気候を作り出す要因になっているという考えのもと、こうした措置がドイツでは求められていました。

気候変動のツメの跡

③エリアでは、キクイムシ被害に遭ったドイツトウヒ林を伐ることなくそのままにされていました。ここではキクイムシ被害に遭った林がどのような経過をたどっていき、生態系を生み出していくのか観察されていました。フォレスターは、昔はこれらの枯木をどうやって活用するかを考えていたが、今は目の前の枯れた林がどのように変化していくのか将来どのような森づくりにつながるのか楽しみになった、とご自身の思考の変化を嬉しそうにお話ししてくださりました。

枯れたドイツトウヒの林@このまま見守るエリア内

同じく③エリアでは道路の30%を自動車通行禁止にし、動物たちがより「自然的」に往来できるようになっていました。自動車の通行禁止が動物たちの移動範囲を拡大したことによって、日中でも動物カメラに姿が映るようになりました。それだけでなく、公園利用者からは倒木など道の障害となるような木もあってよりエキサイティングだという声が寄せられているそうです。

道をふさぐ倒木@このまま見守るエリア内

自動車通行禁止の標識@このまま見守るエリアにて

この日はエーベレンベルク城下町のレストランで夕食後、エーベレンベルク城に宿泊しました。素敵な夕焼けをみんなで眺めつつ2日目は無事終わりました。

お城からの夕焼け

セミナー4日目(9月18日)

サマーセミナー4日目は、Soonwalt森林管理署を訪問しました。1990年には針葉樹林だったこの森。しかし嵐によってたった2日間で100万㎥が風倒木被害に遭いました。現在ここの営林署では被害に遭った森をより早く再生させつつ、新たな混合林を目指しているそうです。またこの地の森は、不透水層があり、土壌の水気が多いためなるべく早く水を排水することが求められていました。しかし、降雨が早く排水されたことによって下流域の町が浸水する被害が起こり、そこから「排水させた水を再び森へ」という排水計画に変更になったそうです。林道や小川への素早い排水と同時に、森の中へ続く溝や池を張り巡らせゆっくり土壌に浸透させることで水質保全としても機能させていました。

混合林を目指す森

張り巡らされた溝と池の様子

また「Rigole」(リゴーレ)という排水施設も独自に設置され、すでに100か所作られています。今後さらに100か所ほど追加で作る計画だそうです。この施設は、林道横の側溝を流れてきた水が小さな水たまりに溜まり、そこから路面下の石と石の間を通り野原へと流れ出しやがて大きな池へと流れ込む仕組みになっています。この池には両生類や野生動物たちも水を飲みにやってくるそうです。森林と林道保全・生物多様性への環境的配慮を兼ねそろえた施設になっています。

リゴーレ

リゴーレから池に続く暗渠

次に訪れた施設は、昔、馬小屋として使われていた場所で、ドイツ国内でも高いレベルで維持管理(設備の質、衛生面、労働環境、地域肉としての販売ルートの確保)されている食肉加工処理施設として使われていました。ここでは、年間6200頭の鹿やイノシシが運ばれてきます。通常捕獲されたときに内臓処理を行いますが、この営林署内で秋から冬にかけて伝統的な追い込み猟によって捕獲された動物たちは、トラックによって回収されこの施設に集められています。解体は森林官が行うのではなく、専門技術を持った“お肉屋さん”が作業されていました。この日のお昼は営林署のご厚意で特別にジビエソーセージのホットドックをごちそうになりました。

木組みの様子

当時植えられていた種類のハーブを再現した庭園の前で

ここでサマーセミナー前半の報告は終わります。後半は同じく林業専攻1年の田中さんにバトンタッチします。

 

森と木のクリエーター科2年 林業専攻 村田