教員お気に入りのアイテム12:「モノの奥にあるココロ」嵯峨創平
教員お気に入りのアイテム12:「モノの奥にあるココロ」
紹介している教員:嵯峨創平
昔から、モノに対する好奇心は強い方ですが、所有欲や収集欲は弱いんだと思.います。
そんな私が、もう20年以上続けているのが「モノを入り口に、それにまつわるコトやワザを聞き、その奥にあるココロを理解する」という調査法です。地元学といいます。
地元学との出会いは、1990年代に熊本県水俣市を訪れた時に、吉本哲郎さん.が水俣川流域の集落で展開していた「あるもの探し」に参加した時でした。後にそれが地元学と名付けられて、地域資源を地元の人とよそ者が協働で発見する調査法として日本全国・海外にまで広まりました。
吉本さんの教えるよそ者の役割は、①びっくりすること、②質問すること、③すぐに解釈しないことの3つ。集落の道を地域のお年寄りとアリの歩くような速さで(およそ100mを1時間かけて)歩き、その場で目についた「おや?」「なんだろう?」と思うモノについて質問しながら写真に納めていきます。すると何でもない風景の一部~路傍の石や草花にまで~きちんと役割や来歴があることが次々と語られます。自らの生活世界についてヒト・モノ・コトの関わりの経験知を驚くべき濃密さで蓄えていることを知ると、けっこうカルチャーショックを受けます。この時に都会ぐらしの常識や学術的な知見を当てはめて、直ぐに解釈しない(時にはお年寄りの間違いを正す人もいる)ことが肝心です。
聞き取った情報は「地元に還す」ことが地元学の精神なので、後ほど写真付きの絵地図にまとめたり、地元学カードに記入してファイルしますが、上記の「あるもの探し」だけでも、ミクロハイクとしての「旅」気分を味わえます。水俣の経験の後、私もあちこちで地元学を使った地域調査をしてみました。住まいの周辺の東京都北多摩地域では「大根」や「麦」をテーマにした地元学まち歩きをして、小さな展示やツアーを繰り返しました。当時よく通っていた福島県奥会津の山村では、お宅の台所で「漬物」だけを話題に半日過ごしたり(30種類の野菜×3種類の漬け方=90種類ものストックがある)、「ものつくり小屋」で一日過ごしたり(ヒロロ、マタタビ、山ブドウなどの編み組細工が有名な村でした)。
最近では、揖斐川町駐在員をしていた2016~2017年から現在まで、旧春日村に残されている「民具」(山村の生産用具) を使った地元学をしたり、伊吹山麓の集落の「薬草文化」について地元学を使ったインタビュー調査を続けています。いつも思うのは、モノは質問の入り口として恰好のアイテムで、それにまつわる出来事の記憶が出てきたり、それを使って作り出すもの・その手仕事の技術にまで世界が広がります。そうした語りの奥にココロ(生活の信条や哲学のようなもの)が見える瞬間にしびれます。
ほとんど私の習い性(クセ)のようになっている会話法ですが、楽しいですよ。皆さんも試してみませんか?
専門分野 | 農村計画、環境社会学 |
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最終学歴 | 立教大学 社会学部卒(1985)、 京都大学大学院 博士後期課程(在学中) |
研究テーマ | コミュニティの持続可能性と里山資源の保全活用 |
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