プチ林業事例調査in滋賀(3)比叡山延暦寺 坂本森林組合さま視察(2024/8/1AM)
滋賀事例調査の二日目は比叡山延暦寺と比叡山を中心とした森林の管理を担っている坂本森林組合への視察に伺わせていただきました。
今回訪問した「比叡山」は地名であると同時に、延暦7(788)年に伝教大師(最澄上人)によって開かれた延暦寺の山号ともなっています。その比叡山の森林管理を主に担っているのが今回案内をしていただいた坂本森林組合となっています。坂本森林組合は比叡山延暦寺の住職の方々を含めた森林組合となっており、約1,700haに及ぶ境内林、境外林の管理を担っています。その内訳として、観光林や経営林、資源林、水源林といった様々な区分が為されており、現在は下刈等の保育作業や外部委託による間伐に取り組んでいるとのことでした。
長い歴史を持つ比叡山延暦寺ですが、焼き討ちや明治維新後の廃仏毀釈、それに伴って山林のほとんどを国有林として没収されるといった苦難に遭遇しつつ、森林管理が続けられてきたとのお話を伺いました。そうした中で、明治41(1908)年に森林の多くが下げ戻された際に、森林施業案が編成されるなど、長期管理の取り組みが為されてきました。
今回の見学では、境内林と境外林の両方を案内していただきました。比叡山では全体として様々な特別地域等に指定されていることからも環境保全を重視した林業経営が行われていますが、大きく環境保全を重視する境内林と木材の収穫を重視する境外林とに分かれています。境外林では山腹を中心にヒノキが主に植栽されており、80年をおよその伐期とした施業が行われているとのことでした。一方で、境内林では樹齢300~400年の大木が林立していた他、「魔所」と呼ばれる原生林に近い植生が残ったところも案内していただきました。こうした境内林、境外林といった大きな区分けに加えて、水源の森としての整備やドライブウェイ沿いの広葉樹植栽など、比叡山での多様な森林管理を伺うことができました。
また、当日は比叡山の森林の見学に加えて、「にない堂」とも呼ばれる常行堂および法華堂、根本中堂といった場所も案内していただきました。根本中堂は改修工事中で栩葺(とちぶき)という板を重ねた屋根の様子を間近に見ることができました。また、保存改修という昔ながらのものを残すかたちを採っており、遠く小豆島から運ばれてきたという床石や江戸時代の造営時から残る柱や天井絵も見ることができました。内部の厳かな雰囲気に圧倒されるのと同時に、長い時を経てなお現在の耐震基準をも満たす建築物を人力にて建てた当時の技術力の高さを実感することができました。
以上、滋賀事例調査二日目に訪問させていただきました、比叡山延暦寺および坂本森林組合での見学についての報告でした。今回の見学を通して、延暦寺を含めた比叡山の長い歴史と伝統を実感するとともに、そこでの多面的な森林管理について学ぶことができました。木材の生産をしつつ、歴史や文化、環境的な側面を踏まえての境内林や水源林といった多様な側面を実現させる取り組みに触れることで、本来の森林が持つ「多面的機能」の一端を垣間見ることができました。木材の供給や水源の涵養といった森林の機能に注目が集まるのと同時に、人と森林との関わりの中で営まれてきた歴史や文化といったものへの着目も重要になってきていると思います。その際に、社会や自然における森林をどのように位置づけるのか、扱っていくのかをこれからも考え続けていきたいと思います。 (1年 唐木田)
(林業専攻教員 津田)