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2022年06月01日(水)

<学生レポート> 西尾・岡崎 Excursion(環境保全のソーシャルデザイン)

「環境保全のソーシャルデザイン」、第1回目に続き、2回目となるこの講義。今回は愛知県西尾市と岡崎市に出向きました。

アカデミーは2年生になると、学生それぞれが自分のテーマに基づく「課題研究」を手掛けます。森林環境教育専攻の佐藤くんのテーマは、「パーマカルチャーデザインによる企業の森づくり」。このテーマに沿って、第2回目の授業は、「パーマカルチャー×企業」の現場に伺い、そこに関わる方々から直接学ぶことにしました。

今回の講師は、パーマカルチャーデザイナーの榊 笙子(さかき・しょうこ)さんです。榊さんは鎌倉市で長年活動され、2019年に岡崎市に移り住まわれました。岡崎市でも、パーマカルチャーデザインのアプローチで、さまざまな取り組みをされています。今回は榊さんのコーディネートで、榊さんが関わられた2つの企業の事例を現地で紹介いただけるという、とても充実した内容です。

内容はものすごく濃く、贅沢な内容でしたが、学生のみなさんはどんなことを学び取ったでしょうか。ここからは、参加したクリエーター科2年生、波多腰くん(コッシー)と佐藤くん(まさ)、学生2名によるレポートでお届けします。

 


 

<1>  道中討論「環境保全とは?」

こんにちは。クリエーター科2年、建築専攻の波多腰(コッシー)です。

環境保全? ソーシャルデザイン?
――― 1回目のこの授業に参加できなかった私、波多腰(コッシー)は、今回の実習先に向かう道中で本授業のテーマについて話をしました。

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小林先生(以下、こば): 「環境保全のソーシャルデザイン」というのがこの授業のタイトルだけど、”環境保全”と“ソーシャルデザイン”を説明することできる?

波多腰(以下、コッシー): 環境保全については何となくイメージがあります。ですが、ソーシャルデザインについては全くイメージがつきません!

こば: 「環境保全」はどんなイメージ?

コッシー: うーん・・・ 一度壊してしまった自然環境を、回復させて、それが持続的に存在するようにサポートする、というイメージがあります。

こば: なるほど。その“自然環境を回復させること”、と、“持続的にサポートする”のは、誰が行うの?

コッシー: たとえば、環境コンサルタント会社の方であったり、造園会社、林業関係者だとおもいます。

こば: まさはどう思う?

佐藤(以下、まさ): 地元住民の方も関わる気がするな〜。だって自然環境を回復させるのに木を植えようとしたとき、その木を何にするか。花粉症の人だったら、スギを植えられたら嫌じゃない?

コッシー: 確かに・・・。環境保全って色んな人が関わりそう。そしてその関わる人の思いとか考えって、違うことがあるかもしれないですね。

こば: そうだね。関わる人同士で、考えや思いに”ギャップ”があるかもしれない。そこから誰かの考えだけではうまくいかない”ジレンマ”が生まれたりするかもしれないね。

コッシー: ギャップとジレンマか〜

こば: そんなギャップとジレンマがある中で、それでもものごとを進めなくてはいけないときに、さまざまな人が関わるための“ソーシャルデザイン”というアプローチが必要になるのかもしれないね。

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・・・ いくつかキーワードは出てきたけれど、結局「環境保全のソーシャルデザイン」って何なのでしょう?今回は同級生の佐藤(まさ)がセレクトしてくれた現場から、その真相を探りました。ここからは、まさにバトンタッチします。

 


 

<2> 海辺のカフェ「Ocean」(愛知県西尾市)

こんにちは、まさです。

今回は、パーマカルチャーデザイナーの卵である私が、今最も関心のある「パーマカルチャー×企業」の現場から学ぶと題し、愛知県内にあるステキなサイト2ヶ所を訪問しました。アテンドしてくれたのはパーマカルチャーデザイナーのしょうこ(榊 笙子)さん。

・・・ん、パーマカルチャー? いきなり聞きなれない言葉が出てきたかもしれませんね。
パーマカルチャーについて簡単にお伝えすると(しっかり説明すると一晩でも足りない💦)

