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2020年09月19日(土)

20年目のコテージ改修

アカデミー構内にある宿泊棟「森のコテージ
外部講師の方やアカデミーで主催する研修生、ロッテンブルク林業大学からの学生など、これまでたくさんの方が利用しています。

設計はアカデミー本校舎と同じ建築家の北川原温さん。アカデミーの校舎それぞれに、異なる建築構法を採用し、特徴ある木造建築群を構成しています。

下が竣工当時2001年の写真です。

客室を取り囲む広い中庭にデッキが張られ、軒高を抑えた建物が複雑な壁面をうねらせ、有機的に連続しています。

植栽もまだ小さく、外壁も塗装したての初々しさがあります。
外壁は杉板、デッキはカラマツの防腐剤注入材、屋根がガルバリウム鋼板です。

このコテージは、六角形のユニットを合わせたようなハチの巣のような複雑な平面計画。(下の図面)
これで、1部屋ごとに外部や中庭、隣室と異なる6面に面して多様性が助長されます。

この6角形を作るために、構造用合板の面材で壁を作り、6枚立ち上げると1ユニットが出来上がります。
センターゾーンの「面格子構造」や情報センターの「樹上立体トラス」とは違った「壁式構造」です。

そして特徴的なのが屋根です。
この複雑な平面プランに皆さんだったら、どのように屋根をかけますか?
切り妻?
寄棟?

答えを見てみましょう。
下に航空写真を掲載しました。中央の屋根がコテージです。

既存の屋根形状から外れて、三角形を組み合わせた地面にへばりつくような屋根を作っています。これが軒高を抑えた建物形状につながっています。この複雑な屋根を板金職人の技術力で作り上げています。

構造的にはOSB合板で水平構面を確保してしっかりと耐震性を確保。

と、長々と書いてきましたが、

要はこのコテージも他の校舎と同等に建築的に素晴らしいと言いたかったわけです。

 

ですが、弱点もありました。(ここからが本題です。)

アカデミーの校舎全体に言えることですが、カラマツの大きなデッキの腐朽課題です。
屋根がかかっていないデッキ面は、夜間放射の影響でほぼ毎日、結露を繰り返します。
そうすると、水分供給が潤沢になり、腐朽菌の繁殖しやすい環境を作ってしまうのです。
カラマツは密度が高く、耐摩耗性に優れる分、防腐剤が内部に含侵しにくい特徴があり、屋外デッキでは不利になっています。

下の写真は一昨年撮影したコテージ中庭の大きなデッキです。(上の竣工時の写真と比べて下さい。)

デッキ板が抜け落ちてしまい、危険なため通行止めになるという悲しい状況でした。

そこで、今回の改修計画です。
私が現況調査から改修計画まで取り組みました。

今回の改修計画におけるテーマは、

森のコテージの
①魅力と機能を損なうことなく、
②メンテナンスしやすい形態に
③コストを抑えた改修を行うこと
です。

そこで、以前から考えていた計画を実行することにしました。

改修前のコテージ写真をもう一度見てみます。
いかがですか。

デッキの劣化具合に違いがありますよね。
軒下にある部分は、塗装のはがれがあまり進行してないです。
一方、建物近くの軒下は、雨掛かりが減ることに加え、夜間放射による夜露が発生しにくいので劣化が抑えられています。
実際、軒下部分は20年間、デッキの張替えは、ほぼ無い状況です。

 

そこで、

考えてた改修の基本方針は、この屋根下のみにデッキを張り巡らせ、露出しているデッキは極力少なくし、メンテナンス回数を減らすということ。

設備配管などもデッキ下にあったり、20年の間に様々にメンテを行った結果などを現況調査して、改修計画を立てた図面がこちら。

竣工時のデッキ面積と比べると、半分以下(うっすら見える点線が当初デッキライン)になっています。

当初あった客室に面する中庭もデッキは撤去し、植栽の場所に。
客室周辺のデッキも軒下のみに縮小しています。
また、木製で腐朽していた車いす対応のスロープも位置を変更し、黒モルタルに変更。

とかなり減築しています。

これにより、3つのテーマのうち2つは満たしました。
②メンテナンスが頻繁に必要な場所を極力少なくし、
③減築主体のためコストを抑えた改修
になっています。

では、森のコテージの魅力と機能はいかがでしょうか。
下は改修直後に学生を案内して、解説した時の写真です。

まずは、アプローチ部分です。低く抑えられた屋根は変わらず、周辺になじんでいます。
外壁も特に触っていないので、20年の風合いが出てきた貫禄があります。

新たに設けたスロープの手すりをステンレスのFBでつくったことで、見通しが良くなり、コテージの軽やかさが出ました。
デッキに上がる黒モルタルのステップが各所に付いたために、デッキと地面との連続感も出たのではないでしょうか。

中庭はどうでしょうか。

まだ中庭の植栽がないので、さっぱりしていますが緑が豊かになると、客室から出たらまず中庭に緑が目に入ります。
デッキを屋根下に絞ったことで、動線は建物の外壁(6角形の120°に折れ曲がった外壁)に沿って歩くことになりますが、少しジグザグに歩くことで視線の変化があります。
住まいと異なり、毎日のことではないので、この視界が移り変わる変化を楽しめるのではと考えました。

半年ほど経過した雨の日の中庭です。

徐々に緑が育ち、印象が変わってきました。

では、課題のデッキにかかる雨の具合はいかがでしょうか。

計画通りほとんど、濡れていませんね。

下の写真の左の方に垂れている鎖上周辺に少しだけ濡れている箇所があるのがわかります。

拡大すると、雨の通り道が見えます。ensuiという鎖上の雨樋です。

綺麗に水が落ちていくのが見れます。
雨の日の楽しみの一つで、意味もなくじーーと見てしまいます。

この雨の可視化はmorinosでも採用したかったものですが、morinosから徒歩1分のここで見れるので良しとしましょう。

さすがに大雨の際は、上の写真のように周囲に雨粒が散ることがありますが、晴れた日に毎回発生する夜露と異なり、雨の日だけのことですので、周辺の木材劣化に大きな影響を及ぼすことはないでしょう。

いかがでしたか。

最後のテーマの一つ。

①コテージの魅力と機能も損なっておらず、逆に魅力が増した部分もあるのではと思います。

コテージは一般開放されていませんが、遠方からのオープンキャンパスや受験時などで宿泊する機会もあります。

20年経過したアカデミーの建築群をmorinosとセットで見てくださいね。

准教授 辻充孝