アカデミー教員インタビュー

森はポテンシャルのかたまりだ!

杉本 和也 (林業専攻)

教員インタビュー杉本先生

 

林業経営方法から、チェーンソーの使い方、伐採の実習まで幅広く教えている杉本先生。自然が好きで、壊れたチェーンソーをバラバラに分解して直しちゃうくらい機械も好きで、学生へのまなざしもやさしい杉本先生の人生をじっくり聞いてみました!

山とキャンプと野球の少年時代

――どんな少年時代でしたか?

杉本:小学校1年生から5年生まで岡山県の山の方に住んでいて、その頃はボーイスカウト をやっていたから、わりと山に行ったり、キャンプをしたりしていたんだよね。だから、将来は山とか森に関わる仕事が出来たらいいなってちょっと思ってた。あとは野球ばっかり やっていたから、プロ野球選手になりたいとも思っていたよ。それから大阪に引っ越して、 大阪でも野球ばっかりしていたね。

 

――部活は野球部だったんですか?

杉本:小学校は野球部。中学、高校は卓球部。おじいちゃんが卓球をやっていたから、家に卓球台があって、それで卓球部に入ったんだけど、今思えば野球部に入ればよかったな。高校はどちらかというと進学校なんで、部活動には力を入れてなかった。それで、大学からまた野球部。大学4年間は本当に野球ばっかりやっていた。野球部を引退してから大学院の修士課程に行って、そこから林業の勉強をはじめたかんじかな。

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――大学は何学部ですか?

杉本:京都大学農学部。農学部の中でも森林がやりたかったから、森林科学科に入った。なんとなくだけど、山や森や自然に関わる研究がしたいなっていうのがあってね。今振り返ると、子どもの頃に、将来は山や森に関わる仕事ができたらいいなって、なんとなく思ってい たことがつながっているのかな。やっぱり、ボーイスカウトをやっていて楽しかったし、森 でキャンプするのが楽しかったからさ。今でも森に行くのが好きやし、山に行くとなんか落ち着く感じがするしね。理屈でここに行こうと決めたというよりは、幼い頃の経験があって森林科学科を選んだ気がする。ただ、その当時は林業については考えたこともなかった。

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アカデミーでの授業で、チェーンソーの使い方を教えている

目指すは、稼げる林業!

杉本:林業に出会ったのが、大学4年生のとき。そこも野球が絡んでくるんだけど、大学野球は木製バットを使っているんだよね。木製バットはアオダモっていう広葉樹で作られて いて、そのアオダモがすごく少なくなってきていた。だから、野球界としてもアオダモを増 やしていこうっていう運動があって、俺も野球部の活動としてアオダモの植樹とかをやっ ていたんだよ。それで、大学の卒業研究で、広葉樹をどうやったらまっすぐ育てられるのかとか、どうやって管理をしたらいいのかをテーマにした。そのときに、徳島の林業家で、広葉樹の植林をしているところがあって、そこで調査をさせてもらったんだよ。そのときはじめて林業にふれたのね。今から15年くらい前。それまでアオダモの植樹はしていたけど、 森の資源が増えればいいかなくらいの気持ちでやっていたんだよね。それで、卒業研究のときに林業家に会って、林業を知ったんだけど、当時は林業って全然儲からないし、これからどんどん衰退していく産業で、あんまり明るい未来はないねって言われていた時代だった。

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アカデミーでの授業の様子

杉本:そういう林業の現実を知ったときに、でもなにかやりようがあるんじゃないのかなっ て思ったんだよね。というのは、大学野球をやっていたときに、はじめは選手だったんだけ ど、2年生からマネージャーをやっていて、リーグ戦の運営もやっていたのね。何人集客して、売り上げがどのくらいで、球場を借りるのにどれだけお金がかかってっていう、リーグ 全体のお金のやり取りもしていた。甲子園って借りると結構高いのよ。1試合 50万も60 万もするんだけど、その中で赤字が出ないようしなきゃいけない。マネージャーのときにそういうお金のやり取りをやっていたから、林業もなんかやりようがあるんじゃないかって 思ったんだよね。当時はいろんな林業機械が入り始めた時期でもあったし、林業機械をうまく取り入れたり、仕組みを考えたりすることで、もっと利益があがるんじゃないかってね。 大学を卒業して大学院の修士課程に行ったんだけど、お金の計算とか機械が好きだったか ら、そういう面で林業をやっている人のバックアップやフォローができれば、林業にも明る い未来があるんじゃない?って思ったことが林業に関わるきっかけだった。

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――最初から大学院に行く予定だったんですか?

杉本:結局、大学のときは野球ばっかりしていたから、大学院に行ってちゃんと勉強しようって思ったんだよね。あとはね、理系だったから、わりとまわりも大学院に行く人が多かっ たっていうのもあるかな。それで、大学院のときに林業を対象にして、どうお金のやり取り をすれば林業が儲かるのかみたいなシミュレーションをやっていたんだよ。それは結構おもしろかったし、そこって林業の弱い部分でもあったんだよね。今でも状況はあんまり変わ ってないんだけど、ただ機械を入れればいいとか、お金の計算も大雑把とか、計画通りに木を伐らなくてもわりと何とかなる時代が続いていたから、そこをもうちょっとお金や人、機械のまわし方を考えれば、今よりはもっとうまくいくだろうなって思いながら研究してた。

 

――就職は、林業関係を考えていたんですか?

