木工事例調査R4夏 TENON
クリエーター科木工専攻では、各地のものづくりや地域材を活用する取り組みについて現地で学ぶ「木工事例調査」を行っています。今年の夏も兵庫、岡山方面まで足を延ばして様々な事例を見てきました。その1つ、兵庫県佐用町にある椅子づくりの工房、TENON合同会社を訪問した様子を学生のレポートでご紹介します。
TENON合同会社は、椅子のデザインから制作まで一貫して行っている会社です。つくる椅子は、全体的にスッキリとして無駄をそぎ落としたようなデザインが特徴で、2015年にはグッドデザイン賞受賞や、豪華寝台列車「ななつ星」に採用されるなど、国内外で高く評価されています。どのようにして今の椅子のかたちにたどり着いたのか。また、ものづくりに対する考え方を学びたいと思い、元代表の迎山直樹さん、現代表の関野央也さんにお話を聞きました。
まず拝見したのは、工房です。中にはさまざまな種類の機械や道具、型などがありました。工房の道具はきちんと整理整頓して置いてあり、つくり手の丁寧な気遣いが現れていました。
作業台には、試作中の椅子のフレームがあり、これは従来の家具の価値観では欠陥とされてきた虫食い材を使用してつくられていました。迎山さんは現在、地域の木材を活かす新しい試みに取り組んでおり、この試作品は木を単に材料として見るのではなく、かつて生き物だったものとして見ている迎山さんならではの発想でつくられていました。
次に隣の展示スペースを拝見しました。
そこに置いてある椅子に座ろうと背もたれを持つと、ふわっと持ち上がるぐらい軽くて驚きました。この軽さが実現できるのは、細いフレームならではだと感じました。なぜこのような細いフレームの椅子ができるのか、お聞きしたところ、「それは、社名にもなっているホゾ(TENON)が精度高くできているため。それによって貫(脚同士を繋ぐ部分)が必要無くなり、貫が無くなったことで脚がしなり、力をうまく逃がすことができる。」とのことでした。
上の写真は迎山さんに見せて頂いた椅子の座面の接合部分の模型です。この加工を機械だけで行うのは難しく、最後は人の手による加工をすることでピッタリ隙間なくはめ込むことができます。
このように高い手仕事の技術と、高いデザイン性を持ち合わせるTENONさんですが、デザインについて迎山さんにお聞きしたところ、「デザインは自分のものではない。次の世代に受け継いでいくことが大事。デザインを自分のものにしてしまったら、そこで進化が止まってしまう。」とのこと。その次の世代となるのが現代表の関野央也さんです。関野さんがデザインした椅子は今までのTENONにない、曲線的かつ立体的な造形をしており、彫刻を学んでいた関野さんらしい進化を見せています。
今まで私は、ものづくりとは、自分の中だけで完結させるものだと思っていましたが、長い時間軸をもって、先を見据えたものづくりの考えに触れられたことは、私自身にとっても大きな学びでした。
今回学んだことは、森林文化アカデミー木工専攻以外の学生にとっても有益な体験となったことと思います。ご対応してくださった、迎山さん、関野さん。お時間を頂き、ありがとうございました。