森林文化アカデミー・木造建築専攻とは(オープンキャンパス資料)
【木造建築専攻】の紹介をします。
【木造建築専攻】には4名の教員がいます。木材利用を専門にしている吉野安里先生、温熱環境計画や省エネルギー設計を専門にしている辻充孝先生、木組の家づくりや古民家再生設計を専門にしている松井匠先生、そして木造建築の構造を専門にしている私、小原です。
林業の現場から出てきた丸太を、製材・乾燥・プレカットして建築の現場へ木材を供給する木材流通から、その木材を利用して構造体を設計し、地域材を活かした木造建築設計を行うという、木材の流れと木造建築の設計を行う、一連の流れを学ぶことができる専攻です。
また、木造建築の改修設計やリノベーションなど、建てられた後の再生設計なども学ぶことができます。
【木造建築専攻】の人材目標は、「木造の楽しさと奥の深さを知り、高度な技術で地域をサポートできる設計者を目指す」人材の育成です。
そのために、「日本でも唯一の「木造」に特化した実践的な学び」を提供し、「特に演習林の木でつくる「自力建設」は森林資源の「川上」を意識した、他にない貴重な実習」を行い、「『実践プロジェクト』では専門教員と共に、実際の実務を通して、高度で最新の技術を身につけ、誰にも負けない特技を持ったプロフェッショナルを目指す」人材を育成します。
建築系の大学や専門学校では、新築の鉄筋コンクリート造や鋼構造などを中心に学びます。私も建築系大学で建築を学びましたが、木造建築を学んだのは4年間で90分だけでした。従いまして、木造建築の仕事をしている建築実務者の方は、木造建築について就職してからその会社で行っている設計手法を身に付けています。
これに対して、アカデミーでは木造建築の設計について、集中的に2年間学ぶことができます。アカデミーでは、木造建築の設計についてかなりのアドバンテージを持つことができます。
この青色の小冊子には、【木造建築専攻】の7つの教育の特徴を記しています。
1 実践を通して学ぶ「自力建設プロジェクト」
2 リフォーム時代の必須科目「木造建築病理学」
3 次世代版設計の先取り「木造建築の性能設計」
4 社会で求められる実践力「実践プロジェクト」
5 総合力の素地づくり「木造建築の専門科目」
6 自分だけの武器を持つ「課題研究」
7 人の繋がりが資産になる「ネットワーク構築」
これらのうちのいくつかを御紹介します。
まずは、1つ目「実践を通して学ぶ『自力建設プロジェクト』」です。1年次に、アカデミー内に必要な小規模施設を、1年かけて、自分たちで設計して、自分たちで施工します。
一年かけて実際に建築することで、学生のうちに1つ実績をつくることができます。また、実際に建築しなければなりませんので、実際に向かうべき課題を前に、集中的に講義・実習で裏付けていきます。
この教育課程は、外部からも認められていて、2007年に「日本建築学会教育賞」を、2016年に「ウッドデザイン賞」を受賞しています。
1年に1棟ずつアカデミー内のいろいろな場所に建築されていますので、現在では改修も含みますが20棟建築され、21棟目が建築中です。
次に、2つ目「改修の体系学『木造建築病理学』」です。
「建築病理学」という言葉を初めて聞く方も多いことと思いますが、イギリスの25大学には、必ず建築病理学の講座があり、教育も充実しています。また、ビジネスも充実していて、イギリスでは、新築を設計できる「設計士」と、改修設計できる「建築病理学士」が完全に分かれているそうです。
日本では、新築の鉄筋コンクリート造や鋼構造を学んだ建築士が、木造の改修設計も行っている状況です。しかしながら、今後の建物の高寿命化と性能の確保の必要性から、必要不可欠な技術体系であると考えられます。
先ほどもお話ししましたが、建築系の大学や専門学校では新築しか学びません。木造建築の設計で、さらに改修を体系的に学ぶことができる学校は他にはほとんど無いと思います。
