はじめての木造設計コンペ!「自力建設2023設計コンペ」が開催されました
今年も、23回目の「自力建設」の設計コンペが開催されました。
このコンペは全校生徒と教員と事務局に1人1票の投票券が配られ、最も票を得た学生がその年の「棟梁兼代表設計者」になるものです。
全学が集まる貴重な授業です。
まずは辻先生から課題説明です。
今年の建築は「屋外階段」。アカデミーのセキュリティーの観点から動線が非効率になっているフォレスト棟に「屋外階段」を設計、建築します。
一年生は5名。設計実務経験が0の学生も2人います。
この日のために夜を徹して設計し、模型をつくり、3Dモデルを描きました。
課題の共通点をまず山下修平さんが説明。5つの案に共通する関係者のヒアリング結果や、敷地の条件を解説します。
トップバッターは、ウェディングプランナーとして人の幸せ考え続けてきたという経歴をもつ三輪昂寛さん。
流れるようなトークスキルで会場を盛り上げます。
ささやかな幸せを感じる階段をテーマに、横格子で矢倉のような階段室を建ち上げました。
今回は大きく分けて四つの建設場所を選べるコンペですが、三輪さんは敷地の選定理由として、
「小川の音が防火壁に反射すること」
「他の経路よりも3秒早く上がれること」
をアピールし、経済学を学んだ経歴とリンクさせて3秒の経済価値を計算してみせました。
シンプルゆえにカスタマイズできること、「隙間から見えるささやかな幸せ」、利活用されてない場所の活用、室外機がないことのメリットを挙げ、説得力のあるプレゼンです。建物のタイトルは「視楽私面櫓(しかくしめんやぐら)」でした。
会場からの質問で、林業の塩田先生から「この建物に使う最も長い木材の長さ」を聞かれました。
これは難しい質問だなと思ったら、なんと三輪さんはこの時点で材木を拾っていました!最大4.7mで、林業的には「余裕で出せる」とのコメント。アカデミーならではのやり取りです。
ちなみに全材積は4.53㎥とのこと。素晴らしい検討です。
続いて、中村幸恵さん。
建築実務経験はあるけど木造はやったことのがないので、木造を深く学ぶために入学しました。
敷地に光が降り注ぐ様子と、アカデミー本校舎の北川原温氏の設計コンセプト「境界領域のインターフェイス」とアカデミーの敷地が山の尾根筋と谷筋が交錯する地形であることから着想した「光芒に稜線」というコンセプトで取り組みました。建築基準法の整理も行い、条件整理が入念なのはさすが実務経験者です。
木組を活かした美しい架構の階段を提案。3Dソフトで光のシミュレーションもしています。回り込んで降りるのは、周囲を見渡せる階段の魅力です。
「メンテナンスしやすいとはどういうことですか?」と鋭い質問にも鉄骨と比較し、相互に支え合う木組のメリットで施工性の高さを挙げました。
次は、山下修平さん。
階段の概念よりも先に、アカデミーの教育からここに求められることはなんだろうという視点で着想し、
遊び心のあるアクティビティ中心の階段を提案しました。
屋根に登ることができ、吹き抜けにハンモックも設置でき、ジャングルジムのようなダイアグラムで構成したデザインです。
ダイアグラムは既存の寸法から割り出した形状。ゲームの「Minecraft」ぽいですね。
「考えて使える」というキーワードは学びの場として良い提案です。
次に、岩本悠太さん。「杜の駅」という、人が手入れした森=杜という字にこだわったタイトルです。
川の音を愉しんでリラックスできる階段として踊り場の広い昇降しやすそうな階段でした。
既存に馴染むように、シンプルながら機能的で、なおかつ防火戸から真っ直ぐの動線であり、進行方向に誘う風景があり、有機的な樹上の柱がありと
小さな仕掛けがたくさん散りばめられています。
1階部分も木で出来たホワイトボードを設置して打ち合わせができたり「寄りやすく、集まりやすい」というコンセプトを
きちんと実現できそうな階段です。
ラストは、エンジニア科からクリエーター科に進学した、山下輝さん。
山下さんは3年目になるアカデミー生活。「アカデミーってこういう場所なんだな。」とわかる階段にしたいと考えました。
各専攻の特徴を感じる「インスタレーションアート」として設計したという提案。
4専攻とエンジニア科の特徴を備えたアイデアで、アートと言ってもあまり飛躍せずに現実的にまとめています。
造形は既存の格子に絡みながら降りる形で、階段寸法スライド説明も非常にわかりやすく、屋根の予算を本体に組み込めるというアイデアもリアルで、
アートを現実に実装する道筋を、直感的に理解していると感じる案です。
質疑応答も活発なのがこのコンペの特徴。想定クライアントの津田先生からもコメントをいただきました。
学生からも教員からも様々な意見や感想が飛び交うのがアカデミーのいいところですね。
会場は大盛況のうちに閉会しました。
投票用紙にはびっしりとコメントが書かれ、学生は80人以上から自分の案に意見をもらえます。
こんなこと、設計をやっていても一生に一度ですね。
結果発表は来週の水曜!
私は教員として6回目の投票ですが、毎回予想外の結果になるので、今回もドキドキです。
一年生の皆様お疲れ様でした!
来週まで、どうぞ束の間の休息を。
木造建築教員:松井匠
自力建設2023 「ほとりの櫓」のこれまでの記録はこちらのページからご覧いただけます。