里山での獣害対策:Cr「森林獣害の基礎」
「森林獣害の基礎」3日目は美濃加茂市へ見学に行きました。1日を通じてどのような見学だったのかを学生がブログ記事を書いてくれました
以下は林業専攻の唐木田さんの報告です
美濃加茂市は標高の低い山が多く、山の所有者が細分化されていたことから、人工針葉樹林による林業はあまり発達せず、薪炭林に端を発する広葉樹林が多く残った地域です。また、林業に代わり果樹や田畑での農業が発達したこと、低い山々に囲まれておりイノシシが多いことから、獣害対策では農作物への被害防止を主な目的として行っている地域となっています。そのため、前回のような奥山の植栽地での獣害対策とは異なり、里山の整備と緩衝帯の維持管理、主にイノシシを対象とした捕獲等といった取り組みが行われていました。
今回はまず、みのかも健康の森にて美濃加茂市農林課の担当者の方々から行政と猟友会による獣害対策の取り組みについて伺いました。農作物への獣害被害を防ぐために、美濃加茂市では「里山千年構想」を掲げ、田畑周辺の里山整備と有害鳥獣の捕獲を両輪とした獣害対策を推進しています。また、それらを担う自治会有志や猟友会といった人手を確保するための里山講座や体験型イベントの実施、森林空間や木材を活用した森のようちえんや小学校との連携事業も行っているとのことでした。
美濃加茂市での獣害対策について説明を伺った後、実際に獣害対策が行われている現場を周りました。植栽地と同様にシカ対策用のネットが用いられており、山沿いの田畑に沿って長々と張られていました。防除ネットの山側には、道が設けられ、そこから草が刈りこまれた緩衝帯と呼ばれる空間が広がっています。
緩衝帯は山と田畑との間に設けられる空き地を指し、山裾の見晴らしをよくすることによりシカやイノシシの人里への侵入(心理的・物理的)を妨げる役割があります。これらの設置・管理は主に、地域の自治会・有志の方々によって担われています。これまでに市内に全長10キロもの防除ネットが地域の方々の力で設置されているそうです。
また、獣害対策としては里山整備による防御策の他に、有害鳥獣の捕獲が重要となってきます。こうした有害鳥獣の捕獲や里山のパトロールは主に猟友会の方々が担っており、行政の方々とともに獣害対策に取り組んでいます。今回の見学では、美濃加茂猟友会の横家さんに案内をしていただき、イノシシ捕獲用の囲いわなの見学とくくりわなの設置場所の見学をさせて頂きました。
実際の森林内でイノシシが通りそうなルートを予想することで、座学では補いきれない狩猟の奥深さを実感することができました。また、里山整備と同様に人手不足に悩む猟友会においても、ICTを活用した省力化が進められており、遠隔操作が可能な囲いわなや動物がかかったことを報せるアプリなどが導入されていました。
以上、今回は美濃加茂市にて、行政と猟友会の方々による農作物への獣害対策について学びました。今回の見学を通して、獣害は山奥の林業地だけでなく、里山の農作地などにもかたちを変えて存在しており、各地域の地形や生業、辿ってきた歴史によって被害の様子も取るべき対策も変わってくることを学びました。また、今回の見学は山と人との関わりについて考える際の一つの手がかりともなりました。前回のシカによる林業地の被害と併せて、林業や農業といった人の生業はその土地の環境の上に立脚しており、そことうまく折り合いをつけていくことが必要なのだと実感しました。同時に、山との緩衝地帯でもある里山の荒廃や人工針葉樹林の手入れ不足といった、人の手が入らなくなったことによる課題も生じており、森林と人とをいかに結びなおすかを考えていく必要もあると感じました。
森林環境教育専攻1年の伊藤
前回の授業では二ホンジカの林業被害現場を視察して、シカは動物園で見ることが一般的ですが、森林では生態系を脅かす獣害扱いになることを肌で知りました。そして今回は、イノシシによる農業被害。里山地域の農業においては、第一次産業に関わる方以外にも、猟師、行政、地域住民、ボランティアといった多くの方々の協力が不可欠です。ただ、超高齢化社会の日本では、里山の暮らしを支える担い手が少なく、整備してもその後の維持管理ができないことは、非常に悲しい現実です。。そんな中、美濃加茂市では、ICT・IoTを活用した遠隔監視遠隔操作が可能な通信捕獲システムを積極的に導入しており、今や市内全域をカバーしているそうで、最近では若手猟師さんも増えているとのことです。さらに官民一体となって、森のようちえんを作ったり(実際に行ってきましたが、とっても素敵なフィールドでした!)、小学生を対象にした自然体験学習の提供など、明るいお話も聞くことができました。最後に、里山に暮らす人々の自然を観察する鋭い目は、現代人が忘れている本来人間が持つ原始的で一番大切な感覚だと考えています。その感覚を再び呼び起こすのが、環境教育で学んでいる私の使命だと思っているので、本学で得た気付きを学びに変えて、将来の活動に繋げていきたいです。
森林環境教育専攻1年の山本
「今回の視察を通して私は、官民の対話や助け合いの大切さをひしひしと感じました。私たちが人や自然との対話を大事にするように、役所と民間お互いが知り合い助け合っていける関係性でありたいと思いました。
私はこれから罠免許を取得し鳥獣たちとかかわっていきます。その時に、私ができることとやりたいこと、公共がやりたいこととできること。すり合わせながら、環境問題や環境教育に立ち向かっていきたいと思います。」
以上
同じ授業でもフィールドが変われば「獣害」という言葉の中に含まれる対象や対策が変わってきます。学生たちの森林を見る目が徐々に変わってきました
報告:新津裕(YUTA)