フェノロジーだより
フェノロジー調査という実習を行いました。フェノロジーという聞き慣れない言葉に違和感を覚える人もおられると思います。フェノロジー(phenology)は「生物季節」と訳され、季節の変化に対して生物がもつ営みの季節性を指します。
森林文化アカデミーの森林環境教育専攻では、アカデミー周辺の同じコースを季節を変えながら何度もめぐり、出会った生き物を記録する実習を何年か続けています。
出てきた生き物を記録し続けることによって、生物を指標とした年ごとの環境の変化を知ることができます。たとえば毎年桜の開花時期が天気予報の番組で話題になりますが、気候によって開花時期が変わると同時に、開花時期からその年の気候を評価することもできるのです。
ほかにも、季節を変えて歩くことで、田んぼの畦の草刈りや、畑の土起こしがいつ行われているのか、それに生き物がどのように対応しているのか考えるきっかけにもなります。アカデミー周辺の水田やため池の環境は、農業環境と関連してどのような生き物が暮らしているかを知る、つまり里山の自然を知ることにもつながります。
さらに、様々な生物に触れることで、生物を見分ける「同定能力」を磨くことにもつながります。そして身近な自然に今まで気にしていなかった多くの生き物が暮らしていることにも気づくはずです。
今回のフェノロジー調査は、冬の最中に行いましたので、ちょっと考えると植物は枯れ、昆虫も見かけないのではないかと思いがちです。しかしそうとばかりは限りません。意外に多くの生き物を観察することができるのです。以下いくつかご紹介しましょう。
まずはヨモギの間で交尾中のハムシから。最も普通にみられるヨモギハムシかと思いましたが、近縁種が多く同定は難しいです。少し寒気が緩んだ隙をついたのでしょうか、活発に動き回っています。
続いてメマツヨイグサかと思われる植物のロゼットです。こちらも近縁種が多くロゼットだけで完全な同定は難しいです。地表面近くで太陽の熱を吸収、風を避けて冬越しをしています。「ロゼット」の語源どおりバラの花っぽい形をしていますね。
葉っぱを落とした樹木も枯れてしまったわけではありません。冬芽を残して来るべき春に備えています。冬芽で樹木を同定できると冬の森林観察が楽しくなります。写真のヒメコウゾは少し隆起した葉痕に冬芽がちょこんと載っているように見えます。芽が枝に張り付いているようにも見えます。同じクワ科のマグワも同じような付き方ですね。
この授業、来年の春へと続いていきます。1年を通して季節の変化を体感した学生は、2年目の実習で何を見つけるのでしょうか。楽しみですね。そして望むらくは自ら感じたそれらの面白さを人に伝えることができる人に育っていってもらいたいと思います。
教員 柳沢 直