ドイツ報告-2 森林環境教育施設『森の家(HAUS DES WALDES)』
豊かな森林に恵まれ、メルセデスベンツやポルシェ、BOSCHの本社があることで有名なドイツ連邦共和国のバーデン=ヴュルテンベルク州(Land Baden-Württemberg、BW州)と岐阜県は連携協定を結んでおり、中でも林業関係として岐阜県立森林文化アカデミーとロッテンブルク林業大学(Hochschule für Forstwirschaft Rottenburg、HFR)との間で連携協定を締結しています。
ここではBW州の森林環境教育施設であり、1989年に設立されたドイツでも最も歴史ある HAUS DES WALDES(ハウスデスヴァルデス:森の家)を訪問すると同時に、岐阜県が2020年にオープンを目指す「森林総合教育センター(仮称)」に向けて、河合孝憲副知事が HAUS DES WALDES訪問され、森林環境教育の一端を体感されましたので紹介します。
なおHAUS DES WALDESの説明は館長のBerthold ReichleさんとKatharina Falkenburgerにして頂きました。
なお、2016年にも施設を紹介したブログを書いていますので、興味のある方は下記にアクセスしてください。
BW州政府の農村・消費者保護省 MLR の下に22の行政区画 R P があり、その下に44ヶ所の地方組織 L K があるが、このHAUS DES WALDES(ハウス=デス=ヴァルデス:森の家)は政府の農村・消費者保護省直轄の施設です。
このHAUS DES WALDESの下に、10人程度で運営する「森の学校」や1~2人で運営する「森の教室」もののほか、「青少年森のテント」による野外教育もある。
BW州には森林環境教育の施設が44ヶ所あり、そこには HAUS DES WALDESで学んだForester(フォレスター:森林官)が指導している。フォレスターは法律で森林環境教育することも義務付けされており、彼らはこのHAUS DES WALDESが開発した『WALD BOX』という移動倉庫を運営管理して、各地で活動している。
ちなみにフォレスターに対する法律義務づけは、HAUS DES WALDESができてその価値が認められた6年後のことで、新たに追加された項目です。つまり法律ありきでなく、実益から生まれた法律なのです。
このWALD BOXは30年間蓄積した経験を基に、Activityとして内が必要で、それに加えて機動的なMobilityをプラスしたものを、最初はBW州の州都Stuttgartに導入し、その後44ヶ所に配備されたものです。
HAUS DES WALDES は2つの柱で成り立っており、1つはBW州政府の農村・消費者保護省 MLR の下で、日本の林野庁に相当する Forst BW から森林・林業分野を担当するForesterとしてBerthold Reichleさんが派遣され、 HAUS DES WALDES 館長をしています。ちなみにBerthold Reichle館長さんはHFRの出身です。
もう1つは、日本の文部科学省に相当する MKS から教育関係者としてKatharina Falkenburgerさんが派遣され、全く違う省が協力して森林教育にあたっています。
教育者のKatharinaさんは、学校教育では足らないもの、日常生活では足らないものをこのHAUS DES WALDESで補おうと活動されています。
HAUS DES WALDESには事務方も含めて11名の常勤スタッフがおり、その下にいる20名のアシスタントとともに、BW州全体の森林環境教育Activityに携わっています。
ここはHFRの大学生にも教育の場を提供しており、大学の環境教育実習などに利用されたり、ダイレクトに就職先になったりしている。
Katharina Falkenburgerさんは「Aufgaben HdW(HAUS DES WALDESの仕事・課題)」として、
1.教員やフォレスターなどにドイツ連邦全体で有効となる認定講習の開催。
2.学校の先生と生徒たちを対象とした年間300回ほどの指導。
①森林と私たちの関わりを知る森林環境教育
②社会の一員としての社会教育
③大人になる個人としての方向性を見つける個人教育を実施する。
3.家族連れを対象にした指導。
の3つを課題として対応している。
Berthold Reichle館長さんは、「ここには30年間に蓄積された知恵と技術があるので、それをすべて提供する。だからこそ岐阜県では長期にわたった視野でActivityを広げて欲しい。また岐阜県だけというような狭い考えではなく、県境を越えても対応できるような弾力性備えて欲しい。」との意見がありました。
