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2023年06月22日(木)

ドイツ視察報告 木造建築編(木造建築ドイツ研修記6)

ドイツ視察の木造建築報告会を開催しました。
私を含めて5人から各自テーマを決めての報告です。
授業後にも関わらず建築や林業、木工の学生・教員を含む30名を超える参加者がありました。

■「素材・エネルギーから見るエコロジー建築」教授 辻 充孝

私からはエコ建築というテーマで、自然素材やリユース材を用いた材料のエコと、省エネや創エネの運用のエコの視点で報告しました。
すでにブログでも紹介したバウビオロギー研究所やロッテンブルク林業大での中立で定量的な評価を、実際の新築建物や断熱改修の現場で活かしながら高性能な建物を実現している事例を紹介しました。

日本では、材料のエコと運用のエコがしばしば対立することもありますが、ドイツではうまい具合に融合している場面を多く感じました。
空気質、電磁波環境等の人の居住環境にこだわり、かつ省エネな建築物を考えるべきであることを改めて認識しました。

アカデミーの教育は当然、材料と運用のエコに着目して行っていますので、共感できるところが多数あります。
学内に建設したmorinosも、当然、材料と運用のエコの両方の視点で計画しました。

■「日本とドイツの構造デザインの違い」教授 小原 勝彦

小原教授からは、ドイツと日本の構造的な法規制の比較から始まりました。
そもそも地震の少ないドイツでは、水平力に対する基準が日本の数分の1という規定で、構造的には積雪量などの鉛直荷重に対する考え方が主流となっているようです。

そのため、最新のCLT工法でも部材の取り付けはビス接合程度の部分もあり、日本の基準(金物でしっかり緊結)より緩いものになっているようです。
ドイツの伝統的なティンバーフレーム工法も、日本の筋交いとは異なり、軸の上下端に小さな補強材がある程度で、鉛直荷重を支えるような構造形態が多くみられるといった違いがありました。

 

■「ドイツ,ミュンヘン,シュツットガルトの歴史的建築」木造建築専攻2年 坂本 一哲

学生の坂本さんからは、歴史的な建築物に感じた視点での報告です。
ミュンヘンやシュツットガルトでは、石造りで重厚な歴史的建築物が多く残っています。しかも彫像などの装飾も素晴らしいものがありました。

一方で、100年前に建設されたヴァイセンホーフの住宅団地では当時の新しい建築材料である鉄やガラスを用いたモダニズム建築群ができています。
見た目はすっきりしていますが、色使いや空間の取り方は日本ではあまり見ないこだわりがありました。

デザイン性と長く建物を使うことの視点を大きく感じたようで、建物単体だけで考えるのではなく、周辺の環境や町並みとの調和を考えた計画の大切さを学んだとの報告でした。

 

■「ドイツの都市交通について」木造建築専攻2年 杉山 達彦

学生の杉山さんからは、もともと関心の高いドイツ鉄道を視点に報告がありました。
日本とドイツの鉄道の規格の違いや、乗車時の改札の有無など、異なる部分もありつつも、電線の構成などは合理的な考えで共通している部分もありました。

またシュツットガルトの鉄道網が周辺地域まで広く広がっている状況に対し、岐阜市周辺では名鉄美濃町線が2005年に廃線になるなど、考え方の違いにも言及がありました。
一方で富山ではLRT(Light Rail Transit)が2006年に整備されコンパクトシティ構想が動き出している地域など、ドイツに似た思想の地域もあるようです。

 

■「オーストリアの中高層木造建築について」副学長 寺田秀樹

最後は寺田副学長からのオーストリアの高層木造建築とウイーン工科大の視察報告です。

2019年に竣工したHoHo Wienは世界最大の木造建築ビルで3棟からなり一番高い棟は84mにもなります。
中央にはRC造のコアがありますが建物の75は木材でできているハイブリッドの建物です。
一階のホールの写真では、RCコア部分に施された内装の木質化も行われ居心地が良さそうな雰囲気が感じられました。

ウイーン工科大では、木造ハイブリッドの話題も出たようで、今後リサイクルを考えていく際に分離の課題も発生してくるのではなど意見交換がなされていました。

 

5名の個性豊かな報告の後は質問タイムです。
時間いっぱいまで途切れるころなく、いろいろな切り口から質問がやってきました。関心の高さがうかがえます。

今夏もドイツでのサマーセミナーや共同研究などドイツとのかかわりが各専攻で展開されて行きます。
お互いの伝統や文化を大切にしつつ、良いところを上手く取り込める視点を常に持っていたいものです。

教授 辻充孝