この教育課程も、外部からも認められていて、これまでに国土交通省の長期優良住宅先導事業を3回取得しています。また、建築実務者が学ぶ「住宅医スクール」として、岐阜だけではなく日本各地(名古屋・東京・大阪・静岡・広島・熊本など)でアカデミー発祥の「木造建築病理学」が広がっています。
次に、3つ目「次世代版設計の先取り『性能設計』」です。
建築では、阪神淡路大震災と耐震偽装事件を背景に「構造性能」を明確に示すことが必須条件になりました。また、京都議定書やパリ協定によって「環境性能や省エネ性能」の必要性が高まっています。さらに、高齢者のヒートショック防止の観点から「温熱性能」も注目を集めています。このように、ひとつの建築には、様々な性能がバランスよく必要です。これからは、性能を定量的に把握し、きちんと説明する力が求められます。
アカデミーでは、建築の性能に関するトップランナーたちから、実務に必要な構造設計、省エネ設計、防耐火設計など「木造建築の性能設計」の手法を学ぶことができます。
この動画は、今、学生・卒業生とともに構造技術支援をしている「岐阜県産材利用の茶室」と、建築基準法ぎりぎりの耐震性能を有している「住宅」に対して、熊本地震の前震・本震を入力したシミュレーションです。震度7クラスの大地震が2度発生しても倒壊しない性能を有する「岐阜県産材利用の茶室」が開発できています。
次に、4つ目「社会で求められる実践力を身に付ける『地域実践プロジェクト』」です。これは、学外の建築実務者と協同で行うプロジェクトです。自力建設で培った知識、技術、経験をもとに、住宅の設計・監理や、構造の依頼試験、公共建築の設計、木材強度試験など、社会で求められているリアルなプロジェクトに参加します。教員や実務者のサポートも受けながら、適度な緊張の中で、机上の授業だけでは身につかない実践力を鍛えます。
こちらは、アカデミーで実施した実験から開発された「光と風を通す耐力壁」です。
次に、6つ目「自分だけの武器を持つ『課題研究』」です。これは、2年次に、学生が興味のあるテーマ・課題を見出し、1年かけて研究を行います。授業で培った木造建築に関する総合力に加えて、自分だけの持ち味を延ばすことで誰にも負けない武器となります。これらは、今後の時代を切り開く提案力につながり、この研究で取り組んだテーマを就職後も継続して行いライフワークとなっている卒業生もいます。
次に、6つ目「人の繋がりが資産になる『ネットワーク構築』」です。
森林文化アカデミーには、木造建築以外にも林業、木工、森林環境教育といった森林に関わる分野があり、専門性の高い同級生をはじめ、卒業生、教員、全国のトップランナーの外部講師が集まっています。
在学中に木造建築や森林に関わる人の「ネットワークの構築」が可能で、卒業後に皆さんの資産になります。
非常勤講師にお招きする木造建築のトップクラスの専門家や、実践プロジェクトを協同で行う全国で活躍する卒業生、専門技術者研修に参加する建築実務者など、2年間の間、常に様々な出会いがあります。それらをうまくつなげるのは、あなた自身です。
そして林業や環境教育、木工といった森林・木材のスペシャリストともつながる機会は他の学校ではほとんどありません。
この貴重な2年間を活かして、お互いに信頼できるネットワークを構築しましょう。
こういった学びを経た卒業生の進路がこちらです。
木造建築専攻を卒業した学生は、設計事務所や工務店の設計部に勤めたり、大学院への進学したり、新しい会社を起業したりするなど様々です。概ね自ら行きたいところに就職することがほとんどです。全国からの求人も多く、就職率はほぼ100%で、職に困ることはほとんどありません。
こちらに、建築関連の主な職種を挙げてみました。人々の生活に直結した空間とそこでの暮らしを提案する「木造建築」ですので、非常に幅広い職種が関連しています。
ライフスタイルの提案とも直結していますので、皆さん自身にフィットする職種がきっと見つかります。
木造建築専攻・主任 小原勝彦(教授)