断熱しても省エネにならない?(心地よいエコな暮らしコラム6)
みなさんは、断熱性能を高めると省エネ住宅になると考えていませんか。
確かにその一面もあるのですが、実は中途半端な断熱性能は省エネにつながっていないこともあります。
今回はこの?について考察したいと思います。
下のグラフをご覧ください。これは、環境省が2016年6月に発表した「家庭からの二酸化炭素排出量の推計に係る実態調査 全国試験調査」で築年代別に全国のCO2排出量実態を調べたものです。
おそらくほぼ無断熱の50年前(1970年以前)に建てられた家と、ペアガラスや断熱材を使用しているであろう近年の家(2011年以降)で比較しても暖房や冷房のCO2排出量があまり変化していません。
CO2排出量とエネルギー消費量は比較的相関性がありますので、エネルギー消費量の変化とみても概ね差支えありません。
では断熱によって、何が変化しているのでしょうか。
断熱の劣る昔の家はそもそも部屋を暖められないため、コタツや石油ストーブなどの局所採暖(人体をあぶる)を主体にしていましたが、断熱向上によってエアコン等で部屋全体を暖める暖房(空間を暖める)ができるようになり、健康性向上や活動領域の拡大などの暮らしの質が向上しているのではないかと考えられます。
スマートウェルネスの実態調査からも断熱改修によって、室内が暖かくなったため部屋を広く使うようになり活動量(室内の運動)が増えたとの報告もあります。
※スマートウェルネスの調査研究については、森林文化アカデミーAnualRepot2019の私(辻)の項目も参照してください。
つまり、私の考える断熱性能向上の目的は3段階です。
まずは極端な低い温度域をなくし健康を守ること(省エネ基準レベル)、
次に寒さによる不快感をなくして暮らしの質を上げること(高断熱レベル)、
さらに空調エネルギーをもっと減らす省エネ(超高断熱レベル)です。
新築であれば、最低ラインの国交省の定める省エネ基準レベル(省エネ住宅や高断熱住宅の目標値ではなく、あくまで最低ラインの基準です)は確保するとして、どこまで断熱性能高めるべきかが大切です。
断熱目標の参考値として研究者と住宅・建材生産団体の有志によって構成された「一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」(通称HEAT20 )で、省エネ基準以上の断熱目標レベルも設定しています。
准教授 辻 充孝
※私のつたないスケッチではなく、イラストをたっぷり使った
「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
全体を俯瞰しバランス感覚を身に付ける特集は、2020年10月号(第4回)。
こちらもぜひご覧ください。
心地よいエコな暮らしコラム
1.自分の暮らしぶりを見つめよう~環境家計簿~
2.心地よさは4つの要因で決まる
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6.断熱しても省エネにならない?