1970年代に、オーストラリアのビル・モリソン(当時大学教授)とその生徒であったデイビット・ホルムグレンによって体系化された学問で、permanent(永続的)、agriculture(農業)、culture(文化)という3つの用語を組み合わせ、恒久的持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系として確立された。

もう少し噛み砕くと・・

持続可能な開発目標(SDGs)が叫ばれている今、注目を集めている「持続可能な暮らしや文化」のデザイン手法とも言える。

持続可能って何?と疑問が湧いた方もいるかもしれませんが、それについては、最後に考えてみたいと思います!
では、さっそく行ってみましょ〜(デデン♪)

まずは愛知県西尾市の「Ocean」です。

海が目の前にあるOcean、海無し県民の私たちはテンション爆上がり!
写真左から、パーマカルチャーデザイナーの榊さん、佐藤(まさ)、谷口先生、波多腰(コッシー)

 

「Ocean」(https://ocean-co.jp)は、地元農家さんの野菜や、敷地内にあるガーデンで採れた恵みを使った、最高においしいピザが食べられるレストラン。そして、環境に配慮した衣類や小物、身体に優しい食品などを取り揃えるセレクトショップがあるところです。

「Eat Locally, Think Globally」を謳い、パーマカルチャーをはじめとしたワークショップも展開されています。しょうこさんもこちらでワークショップを開催されているとのことです。

到着して早速ピザを焼く匂いに誘惑されかけましたが・・・そこをなんとか乗り越え、まずはオーナーの方にお話を伺います。

オーナーである吉崎 小夜子(よしざき・さよこ)さんは、もともとサーフショップを経営されていたそう。日に日に汚れていく海を見ながら、もっと多くの人と一緒に海の問題を考えたいと思っていたそうです。

オーナーの吉崎 小夜子(よしざき・さよこ)さん(写真左)からお話を伺う

 

そこで考えたのが、“海と共に、土にふれる農や、おいしい食、シンプルで美しい生活をシェアできる”コミュニティづくり。自分が「Yes!」と思ったことに共感してくれる人が集まってくれれば・・・という思いで、2010年にこの土地を購入し、最初は小さなトレーラーハウスから活動を始めたとのことでした。

事業のスタートとなったトレーラーハウス。現在は事務所として使われている。

 

今では、レンタルスペースや宿泊施設、それにウェディングまで、幅広い展開をされているOceanですが、ここまで至るまでには様々なジレンマ、理想と現実との間のギャップあったと言います。もともと5、6人のスタッフで始めた事業は、その拡大とともに最も多い時で25名のスタッフを抱えるまでになったそうです。

Oceanの全体像

「一人一人と想いが共有しきれない」「日々の業務で、自分の暮らしが安定していない」

事業が順調に拡大していく一方で、さよこさんは様々なギャップを感じたと言います。あらためて自身の想い
「楽しいという気持ち」、そして「日々の暮らしを大事にしよう」という思いに立ち返ったそうです。

スタッフにも”やりたいこと、ありたい姿”を大事にしてもらい、大きくなった事業の分割を行いました。カフェ部門の経営は、元スタッフの方に譲られたそうです。

元スタッフが社長となり経営している「Pizzeria Ocean」

今では、スタッフの中から市議会議員さんが出たり、さらに新しい会社を起こす動きがあったりして、地域社会を変えていくウネリが生まれています。

 

○パーマカルチャーの新しい視点

オーナーの話を一通り聞いた私は、「これはいい意味で予想を裏切られた」と感じました。
それは自分がこれまで、パーマカルチャーを“農的暮らし”でとらえすぎていたからです。

つまり、オーナーの「自分の想いを大事にすること」や「周りを活かすことでそれを実現していくこと」も、パーマカルチャー(持続可能な暮らしのデザイン)であると、ハッとさせられたのです。

「自分が苦しいのに続けていくことは難しい」
・・・さよこさんのお話から、その通りだと思いました。

もちろんそのためには「周りを活かすデザイン」が必要で、そこにかけたオーナーのさよこさんの努力は計り知れないものがあると想像します。そしてこれがOceanでの“環境保全のソーシャルデザイン”・・・つまり「自分らしく、自分たちらしく暮らすための、“互いの関係性のデザイン”」なのだ、と思いました。

これからパーマカルチャーの考え方や手法で場をつくっていきたい!・・・と思っている今の自分はに、この視点をぜひ取り込みたい、と強く感じました。

 

最後はオーナーのさよこさん(中央)を囲んでみんなで記念撮影

午前の部はここまで。ここからは、再びコッシーにバトンタッチします。

 


 

<3> キャンピングなオフィス「Osoto」(愛知県岡崎市)

 

はい、再び建築専攻のコッシーです!

