地域の課題を可視化する(ソーシャルデザイン2<課題の構造図を描く>)
<2024.1.25-26> 森林環境教育専攻の「ソーシャルデザイン2<課題の構造図を描く>」を実施しました。
ゲスト講師は、全国で地域づくりに関わるスペシャリスト、NPO法人issue+designのデザイナー 白木彩智(しらき・さち)さんです。
そして、リアルな学びのために、森林文化アカデミーがある美濃市の課題を考えることに。
テーマを「地域が学び合う生態系をつくるには?」とし、話題提供とコーディネートを、美濃市地域おこし協力隊の大谷一夫さんにご協力をいただきました。
1日目(1/25): まちの声を聞く
1日目は、美濃市のシェアオフィス「WASHITA MINO」をお借りして講義スタート。
まず白木さんから、「課題の構造図」は「立場が違う人達の”目線合わせ”につかうことが多いです」と説明を受けます。
まちづくりからごみ問題まで応用は幅が広いそうで、白木さんはどんなテーマでも「課題の構造図を描く」そうです。
今回のテーマについて、3名の方々からそれぞれの想いを伺いました。
一人目は、大谷さんから。
大谷さんは3年前に東京から美濃市に移住されました。美濃市の地域おこし協力隊という肩書ですが、WAHHITA MINOの事業や市の施策づくりにも関わられ、企業の経営コンサルも手がける”超”スーパーな方です。アカデミーの「コミュニティ・ビジネス起業論」でもご協力をいただいています。
大谷さんから話題提供をいただく
このテーマを基に、まちづくりや人づくりや美濃市の課題など大谷さんが思うことを、経済や時代の変化、そして個人の思いも含めて多角的な視点でお話しいただきました。
ちなみにご用意いただいたスライドのボリュームは100枚以上!内容“熱い”です。
時間内には終わらず、まちの美味しいお弁当「豚丼」をランチにいただきながらヒアリングさせていただきました。
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午後からは、美濃市出身のマッグラー里恵さん。アイルランド人の旦那様とUターンされ、美濃で2人のお子さんを育てられています。
里恵さんからは、ご自身の子供の時の美濃のお話や、海外や他地域で暮らされた経験から、あらためて思う美濃の良さや、子育てについてお話を伺いました。特に、里恵さんのこどもの頃と今では大分違う、美濃のこどもを取り巻く風景に、私は興味を持ちました。
3人目は、うだつのまちの有名なパン屋さん「美濃町家 Mam’s」の店主、河合あゆみさんです。
アカデミー生も歴代、とてもお世話になっています。
河合さんは、人が減っていきまちのイベントや祭礼の担い手が少なくなる中、伝統の維持のためにまちの人の負担が増えていることを心配されていました。
一方で、「アカデミーができてから、まちが変わった。アカデミーに来る人は年齢も様々で、色々な人と出会える」と、嬉しいコメントもいただきました。
美濃町家 Mam’sさんにて河合さん(場面右)のインタビュー
まちに住む方々から直接お話を伺い、たくさんの情報をアカデミーに持ち帰りました。
大量のインプットで頭が飽和状態の学生たちですが、白木さんから
「今の気持ちを吐き出そう!」
と励まされ、ヒアリングで聞いた課題を付箋に書き出していきます。
今回は構造的に大きく「都会の課題」と「美濃の課題」が入り混じっているとの白木さんからの指摘で、青と赤の付箋にそれぞれ分けて書き出していきます。
一気に付箋を書き出した学生たち。1週間前に課題の構造図を描く練習をしていましたが、実際にヒアリングから始めることで様々な気づきがあったようです。
「同じまちの話でも、話す人で視点が違う」
「いろいろな視点を集めることが大切なのが、なんとなく分かった」
「住んでいる人だから気づく視点がある」
「美濃にはすごい人がたくさんいる」
「課題について逆の立場にいる人にも話を聞きたい」
「課題について、その人の顔が浮かぶといっしょにやりたい、と思う」
そして・・・
「情報が一杯で、噛み砕くのが大変」
1日目、お疲れ様でした!
2日目(1/26): 課題の構造図を描く
いよいよ「課題の構造図」を描いていきます。
白木さんから「共創を生み出すため、会話が重要です」と声をかけられ、いよいよスタートです。
前日に書いた膨大な付箋を、模造紙の上に置いていきます。
「これとこれがつながる」「でも、こっちにもつながる」と、全員でディスカッションしながら作成をすすめます。
進めていくと、美濃の課題の中には、町中と農山村地域で課題があるのでは?という意見が出て、構造図はかなり複雑な形になっていきました。
なかなかまとまらず、何度も付箋を動かすことも。作業を通して、学生同士のディスカッションは活発になっていきます。
作業の途中、白木さんから「まちづくりで「課題の構造図」を描くのは、参加する人々の視点を合わせることと、そのプロセスで多くの対話が生まれる効果があるからです」と説明を受けます。
「課題の地図を描く」ワークには、多様な視点を持つ人が集まるので、互いの視点や価値観を知り、認め合うことも大切だとのことです。なので、場をデザインする側としては、ワークを通して参加者の発話量が多くなることを意識しているとのことでした。
お昼となり、ここでいったん作業は終了です。
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午後からは、大谷さんにアカデミーにお越しいただき、作成した課題の構造図を学生のみなさんが説明します。
一通り説明が終わった後、全員でそれぞれ気になるポイントに投票をしました。
みんなで感想や意見を述べた後、白木さんから課題が出されました。
「美濃市で多様な人が学び合う「うだつキャンパス」をつくるとして、自分が学長だったら「わが校が大事にする5つのポイント」を考えてみましょう!」
つくった「課題の構造図」を思い浮かべながら、美濃にあったらいいなー、という学びの場を”妄想”しました。
濃密な2日間が終わり、ふりかえり。学生のみなさんからは、
「自分の考え方が固まっているのがわかった。課題の構造図を描く力を身に着けたい」
「自分の課題研究でも使えると良い」
「課題の構造図を描くと、まだ見えていなところも考えられそう」
「整理は大変だが、やった先に見えてくるものがある」
などの気づきが述べられていました。
また、今回ご協力をいただいた大谷さんからは、
「普段考えている課題のつながりが可視化されることで、納得感があった」
という意見をいただきました。
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講義の最後は、白木さんの全国での活動、まちづくりの仕事の実際の紹介です。
そして、社会的課題にアプローチするデザイナーとしての想いを語っていただきました。
以前からつながりがある大谷さんからは、
「白木さんは空気づくりの天才。今回、あらためて人の話を聞く楽しさを感じた。ヒアリングのコツは?」
と聞かれ、白木さんは
「あー面白い!って聞いている。相手の言葉を引き出そう、とかは考えてないです。気になる、聞きたいを掘り下げていますね」
との返答。
様々なまちで、様々な人と協働してきた白木さん。社会は複雑な課題ばかりですが、「人の声を聴く」という小さなことから大きな動きが生まれていくことを、白木さんの言葉からあらためて実感しました。
私も美濃のみなさんともっとつながりながら、これからの社会を切り開く人が育つ共創の場づくりを探っていきたいです。
白木さん、大谷さん、そして美濃のみなさま、本当にありがとうございました!
森林環境教育専攻 准教授 小林(こばけん)