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2025年02月20日(木)

地方にある公共施設は若者をどうやって育むのか?(ローカルビジネス)

<2025.1.23> クリエーター科 森林環境教育1年 上田博文(うえぽん)です。

「ローカルビジネス」の授業。午前の(株)Edo 関口さん(飛騨市/記事は こちら)に続き、午後から訪れたのは、高山市の「村半(むらはん)」。

大きな町家を改修し、「高山市若者等活動事務所」として開設。主に地元の中高生たちが勉強の場として利用するほか、交流や自分たちの興味のある活動などにも自由に使える公共施設です。

その施設を整備し、管理されている高山市役所 総合政策部 総合政策課の牛丸大輔 係長と、実際に施設を利用する学生たちの支援や来訪者の案内など運営に携わる赤尾めぐみさんのお二人に、お話を聞かせていただきました。

村半は、飛騨高山の城下町中心部、古い町並みの残る「下二之町大新町(しもにのまち・おおじんまち)伝統的建造物群保存地区」にあります。
空き家になっていた町家を、平成29年度から地元高校生を含む公募市民と市が相談を重ねながら、3カ年かけて改修整備。コロナ禍だった令和2年7月1日にオープンしました。

高山市がこの施設を整備した背景にあるのは、「高山」という地名が示すように周囲が高い山と渓谷に囲まれ、都市部と分断されている地理的条件に加え、地域内に四年制大学が存在しないことから、まちの魅力を知る前に若者が市外に出てしまう状況があるからでした。

<高校生など地元の若者に、地域に誇りや愛着を育めるような場を整える>
そのことで、
<学校や年齢を超えた人々の交流が生まれる。交流を通じて、人それぞれの時間が豊かになる>
それらを通じて、
<結果的に、飛騨高山の”まちの未来づくり”につながっていくといい>

そんな願いを込めて、「村半」はスタートしたそうです。

高山市役所 牛丸さん(写真右)と筆者

施設を利用するためには、あらかじめ登録申請をすれば、市内外を問わず利用が可能。利用料は無料で、利用する時のルールも大まかに言えば「他人に迷惑をかけなければ、基本的には自由」という、とても柔軟なものでした。

牛丸係長から施設の概要を教えていただいた後、現場を運営している赤尾さんから建物の案内をしていただきました。

赤尾めぐみさん。「村半」のオープン当初から運営に関わっている

建物の外観は、3軒の町家を統合・増築したことから、伝建地区に指定されているエリアの建物の中でも大きく、朱色の風格ある佇まいの建物です。

かつての所有者は、製糸や養蚕業をに関わりがあったそうです。繭を保管していた倉庫は大会議室に改修され、60名ほどの講演会もできます。

敷地の奥側には3つの土蔵があり、カウンターを備えた部屋、音響・映像設備がある部屋、大きな机があって話し合いができる部屋などそれぞれに特色があり、様々な用途や機能を満たしながら、利用者が創造的に活用できる工夫がされていました。

土蔵を改装した多彩な部屋がある

 

中でも主屋にあたるゾーンでは、高い天井の囲炉裏の間や和紙で貼られた壁のある本座敷、地割の関係で歪んだ図形となる茶室(それに合わせる職人の技が随所に見られる)、現代的な調理器具と薪で焚くかまどが同居している台所、様々な仕掛けがある通用口の大戸など、高山の古い伝統的な建物の魅力、そして建物独自の面白さが伝わるお話を聞くことができました。

様々な職人の技が見られる茶室

竈門(かまど)は実際に火を使った煮炊きができる

 

また、部屋には地元高校生が作った模型や、木工芸術スクールの学生による作品などが多数置かれています。木製家具の製造が盛んな高山市ですが、地元の会社が作った家具が多く使われていることから、地域との深い関わりがあるという点も感じました。

春慶塗りを施した「長持」など、飛騨の匠の”ホンモノ”に触れられる

 

赤尾さんの案内は、「高山の魅力を知ってもらいたい」という熱い気持ちと、「伝統的な建物を通じて、言葉では伝えない部分での気付きや学びをしてほしい」という気持ちの両軸がありました。どちらの視点からも深く考えさせられ、とても参考になりました。

偶然、この施設を利用している高校生からもお話を聞くことができました。「村半」という場所が自分たちにとって大切な交流の場所であるという一方、「将来は、高山を離れるつもりです」という現実的な言葉も出ていました。

高校生も頻繁に利用している(※一部画像を処理しています)

高山を離れる若者たちへの想い、それに対する「村半」という場所の役割について、日頃から利用者である若者たちを見守り、支援している赤尾さんから率直な意見がありました。

まず、「村半」は若者たちにとっての「サードプレイス」であるということ。その場づくりのために赤尾さんたち運営側が特に気を配るのが、”フラットな対応”ということでした。

印象的だったのは、「村半」では他の公共施設のように管理者側がイベントを主催するようなことはなく、利用者が自発的に何かをすることを応援するスタンスでいることでした。

学生など利用者がイベントを開催したい場合は、彼らの自力を信じて見守り、過剰に手出しはしないという姿勢でいるそうです。一般的には管理が厳しいとされる公共施設において、「村半」では職員のみなさんが、利用者に寄り添う姿勢で向き合っていることにとても感動しました。

 

自主性を重んじ、部屋の利用も利用者同士で調整する

 

高山を離れる若者たちへの想いを語るなかで、<町から人が出ていく>ということについて、

「寂しいことだけど、悲しいことではない」

と、赤尾さん。

「村半で学生時代を過ごした若者たちが高山を離れたとしても。気軽に帰ってこられて、『おかえりなさい』と『いってらっしゃい』が循環するような、そんな場所になればいいな、と思っています」

私はかつて行政で働いていた経験があるのですが、このような気持ちで運営をしている行政職員をとても尊敬します。同時に、それを所管している本課が現場の職員の気持ちや情熱を大切にしている姿勢が、本当に素晴らしいと感じました。

牛丸さん(左)と赤尾さん(右奥)。互いに情熱を注いだ「村半」の説明には思いが溢れる

 

今回、「村半」を訪れて強く感じたことは、「場所」も大事だけど、そこに関わる「人」がもっと大事だ、ということです。

「村半」は、伝統的な建物を活用する公共施設の事例です。「高山の文化や歴史を身近に感じられる場所」という意味合いはもちろんありますが、それよりも若者たちが居心地よく、まちに愛着を抱くようになる「人が育ちあう居場所」ということを大切にしていると感じられました。

場所に行くだけではなく、そこにいる「人」に会いに行きたくなることが、「人が育つまち」には重要ではないでしょうか。

「村半」は事業スタートから熱意ある職員たちに支えられ、現在の素敵な今があって、これからは村半で学生時代を過ごしたかつての若者たちが戻ってくる ―― そんな「未来」が来るように、永く続いてほしいと心から願っています。

***

私は、不登校などの子どもたちが集まることができる「学校以外の居場所づくり」に関心があり、アカデミーで学んでいます。そんな中、教育機関が整備したサードプレイスではない、「村半」という公共施設が「場づくり」として素晴らしい実践されていることを知ったことは、教育活動や若者支援、地域活性化というような、地方自治体の取り組みに幅広く応用できる可能性、そして「人材」の大切さを感じることができました。
今回「村半」で学んだことは、2年生で始まる自身の「課題研究」に生かしていきたいです。

優しく丁寧にお話をしてくれた牛丸係長と赤尾さん、本当にありがとうございました。

<クリエーター科・森林環境教育1年 上田博文>