命の連鎖に感謝して頂くー「山村資源利用演習」
<2024.5.9> エンジニア科2年生・林産コースの「山村資源利用演習」、第1回目のテーマは「里山とジビエ」です。新緑が眩しい、郡上市明宝を訪れました。
まずは「里山」を実際にフィールドワーク。山と川に育まれる、人と自然が共生する環境の成り立ちを見て回った後、林地残材を熱利用するための薪づくりを体験しました。
午後からは、「ジビエ工房めいほう」の元満真道(もとみつ・しんどう)さんからお話を伺います。
猟師であり、シカを中心としたジビエの解体・加工、流通を手がける元満さん。活動のはじまりは、里山の生態系を守ること。そして、命をきちんといただく循環をつくりたかったといいます。
以前は地元だけで消費されていた獣肉ですが、事業にするためには食品流通に乗せることが大事だ、と元満さんは言います。品質と食の安全を担保するために事業スタートにあたっては入念に準備し、2021年から制度化された「HACCP(ハサップ)」に対応した解体、加工を行っています。
販売する肉が美味しいということはもちろん、里山保全を目的にした地域活動が認められ、(一社)全日本・食学会が主催する「bean47 ~2022年 全日本・食学会 生産者賞」を受賞されました。著名な料理人や食品産業に関わる方々で構成される会の栄誉でもあり、有名店のシェフからも声がかかるようになりました。
「肉をいい状態で流通させたいので、大口はお断りしていいます。オーナーシェフの店など、少量で取引できて、食材を丁寧に扱ってくれるところに、良質な肉を届けられるようにしています」
生きものの命と日々向き合う中で、学校への教育活動にも力を入れています。地元の小学校、中学校での授業のほか、高校の授業では実際に解体も見てもらうそうです。
「生徒はもちろん、先生も熱心に見ています。山の暮らしから、生態系のつながりについて知るきっかけになればいいですね。人間も、地球上に生きる一員としての役割がある、ということを感じてほしい」
アカデミー生も、実際に山へ。罠猟の体験をさせていただきます。罠を仕掛ける場所探しを通して、山の自然、そして山で暮らす生きものたちに思いを馳せます。
「山を見ながら、想像力を働かせましょう。ねらっている動物は、縦歩きなのか、横歩きなのか。道は、動物が歩きやすい道か。そこから、どの足に罠をかけたいのか・・・つまり、動物はどう歩くのか。動物の利き足はどちらかを考えながら、罠を仕掛けます」
猟師は毎日山を見回ります。狩猟を通して生きもの、そして自然を深く観察している元満さん。山で聞く元満さんのお話からは、動物たちの姿形、そして森の中で暮らす様が実際に見えてくるようでした。
元満さんからは、狩猟のこと以外にも、これまで歩んで来た人生について、たくさんのことをうかがいました。その中で一人の学生は、「元々はベジタリアンだった」という話に、とても驚いたそうです。
「郡上に来て変わりましたね。手伝っていた林間学校の施設罠に掛かったイノシシを初めて解体したとき、これはちゃんと食べないといけないな、と思ったんです。野生動物も<大きく捉えると生命>と考えた時、心の幅が広がりました」
そして、「食育に興味がある」という学生には、こんなアドバイスが。
「<命の連鎖に感謝していただく>というのが、食の根源ですよね。山にお世話になっているから、私たちは山に感謝しています。一次産業は、それをダイレクトに感じられるのがいい。食育を通して、”大切にしたいこと”をみんなで考える、きっかけになればいいですね」
この日、学生が設置場所を選んで仕掛けた罠は3つ。後日、元満さんから。うち2つにシカとサルがかかったと報告をいただきました。
今回参加した中には、狩猟免許を取得した学生もいます。人と獣の共存はなかなか大変ですが、里を守り、山の恵みを活かす人になっていってほしいです。
貴重な体験をさせていただいた元満さん、ありがとうございました。
<森林環境教育専攻 教員 小林(こばけん)>