焼杉づくりで「火育」!安井昇先生の「木造建築の防火」
この日の授業は「木造建築の防火」。
毎年、非常勤講師として来ていただいているのは、建築防火界のトップランナー安井昇先生です。
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安井昇先生の「安井式焼杉づくり」がはじまります
安井昇先生は、数々の実験を通して「木は簡単には燃え広がらない。木の建物でも火を防ぐことができる」ということを証明し続け、木造の可能性を広げている方です。
例えば、3階建の学校をコンクリートや鉄骨でなく、木造でつくれるようにするために、つくばと岐阜県下呂市で安井先生が主査の実大実験を行い、2015年から3階建の学校建築を木でつくることが可能になりました。
また、以前の建築基準法では、住宅は火災を大きくしないために「屋根の軒裏」をケイ酸カルシウム板などの不燃材で被覆する必要がありましたが、安井先生の師匠である長谷見先生が「厚板で隙間なく納めれば、軒裏が木でも火に強い」ということを証明し、軒裏を昔のように板でつくることが可能になりました。これによって、軒先を歩く日本の町並みが守られたのです。
近年は、断熱材との併用で薄い野地板でも採用できる認定も取得されています。
安井先生の功績で、都市の木造化がどんどん容易になって来ています。
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ゴォーーーーーという音がして、中が燃えています。
二日間の集中講義では「火災になる条件」を勉強しました。
「燃え広がる条件が、一つでも揃わなければ、火事にはならない」という防火の考え方を実体験で学ぶため、用紙した杉板を使って「安井式焼杉づくり」を行います。
学内の広場で、筒状に組んだ杉板に、下から詰めた新聞紙に着火。「フラッシュオーバー」を起こします。
中は800度以上の高温で、ゴオゴオと音がするほど燃えていますが、外からは手で触っても大丈夫。
木は断熱するので、裏が三分くらい燃えても、少しホカホカする程度です。
「この形と規模と時間なら、外には絶対に燃え移らない」と断言する安井先生。
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安井先生は100回以上燃やしているので素手ですが、近くにいても全く暑くありません。
「かなり手軽に焼杉板がつくれます。でも冬はやったらダメですよ!乾燥していると芝生に燃え移るので」
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「燃やしながら、こうしてバールで組み方を操作して火を端まで回すと、綺麗に仕上がるよ」
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見事完成。広げると、付近に可燃物がなくなるのですぐに自然消火されます。ちょうど雨が降って来て一気に消火されました
筒状の狭い空間が酸素の通り道となり、輻射熱でお互いを熱しあって「フラッシュオーバー」が起きます。3分で焼杉ができました。
地面に広げると、火はすぐに消えます。杉板が、自身を燃やす熱エネルギーを維持できないからです。
こういった、火の性質を体験から学ぶことを安井先生は「火育」と呼んでいます。
「火のことって、結構知らない人が多い。火を知れば、火事にならないためにどうすればいいか、自然とイメージできるようになる。設計者はそのイメージを持って図面を書いて欲しい」と安井先生。
美濃のまちづくりにも、防火の知恵は応用されています。
度重なる火災に見舞われた美濃の町は、道幅を広く取ることで向かいの家への輻射熱による延焼を防ぎました。
うだつの上がる町並みでの「うだつ」も防火のための袖壁が、上に伸びたものです。
この日は小坂家住宅や町並みを見ながら防火の工夫を解説いただきました。
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小坂家酒造の「うだつ」による延焼防止を解説。ちなみに、上に伸びているのは、屋根が板葺きだった江戸時代に、火が屋根の上を走るのを防ぐためです。
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学校を木造化するための実大実験の映像。3度の実験で、燃え広がらないための条件が整理され、法制度化されました。
二日間の講義では、学校の実大火災実験の様子など、滅多に見ることのできない貴重な動画をたくさん見せていただきました。
火の性質と防火の、とてもわかりやすい講義はもちろん、最新の認定や基準法告示の仕様が紹介され、大変勉強になりました。
安井先生、どうもありがとうございました!来年は、安井先生の設計した「八ヶ岳の秘密基地」に伺います!
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「この部屋のあの辺りに火源を置いても、燃え広がりませーん。なぜでしょう?」と安井先生。正解は、壁が石膏ボードなのと、天井が高いからです。
文:講師 松井匠