木工事例調査R4夏 西粟倉村「百年の森の構想」の取組み
クリエーター科木工専攻では、各地のものづくりや地域材を活用する取り組みについて現地で学ぶ「木工事例調査」を行っています。今年の夏も兵庫、岡山方面まで足を延ばして様々な事例を見てきました。その1つ、岡山県の西粟倉村で取り組まれてきた地域材活用の事例を学生のレポートでご紹介します。
岡山県の北東にある西粟倉村では、「百年の森林構想」という取り組みが行われています。
平成の大合併が各地で行われていた頃、西粟倉村は住民アンケートにより、周囲の市町村と合併をしない選択をしました。村の面積の9割が森林(人工林が8割)、人口1400人ほどの村です。まず村の外から人を引き入れる取り組みが必要となりました。その中から、地域の資源である森林を軸に「約50年生にまで育った森林の管理をここで諦めず、村ぐるみであと50年がんばろう。そして美しい百年の森林に囲まれた上質な田舎を実現していこう。」と「百年の森林構想」が立ち上がりました。そして、「森林事業は心と心をつなぎ価値を生み出していく『心産業』、村の資源である森林から産業を、そして仕事を生み出していこう」という村づくりが始まりました。
私達は、西粟倉村が具体的にどのような取り組みをしているか学びたいと思いました。そこで、木工事例調査の2日目に西粟倉村役場を訪問し、「百年の森林事業の挑戦、森林から始まる村づくり」について見学をさせていただきました。
西粟倉村役場では、産業観光課の萩原勇一さんに「百年の森林構想」について説明と案内をしていただきました。
百年の森林構想では、森林を村の管理により計画的に育て、収穫し、地域で木材を建築や木製品、木質バイオマスエネルギーなどで利用し、また再び森林を育てるという持続的な森林活用の循環を目指しています。
この取り組みにより、林業関係の仕事をする人が、村内に100名以上増え、関連企業の売上げも増えたそうです。そして、村民や移住者で、林業の多様な利用を目指す人が現れ、村内に新しい事業が数多く立ち上がったそうです。さらに、事業の立ち上げを積極的に支援する取り組みをした結果、林業以外の業種も含め31社が起業。今では人口の1~2割が移住者となり、幼稚園・小学校・中学校の人数も120人から、150人へ増えたそうです。
その一方で、森林管理のお金を村の予算と国の補助金に頼っているという課題もあるとのことでした。村の木を集めて直接販売することで、流通コストを減らしているものの、原木価格が安く、赤字の状況が続いているそうです。
庁舎の見学では、地域の間伐材をふんだんに使った素敵な建物を見せていただきました。この建物は地元材の調達・搬出に「森の学校」さん、針葉樹家具の作り手である「ようび」さんを始め「百年の森林構想」に賛同した村内外事業者が参画されたそうです。庁舎は、地域の公民館、図書館を兼ねたあわくら会館の一画にあり、部屋を多目的に使うことで無駄を省いた設計になっていました。それは、新しい住人たちを多く迎え、これからも変わっていく地域の中で、皆が集まり、話し合える場所としての機能もあり、これからの未来を見据えた西粟倉村を象徴していると感じました。
日本全国で、人口の減少と、森林の管理の必要性が問題となっている中、西粟倉村の取り組みは、他の地域でも活用されるべきだと感じました。その一方で、未来に森林・林業を引き継ぐには、木材を適正な価格に引き上げる必要性も感じました。
西粟倉村において、伐採されて売られるのは、針葉樹がほとんどでした。これからは「家具といえば広葉樹」といった考え方ではなく、西粟倉村で取り組まれていたように、私達も針葉樹の弱点を克服して、国産材の活用に木工からどんなアプローチができるのかを考えていきたいと思いました。
最後になりますが、お忙しい中、素晴らしい取り組みについての貴重なお話を聞かせていただき、大変ありがとうございました。
文責 クリエーター科木工専攻 (2年)奥田百音 (1年)中西靖子 山﨑葉子