ドイツの木造建築から見えてくるもの
森林文化アカデミーの29年度ドイツ報告、第二弾
今日は3月末に、ロッテンブルク大学やシュツットガルトなど、BW州の各地を訪問された木造建築専攻の小原先生と、辻先生からの報告がありました。
最初に辻先生は「ドイツの交通事情から見た木造建築」について解説。最初に都市比較、岐阜市とほぼ同面積のシュツットガルトは約60万人の都市で、多くの人が集合住宅に住んでいます。
本日も学生だけでなく、森林技術・普及コンソーシアムのメンバー以外にも、企業や工務店の方々も参加されていました。
とにかくドイツの都市部は、トラクカーやバス、自転車、歩行者優先で、車利用にはとことん不便な交通網、都市計画であり、それに対応した建物設計がなされている。
交通網から考えたエネルギー消費、一世帯が使用するエネルギー消費などを考えると、ドイツはなかなかのもの。
ちなみにアカデミーのある美濃市に置き換えると、日本平均の一世帯光熱費30万円、美濃市の世帯数8000を乗じると、24億円になる。役所や学校を考えると50億円以上になる。
この経費を省エネ、創エネで、10%でも地域内で自給できれば、雇用などの経済効果にもつながるはず。
ドイツの交通事情は、とことん歩行者中心。車は住宅地に駐車場もなく、離れたカーポートに駐車するしかない。
エネルギーそのものを考えれば、単にパッシブハウスのような熱効率の良い住宅をつくれば良いのではなく、交通改革も含めた必要性がある。
ドイツには交通事情を魅力にした木造建築の存在がある。木造に関しては「燃え代設計」がつきもの、ドイツでも燃焼スピードは0.6~1.0mm/minを基本に考える。
下の写真のように、もともと木材を隠していた木造建築(一階は石造りで、二階以上が木造)のものを、わざわざ木材が見えるように外壁改修して建築そのものの景観としての価値を創造している。
木材利用としては、近年、CLT(クロス・ラミネーテッド・ティンバー)が多用されていますが、CLTは接着剤が利用されており、燃えるとイソチアシアネートが有害ガス化する。
それに対応するため、最近はブナのダボを利用したピュア・ウッドという商品も開発されている。
これからの住まいを考えると「健康」「持続可能」「造形」の3つのバランスが重要。
聴講者はみな、森林文化アカデミーらしい、幅広い視点から木造建築や人の生活について解説される辻先生の話に、聞き入ったのです。
次に、小原先生が「プレカットと木構造」についてお話しされました。
プレカット工場で壁面加工図をつくり、プレカット工場で断熱材の仕込みや窓枠取り付けをし、プレカット工場でCADを利用してトラック積み込み梱包図まで作成しているそうです。日本では考えられませんね。
小原先生もピュアウッドについてふれられました。なんと日本にも輸入されているそうですが、日本では構造材として利用されていないそうです。
ピュアウッドは接着剤は全く使われておらず、螺旋状に溝のついたダボを利用して木材を積層させています。
ピュアウッドのダボはブナ材で、ドイツに大量にあるブナの有効利用も考えているそうです。このダボに螺旋状に溝を掘るのも技術がいりますが、これをねじ込んで板を積層するのです。
建物によっては木材利用だけにこだわらず、鉄骨と木材の「混構造」も多く見られた事、つまり木材利用だけに頼って制限を掛けるのではなく、多用な利用によって木材の可能性を探ることも示唆されました。
アーレン(Aalen)にあるカンパ(KAMPA)社の木造7階建ての本社ビル。大断面の集成材によるラーメン構造と防火区画のCLT材を組み合わせた建物。
この会社が供給する一般的な住宅の建築期間は、基礎づくり1ヶ月、木材加工2~3日、建て方~上棟に2~3日、仕上げに1ヶ月で完了するそうです。
最後に、辻先生は温熱環境などエネルギー関係、小原先生は構造力学などに精通した先生方ですが、様々な視点でドイツの木造建築についてお話しされ、参加者一同満足したのです。
以上報告、JIRIこと川尻秀樹でした。