海を眺めながら美味しいピザのランチをいただいて、文字通り「Eat locally, Think globally」を体現させていただいた我々は、後ろ髪を引かれながらOceanをあとにしました。

Oceanの次は、岡崎市にあるコワーキングスペース「Osoto」(https://osoto.net/osoto/okazaki)さんを訪れました。

 

カフェと見間違えるような外観の「Osoto」。出迎えてくださったのは、ここを運営する株式会社スノーピークビジネスソリューションズの磯貝さんと米村さんです。

 

(写真右より)お話を伺ったスノーピークビジネスソリューションの米村さん、磯貝さん

 

中に足を踏み入れると……、なんだ、いつもと靴底の感覚が違う!
なんと緑の芝が引いてあるではありませんか!?

他の場所はどうなっているのかと気になり、足元に落ちた視線をだんだんと上げてみる。
すると喫茶コーナーらしきもの、おしゃべりをしながらパソコンにむかう方、キャンプテントの中で芝生に座りながら作業している方、などなど。

これまで見たことがないものを見て、私は驚きを隠せない。ここはどこなんだ?これまでの自分の知っているものには当てはまらなかったのです。

 

 

 

さて、ここで少し間話を。

この授業名は「環境保全のソーシャルデザイン」。だけど、この「環境」とか「保全」とか、「ソーシャルデザイン」ってイマイチわからなくないですか??私にとっては掴めそうで、でもよく理解していないコトバでした。

そこで、この意味を探ってみました。(あくまで私なりの捉え方なので、別の見方もあるとおもいます)

まずは「環境」の「環」。
「漢字辞典ONLINE」(https://kanji.jitenon.jp)によれば、もともとは輪の形をした玉に由来していて:
・めぐらす ・めぐる ・とりかこむ ・とりまく ・まわる

・・・などの意味があるとのことです。人が自分とつながる何かに思いをめぐらしたり、またそこから何かを取り囲もうとするとき、「これまでは考えたり目に入ってきていなかったものを、捉えて、認識する」というプロセスが生まれると思います。

そして「環境」の境。
こちらについても「漢字辞典ONLINE」をひもとくと:
・区切り ・あるモノと別のモノの間

・・・という意味があるとのことです。

以上の「環」と「境」の意味をとらえ直したうえで、あらためて「環境」というコトバについて考えてみます。
たとえば今回訪れた「Osoto」という環境を例にして考えてみました。

「環」には「これまで捉えていなかったものを、認識して、取り囲む」プロセスがあるのではないでしょうか。私は今回の授業に参加したのをキッカケに「Osoto」に出会うことができました。こうした空間があることを、授業前までは私は認識したことがなかったのです。

そして「境」。「境」はあるモノと別のモノの間を指すものですが、「Osoto」という場を認識したとき、「Osoto」〈環〉に “あるモノ”と、そこから認識する“別のモノ”の“間“は、何になるのでしょうか?

「あるモノ」=「Osoto」だとしたら、「別のモノ」=「Osotoではないもの」とはナンゾヤ?!

それを考えるために、Osotoの外にある「Garden」に着目してみました。

 

外に設けられた「Garden」。依頼を受け、榊さんがパーマカルチャーの考えでデザイン

 

この「Garden」はスノーピークビジネスソリューションの方々、そしてパーマカルチャーデザインラボ(榊さんが所属されている団体)がコラボしてつくった場所です。

この場所が面白いのはOsotoと周りの場所(道路、他のビルなどの外部)との接するところにあることです。つまり、「Osoto = 内部」と「周りの場所 = 外部」の間、つまり<境>に「Garden」がありました。

 

外と中をつなぐ機能をもつ「Garden」の壁面プランターを見学する学生。
裸足で地面に座り込む姿は、アカデミーでは当たり前、街の真ん中ではちょっと不思議?

