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2022年06月11日(土)

折れた桜に想いを馳せる…山村経営の人・資源・技術 第2回目

<2022.6.11> 森林環境教育専攻1・2年の選択授業「山村経営の人・資源・技術」の第2回目を開催しました。第1回目に引き続き、今年は、郡上市明宝地域にお邪魔します。(第1回目の模様は こちら) 森林環境教育専攻の1年生は東京出張のため、今回は学生2名で、じっくり濃い目の内容での実施です。

前回、明宝でさまざまな地域の人や資源に触れてもらった中から、木工専攻1年生のようちゃんが選んだテーマは「折れた善兵衛桜を板材にする」。ということで、朝イチで「善兵衛桜を守る会」の大坪義典さんにお話を伺いました。

「善兵衛桜を守る会」の大坪さん

地域で大切にしてきた立派な善兵衛桜の一部が、昨年突然折れてしまいました。
平成16年(2004年)に「善兵衛桜を守る会」をつくってさまざまな活動をしてきた大坪さんは、「失ってからわかる、この桜のすごさ」とショックを口にしつつも、仏教の「無常」を説明されていました。

「無常は、常に同じではない、という意味。桜も同じだな、と。自分も常に、新しい私になる。
桜が折れたことでまた新しい気づきがあった。感情や思いも、また新しい自分の発見になる」

善兵衛桜をずっと見守り、関わり続けてきた大坪さんだからこそ、そこに馳せる深い想いがある・・・と言葉のひとつひとつがぐぐっときます。そして、その想いを多くの人に伝えられないか、そのために折れた部分をつかって何かつくれないか、というのが大坪さんの願いです。
またこれから樹木医さんも関わるなど必要なお金もあり、もし材料を売るなど収入ができれば、そうした費用にも充てたいとのこと。しかし自分達には良いアイデアがないので、よその人の発想や提案があるとありがたい、とのことでした。

 
写真左側が病気で折れてしまった善兵衛桜

大坪さんのお話を聞いてから、今回の授業の拠点になっているNPO法人ななしんぼの工房へ。

地域資源を活用している事例として、明宝の道の駅への薪の出荷も体験。通常は鉄線でつくられた「タガ」に詰められて販売される薪ですが、キャンプ用途で使われることが多く、薪を使った後の「タガ」がキャンプ場に捨てられゴミになったり、子供が怪我をする要因にもなったりします。

そこで「ななしんぼ」では、タガの代わりに麻紐で薪を束ねて、道の駅に出荷しています。「結束縛り」というロープワークをみんなでみようみまねでやって、持ち手も麻紐で縛って出荷してきました。

自分達でつくった薪の束を商品として道の駅に並べる

出荷ついでに?道の駅で美味しい手打ち蕎麦のランチを食べた後、再び「ななしんぼ」でプロジェクトづくりのディスカッション。

この授業は、参加者各自が地域資源を使わせていただきながら、プロダクトやサービスなどを考えて実践まで行う「プロジェクト型の学習」です。メソッドとしては高校で実践されている「マイプロジェクト」の手法を参考にしています。今の高校生はすごいですね!

高校生のマイプロジェクトを長年サポートしている「全国高校生マイプロジェクトアワード」の事務局が発行する「探究 Guide Book」では、「マイプロジェクト」は「Will(自分の興味関心)」と「Need(誰かのいいね!につながること)」の重なったところに「自分が取り組みたい・取り組むべきプロジェクト」を見つけよう!、としています。そこにプラスして「Can(自分のできること、やってみたいこと)」を合わせて主体的に実践するのが「マイプロジェクト」です。

私はこの中で一番大事なのは「Will」だと考えます。仕事でも自分のプロジェクトでも、「自分ごと」で取り組まないとクリエイティブなことはできない・・・と考えるからです。クリエーター科のみなさんは、ぜひ森と人と関わりながらクリエイティブな、”自分らしい”生き方を実現するのがミッションです。ぜひ”クリエイティブに”、プロジェクトに取り組んでほしいです。

ということで、プロジェクトとは?テーマ設定とは?をレクチャーしながら、それぞれの「Will」を確認します。

ようちゃんは大坪さんのお話を聞いて、善兵衛桜を板にした時、地域の人々の想いや愛着も一緒に受け取り手に伝えたい・・・と思ったそうです。しかし、木工では板材はものづくりのための「質」「値段」「使い勝手」などで見られてしまうので、はたして善兵衛桜の板材は需要にできるかが不安だ、とのこと。材料を「利用価値」で判断する人につなぐための手法や視点のためのリサーチが、まずプロジェクトの起点になりそうです。

もう一人の学生、こっしーはまだ自分の「Will」を絞りきれず。でもこの日、以前に加工した善兵衛桜の板を手にして何か感じるものがあったそうで、その感覚をまずはイラストにしてみます、ということになり、この日のセッションは終了です。

現地で人の想いと素材に触れた二人は、これからどんな「マイプロジェクト」にトライしていくのでしょう。お楽しみに!
・・・そして、東京に出張した森林環境教育専攻のメンバーには、しっかり補修の宿題が与えられたのでした(笑)

准教授 小林謙一(こばけん)