杉本:大学院の修士課程のあとは一般企業に就職しようかなって思っていた。修士課程の2 年間はちゃんと林業の研究をしていたから、卒業した後は林業をいったん置いて、違う業界に入ってもいいかなって思って就職活動をしていたんだよね。でもまあ、就職活動自体が正 直むずかしい時代で、あんまり採用してくれるところもなかった。今考えてみればさ、受かる要素がないようなエントリーシートばかり書いていたんだよね。大手の商社とか、コンサルとか、林業に全然関係ない業界で就職活動をしていたかな。

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杉本:それでね、結局就職はできなかった。だから、大学院の修士課程の後は博士課程に行 ったんだけど、ほぼ休学みたいなかんじで、シンクタンクのアルバイトばっかりやっていたんだよ。シンクタンクは、行政の依頼を受けて調査の仕事とかをするんだけど、例えば、今の木材の流通について調べてくださいとか、今の林業をやっている人たちが何を考えているのかを知りたいから調査してくださいとかね。林業関係のシンクタンクもあって、そこに就職しないかって話もあった。でもね、シンクタンクはいろいろ調べるんだけど、調べたものを提出して終わりってところがあるんだよね。行政がいろんな政策を考えるために仕事 をしているんだけど、自分がやっている仕事がどう結果につながるのかが見えにくかった。どんな仕事でも、みんな誰かのために働いているんだけど、その相手が見える方がわかりやすいよね。給料がよくても、徹夜して働いて、でも誰の役に立っているのかわからない仕事っていやじゃない。それで、ちょうどそのときにアカデミーの教員募集があったんだよ。アカデミーに入って、すごくいい職場だなって思う。学生だけじゃなくて、いろんな林業会社 の人とやりとりをすることもあるけど、直接顔を見ながら研修とか仕事ができるから、自分がやっていることに意味があるのかとか、役に立っているかどうかが分かりやすいんだよね。学生もさ、授業中眠たそうだったら「こいつ俺のはなしに興味ないな」ってすぐわかる からね。

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アカデミーでの授業の様子

機械も好き、自然も好き。

――杉本先生から見た、林業の魅力とおもしろさはなんですか?

杉本:山そのものがおもしろいし、自然がおもしろい。山に行くことにおもしろみがあるか ら、そういう中で仕事ができるのは林業の魅力なんじゃない?人それぞれとらえ方がある と思うんだけど、例えばきのこもいろんな種類があっておもしろいじゃない。トチノキは伐 ったらすごくきれいな木目が出るじゃない。そういう魅力を知ってほしいなって思ってる。 あと、木を伐るのもおもしろいよね。木を伐るって一口に言ってもすごい奥が深い。今でもどうしたらいいのかわからんときもあるしさ。倒す方向にチェーンソーで木に受け口を作って、反対側に追い口を作って…っていうのは、勉強したらわりとすぐできるよ。でもさ、 倒す方向を正確に決めるために、受け口と追い口の間の幅はどれくらい残そうかとか、どういう伐り方すれば効率よく木材が取れるかとか、スギとヒノキの伐り方の違いとかは、やっ ぱり経験しないとわからないし、時間をかけてやらないとうまくはならない。でも、やった らやっただけ上達するのが技能のおもしろいところだよね。そういうのも林業の魅力のひ とつじゃないかな。あと、チェーンソーも奥深いよね。いろんなチェーンソーがあって、ものによっていろんな癖もある。機械も好き、自然も好き。そういう人は林業いいんじゃない?

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――アカデミーにかかわること、森林にかかわることで、野望はありますか?

杉本:今までは、お金のまわし方とか林業機械を導入することとか、そういうことでバック アップやフォローができたらいいかなって思っていたし、今もそういう仕事をやっている んだけど、最近はね、林業機械の開発をやりたいと思ってる。日本の林業機械メーカーって決まっているし、メーカーも国の補助金があるから機械を作るみたいなところもあるから、 あんまり広がりがないように思うんだよね。前に、ドイツの林業機械メーカーを見学したんだけど、小さい会社がいろんな林業機械を作っていたんだよ。「今までこういうのがなかっ たら俺たちが作ったんだ」って言っていて、それがかっこよかったんだよね。自分たちが使いやすい機械を自分たちで作るってかっこいいなって、そんなことができたらなって思っ ているけどね。チェーンソーは詳しくなったけど、重機はまだまだ勉強中なんで、いろんな機械を分解しながら考えることにする。ひとまず、他の先生が壊れたって言った機械は全部 直しておこうかな。開発するのか、他の人が開発した機械を実証しながらフィードバックし て改良していくのか、どういう関わりになるかはわからない。もちろんひとりじゃできないからね。結局、機械をいじるのとか、自分でやってみるのが好きなんだよ。そういうのもあ って、林業機械を開発できたらいいかなって思う。

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――アカデミーに入学したい人、森に関わる仕事をはじめたい人に向けて、メッセージをお 願いします!

杉本:仕事自体が楽しくなったらいいし、やりがいを感じながらやれたらいいかなって思う。 何にやりがいを感じるかって人それぞれだと思うから、いろんなことに興味を持ってもら いたいかな。例えば、人によっては技術を極めることがやりがいになるかもしれないし、林 業をやりながらきのこを採るっていうのもすごい楽しいよね。自然の中で仕事ができることが楽しいと思う人もいるし、木を倒すのがおもしろい人もいる。それだけ色んな人に対応 できるポテンシャルが森にはあるから、いろんなところに興味を持っていれば、自分の中で ピンとくるものがあると思うんだよね。アカデミーに入る人はそれを見つけてほしい。アカ デミーにいるときに見つけてもいいし、卒業して仕事しながら見つけてもいいしね。

 

インタビュアー   佐藤 天翔 (森と木のエンジニア科)

 

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