樹木図鑑作家の林将之さんと、樹木を感じる・表現する・企てる
「環境教育の現場を知る」の授業において樹木図鑑作家の林将之さんを迎え、「樹木を感じる・表現する・企てる」ワークショップを実施していただきました。フィールドは学内の自力建設「あらかしのだんだん」とその周辺の林内。以下、ゴロー(谷口吾郎)がレポートします。
突然ですが、みなさんは樹木図鑑を持っていますか?
それって、どんな人が書いた、どんな図鑑ですか?
アカデミーの学生は、山渓ハンディ図鑑「樹木の葉」を使っています。実はこの図鑑を作ったのが今回の講師、林将之さんです。「樹木図鑑を作った人」と言われても、「へえ、木にすごく詳しい人?」くらいにしか思わないかもしれませんが、ぜんぜん違うんですよ。
林さんのすごいところは、“樹木図鑑のあり方”自体をデザインしてしまったところ。まさにクリエーターなのです。林さんは学生時代に樹木調べで感じた不便な経験から、既存の樹木図鑑の潜在的な課題・ニーズを見つけ出し、新しい撮影手法や検索手法を開発、自らデザイン・出版し、便利で本当に必要とされる樹木図鑑を作りだしたのです。
そんな林さんが、普段、どんな感覚で植物や自然を感じているのか、新たな図鑑を作り出しているのか。少しでも感じられたらいいなぁ、というのが今回の授業のきっかけ。ということで、林さんにご相談しながら授業計画を練らせていただきました。
午前中は、柳沢先生と津田先生による「フェノロジー(生物季節)調査」の授業に便乗し、毎月、同じルートを歩きながら出現種や変化を調査する「ルートセンサス法」の調査実習に同行しました。心地良い天気の中、熱心な学生・教員に林さんが加わると何が起こるのか…
授業開始から1時間が経ってもスタート地点から50メートルも進んでない御一行。
調査開始地点から色んな発見や解説の化学反応がおこり…
ルート調査が、いっこうに前進しない…(笑)
まあ、これもまた良い学びになりました!
午後からは、自力建設「あらかしのだんだん」に舞台を移し、葉っぱ観察のワークショップ。林さんが10種ほどの葉を集めてきて、学生に名前は告げないまま渡します。学生は図鑑などは一切使わずに、この植物にオリジナルの名前を命名します。命名する際には、単に視覚だけでなく、触覚、嗅覚、味覚、聴覚などあらゆる感覚を駆使してその植物を感じ取り、これぞ!と思う名前を考え出します。
それぞれ命名できたら、グループごとでお互いに渡された植物のネーミングを発表しました。
このチームは、写真左のシダ植物を「ネコノタベアト」と命名。猫に食べられたサンマかアジの骨でしょうか(笑)
発表が終わると、今度はお題になった植物を探しに森を探索。「ダイヤの女王」と学生が名付けた植物、その品格のあるたたずまいが命名の由来だそうですが、一般的な名称(標準和名)は「タカノツメ」と言いました。先に名前を聞いてしまうと、つい安心して観察を怠ってしまいがちですが、自ら命名すると植物の隅々まで観察するので、植物への関心がぐんと高まります。なぜ「タカノツメ」と呼ぶのか、そう言われれば、どこをどう見るとタカノツメなのか。和名の由来も気になってきますね。
続いて、自力建設「みどりのアトリエ」に場を移してスライド講義。林さんが樹木図鑑作家になるまでの経緯や、知る人ぞ知る樹木検索サイト「このきなんのき」の誕生秘話などを話していただきました。
最後に、植物図鑑の企画づくりを体験をしました。先にもご紹介したように、林さんがすごいのは、ただ植物に詳しいだけの人ではなく、様々な植物図鑑を自ら企画し、出版までの工程を自分自身でこなしてしまうところ。これは林さんが大学卒業後、小さな出版社に属することで、企画から取材、編集、版下データの作成や、印刷所とのやりとりなど全行程を経験してきたからこそできること。今回は特別に、林さんが企画を練りながらラフレイアウトを書き上げる様子を目の前で見せていただきました。
その後、学生自ら樹木図鑑を企画しラフレイアウトを作成してみました。A3用紙に太ペンで描くのは細部にこだわりすぎないため。そして各々の企画を発表した後、林さんに講評していただきました。
さすが、図鑑づくりでは鋭い目が光り、テーマやタイトルの魅力、切り口、見やすさ、ターゲットの明確さなど、妥協のない視点でご講評いただきました。
今回は、林さんの植物観察の視点を感じることから始まり、新しいモノを作り出す工程まで体験する贅沢な時間になりました。また午前・午後を通して、林さんからは、疑問や不思議に感じたことをしっかり素直に表現できる誠実さと強さを感じました。そうした視点や在り方を、学生に感じてもらえると嬉しいなと思ったし、なにより自分もそうありたいと感じました。
森林環境教育専攻 講師 ゴロー(谷口吾郎)