 

そうなんです!「Osotoではないもの」は、周りの道路やビル、「Osoto」に立ち寄らない人、「Osoto」という存在を認識していない人・・・などと考えることができるかと思います。

「Garden」は「Osoto」と「Osotoではないもの」をつなぐ、「間」としてデザインされている、と榊さんの言葉から汲み取りました。そして環境はモノとモノの「間」にこそ立ち現われるものではないか、と考えるようになりました。

「間」が環境であり、それを保全(保には“ひとが乳児を抱きかかる”というイメージもあるそうです)する・・・このときの方法の1つとして「ソーシャルデザイン」がある、そんなことを気づいた1日でした。(コッシー)

 


 

<4> 「企業 × パーマカルチャー」 〜 必然の出会い

はい、再びまさです。私は、企業がパーマカルチャーとどのようにして出会い、なぜ取り入れているのか?という視点で視察に臨んだので、その視点での考察をまとめてみます。

まず、今回訪問した2つの企業がパーマカルチャーと出会ったのは、「必然だった」のではないでしょうか。

・自己も含め人を大事にしてきた「Ocean」
・森も含めたアウトドアに人間の豊かさを見ている「Osoto」

パーマカルチャーには「Care for the peple:人を大事にする」、そして「森こそ最も豊かな”いのち”に満ち、人が手を添えることで、お互いがより豊かになれる」という考えがありますが、これらは両社がもともと大切にしてきた考えと通じているのです。「Ocean」と「Osoto」という企業は、まさに会うべくしてパーマカルチャーと出会ったのだと思いました。

また、こうした企業がパーマカルチャーの概念やデザインを取り入れているのは、企業活動に相乗的な効果が生まれているからではないでしょうか。

「Ocean」では、榊さんが新たにパーマカルチャーの講座を開催していて、飲食に訪れる人以外の多様な人を呼び込んでいます。そうした活動により、私たちのように授業として「Ocean」と出会う人もいますし、他の目的で「Ocean」に訪れた人がパーマカルチャーと出会うこともあるでしょう。「Ocean」に人がアプローチする経路が増えることで、両者が蒔く「持続可能な暮らしのタネ」はより多くの人に届くようになります。

また「Osoto」は「自然と人、人と人ををつなげる」ことを掲げていますが、これはパーマカルチャーの暮らしのベースと見事につながります。サスティブルを目指す企業がパーマカルチャーと出会い、パーマカルチャーも企業に歩み寄ることで、互いに新たな文化の醸成に挑戦していくように思えました。

私は今、中津川市に本社を置く「株式会社 銀の森コーポレーション(以下、銀の森)」という企業に所属しながらアカデミーで学生として学んでいます。「銀の森」は人と森が共生できる社会を目指して、「銀の森 100年の森づくり計画」を始めています。そこにはパーマカルチャーと通ずる想いが込められており、今まさにパーマカルチャーデザインでこの森づくりを進めようと動き出しています。今回の視察を通して、その必然性や有効性を確信し、前身する勇気をもらいました!(まさ、感動中)

 


 

・・・以上、学生2名による授業の報告でした。

今回の視察は、講師の依頼、プログラムの設計、細かな調整など、すべて学生のまさが行いました。まさ、お疲れ様でした!
自分で学びたい、という内容を自分でプログラムにして、他の人を巻き込んでねらいを含めてその意味と意義を達成するのは、プログラムデザインとして必須ですが、なかなか大変です。森林環境教育を専攻するまさは、これからも多くのプログラムを描けていくので、その一つとして実習になっていたらいいな、と思います。

1日の視察を終えてアカデミーに戻った後も、それぞれの気づきのシェア、そして解釈のディスカッションを真剣にしている学生二人の姿が印象的でした。現地を訪れ、事業に取り組む方々から直接お話を伺えたことが、彼らの大きな刺激になっていました。

「環境保全のソーシャルデザイン」という大きなテーマは、これから彼らの卒業に向けた課題研究、そして卒業後の社会で周りの人や社会、自然などの「環境」と繋がりながらよりよい社会をつくる実践者として活躍する中で常に探究し続けていくことでしょう。

貴重で素敵な時間をいただいたOceanの吉崎さん、Osotoの磯貝さん・米村さん、そして素晴らしいコーディネートをいただいた榊さん、本当にありがとうございました。

最後に・・・山もいいけど、海はいいですね。(海無し県民のつぶやき)

准教授 小林謙一(こばけん)