Katharina Falkenburgerさんは、「学びに来た先生が森林環境教育の価値を見つける場合、同じ言葉、同じレベルで考えることができなければならない。だからこそ目標をしっかり立てていくべきである。」と語られました。
Berthold Reichle館長さんは、「HAUS DES WALDESは1989年に開設したものの、森林環境教育が法律で義務付けされるまでの6年間は苦労した。体験しながら学べる輪を少しずつ大きくして、州政府が法律に定めるまでになった。」
「何事も “人材” が要であり、一生懸命広める気概があれば、参加者自身の感動で大きな輪を広げることができる。あとは活動するインストラクターをサポートする法律と予算が必要です。」と語られた。
【屋外に出て】
Berthold Reichle館長さんは、「本日は子どもたちのViking Dayなので、バイキングが生活していた当時の生活体験をするため、ナイフの使い方を学び、他人に対する思いやりなど社会教育させながら、木に親しむプログラムを体験させている。」と言うので、その場に向かいました。
Katharina Falkenburgerさんは、「子供が初めて森に入る時、「怖い」「汚い」と感じる子もいるが、すぐに環境に馴染んでしまう。」
「このナイフを使う環境教育は重層的な効果があり、他人を気遣うことで脳を活性化させ、森の中で木を削る行為が更に脳を活性化させる。子どもたちは、他の人と関わる中で自分が自然に話せていることに気づく。」と教育的効果を説明されました。
【展示物を見て】
私たちが展示物に近づくと、ちょうど「森のようちえん」のお子さんたちが遊んでいました。ロープを楽しそうに揺らし、私が真似をするとほかの子も加わって、一層大きく揺らし始めました。
Berthold Reichle館長さんは、「森林環境はなかなか視覚障がいの人に開けていないが、ドイツではここHAUS DES WALDESが、最初に視覚障がい者にも体感の場を提供しました。」と説明されました。
Berthold Reichle館長さんは、「この展示は1m2に何本の芽生えが出てくるのかを、手で探って感じてもらう展示です。」 「ここにはQRコードもあり、付き添いの人がQRコードを読み込めば、音声解説を聞くことができる。」とも説明されました。
Katharina Falkenburgerさんは、「ウッドデッキは車いすの人が森に入れるように設定してあるが、立木はわざわざ残して通りづらくし、立木間の歩行を疑似体験してもらっている。それを突き進むと、台上に設置された土壌に小枝を指して立木の間隔をミニチュア体験してもらう。」
Berthold Reichle館長さんは、「設置された施設は、「価値あるものに見えるように使うことが重要である」と説明されました。
いろいろな展示物を見られた河合副知事さんは、子どもたちの安全確保、ケガが発生した時の責任の所在、指導者の男女比など、数多くの質問をされながら屋外での活動を体感されたのです。
【スティック遊び】
最後に、小人数で枯れ枝を持ってスティック遊びです。
1.スティック遊び①
(1)各人が一本のスティックを持ち、それを右隣の人の目の前に放り投げる。
(2)スティックを投げたら、左側の人が自分に投げてくれたスティックをつかむ。
(3)全員がスティックを落とすことなく取れるまで、繰り返し実施する。
これは3回目でクリア。ちなみに副知事さんも私もすべて成功しました。
2.スティック遊び②
(1)各人が一本のスティックを持ち、それを目の前で上に放り投げる。
(2)投げたら自分自身が右に移動し、もともと右側の人が投げたスティックを取る。
(3)全員がスティックを落とすことなく取れるまで、繰り返し実施する。
こちらの方が難しいのですが、こちらはなんと2回目でクリア、驚異的です。
もちろん副知事さんも私もすべて成功しました。
この「スティック遊び」は単に遊びではなく、こうした活動は
①社会性を身につけるのに役立つ。
②棒一本も大切にするような子どもの心を育てる。
③教育理念を知らない子どもたちが、知らないうちに学んでいる価値がある。
最後に河合副知事さんは、「この森で過ごしている子どもたちが生き生きとしている姿と、それを指導しているインストラクター自身の顔や目が生き生きとしていたことが印象的だった。」と語られ、
これに対してBerthold Reichle館長さんは、「私たちには30年間の蓄積があるので、失敗も含めて、岐阜県のチャレンジに協力する」と語ってくださいました。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。