同じ断熱性能でも建物形状や規模によって熱損失は異なる(心地よいエコな暮らしコラム22 断熱性能5)
■建物全体の断熱性能(保温性能)
建物全体の断熱性能を示す指標に「外皮平均熱貫流率UA値」や「熱損失係数Q値」があります。
両者の違いですが「外皮平均熱貫流率UA値」は貫流熱しか含まれていませんが、「熱損失係数Q値」は換気の熱移動も考慮した指標です。UA値は省エネ基準で使われているため各種申請などに広く活用されますが、実設計で熱損失を考える場合は換気損失を含むQ値を用います。
「外皮平均熱貫流率UA値」は、換気を含まず外皮面積1㎡あたりの熱損失量です。一方、「熱損失係数Q値」は、換気の熱損失も含めて、床面積1㎡あたりの熱損失量です。外皮総熱損失量qに換気損失を加え、床面積で割ればQ値が計算できます。どちらも数値が小さくなるほど高性能になるのは同じです。
※「熱損失係数Q値」と「外皮平均熱貫流率UA値」は同じ単位(W/㎡K)ですが、Q値は換気を含んでいることと床面積あたりということで意味合いは異なります。(UA値は換気を含まず、外皮面積あたり)
下記の表に各種水準の断熱性能の目安値(上段:UA値、下段:Q値は目安値)を示します。家は数十年住むことを考えると、建設時に数十年先の将来にも対応できる性能を考えることが大切です。
※この表の目標イメージは、一般的な規模(120㎡程度)で一般的な間取り(省エネ基準モデル)、代表地点の気象条件、野原の一軒家での検討結果です。条件が異なれば室温のイメージなども異なります。
UA値やQ値の性能値を向上させることは大切ですが、設計はそれだけではありません。
建物規模が大きくなると見かけ上、性能が向上したように見えますが熱損失量は増えます。また、複雑な建物形状は性能が悪くなり、熱損失量も増えますが、外部環境とのつながりは確保しやすくなります。数値だけにとらわれず、本質を理解しましょう。
■建物形状によって外皮面積(熱損失)は大きく異なる
同じ床面積でも建物形状によって熱が逃げる外皮面積は大きく異なります。
建物形状と外皮面積の関係(下図)を見ると、正方形総2階が効率よく、分棟型やコの字型など形状が複雑になるほど外皮面積が増えてきます。
例えば同じ100㎡の床面積の建物でも、平屋であれば屋根も床も100㎡ですが、総2階になると屋根と床は半分の50㎡になります。外壁面積は増えますがそれでも15%ほど外皮面積が減ります。これは建設費や工期にも影響します。
一方、外皮面積が多いということは外部とのつながりも良くなります。外部との関係性を重視する場合は、不利になることを理解して部位ごとに性能を向上しましょう。
■建物規模で性能値や熱損失は異なる
断熱性能を示すUA値とQ値は熱損失量÷面積(外皮面積か床面積)で算出します。つまり、性能値向上のためには熱損失量を小さくするか、面積(建物規模)を大きくかのどちらかですが、面積の大きな建物は当然熱損失量も大きくなります。
同じ床形状の建物(高さは固定)、同じ断熱仕様(U値)で床面積を変更した場合に、熱損失量、UA値、Q値がどう変化するかを下図に示します。
※ 計算条件:階高2.5m(階間0.5m)固定、開口部面積は建築知識2021年7月号(第13回)モデル建物と同じ面積比(垂直面の14.4%)。各部位のU値は屋根0.15 W/㎡K、外壁0.25 W/㎡K、開口部2.09 W/㎡K、床0.26W/㎡Kとして算出。
熱損失量は当然、床面積が増えると大きくなります。
一方で、建物規模が大きくなると、分母側の面積(床面積と外皮面積)が大きくなりUA値やQ値は小さくなります。あたかも性能が向上したように見えます。特にQ値は床面積の影響が顕著で2倍近い差が出ます。
実際のエネルギーや光熱費に影響するのは熱損失量なので、UA値やQ値にとらわれすぎず、コンパクトな家を計画することが大切です。
准教授 辻 充孝
※「無理をしないで心地よくエコに暮らす住まいのルール」を建築知識で連載中。
断熱性能UA値の活用は、2021年8月号(第14回)で解説。
2021年8月号 第14回「断熱性能の基本④ 建物形状や規模を考えて設計する」
RULE1 換気や隙間風による熱損失を見込む
RULE2 熱損失を考える場合はQ値を使う
RULE3 断熱性能から室温低下をイメージする
RULE4 建物形状や規模の違いを考慮する
RULE5 施工精度を確認する
やってみよう! 「断熱性能から必要な熱量を求める」