クースの家(設計協力)

公園のシンボルツリーを守る妖精の家「クースの家」【ウッドデザイン賞2023受賞】

山楠公園は、岐阜県加茂郡川辺町にある自然豊かで誰もが楽しめる公園である。桃太郎伝説の残る鬼飛山の登山口となっており近年は多くの登山者が訪れる。
公園のシンボルは中央にある大きなクスノキで、子供たちが枝で遊んだり木陰で休憩したりする場所だが、根が地表に露出していることや丘に傾斜があるといった懸念があった。そこでクスノキの根を保護するとともに、多くの方が集まる場所として、クスノキの幹を中心に、芝生広場側には扇状のウッドデッキを、反対側には丘を利用した張り出しデッキを含んだ、子どもたちが喜ぶ小屋のような建物を計画した。
設計協力を行なった田村聡さんは「妖精が集まるようなメルヘンチックな建物」を考案した。シンボリックで不思議な形状の外観に、川辺町産材の木材がよく見える小屋組と、土壁のようなモルタルを曲面に仕上がっている。内部は芝生広場と階下の通路を結ぶアスレチックネットを設置し、新たな動線を遊具としても利用することができる。

 

山主への意向調査で 「町のために使って欲しい」

川辺町では令和2年に山の所有者に対する意向調査を実施し、森林整備で出る木の利用について意向を踏まえた活用として出来たのが「クースの家」である。公共事業による木材の地産地消は、地域への還元であると同時に、木材輸送時のCO2を大幅に削減することができる重要なコンセプトだ。

 

オール川辺町産材の木造建築を地域の職人が建てメンテナンスすることで地域産業を活性化

施工は大工を含め全て近隣地域の職人であり「技術の地産地消」を行っている。経年変化の美しい木組だが数年毎のメンテナンスも同じ職人が行うことで、町のお金が外に出ていくことがなく、長期的に地域循環経済に寄与することができる。

川上・川中・川下をつなぐ「良いものを目指す熱意」

地域材利用の意義があっても、良いものが完成しないと意味がない。良いものには「人」が欠かせない。 田村聡さんがデザイン・設計協力、東濃ひのき製品流通協同組合の大工鈴木氏が現場と設計と製材業者の間でハブ的な役割をし、可茂森林組合の井戸氏が造材から役場と県森連と設計の間でハブ的役割をしたことが、川上から川中、川下への良い連携状態をつくり、高いクオリティの建物が完成した。
事前の綿密な設計に、大工技術で忠実に応え、変更の手続きを県森連がこなし、田村さんはできるだけ現場に通った。また川辺町は建設費の増額に対応した。
「こんなに良いものができるなら」と関係者が普段の職務領域を超えた行動をとったことが川上・川中・川下の好循環を生んだ成功例である。

建物概要

建物名称:クースの家(命名者:安江佳月)
所在地:山楠公園/岐阜県加茂郡川辺町西栃井1849
設計協力:クリエーター科建築専攻21期生/田村聡
施主:川辺町役場/基盤整備課
木材調達:可茂森林組合/井戸正也
施工:大工工事/東濃ひのき製品流通協同組合/鈴木晋次・鈴村晃宏
   基礎工事/株式会社DAIKEN/川上大輔
   木材加工/東海プレカット大口工場/藤井慎護
   板金工事/有限会社後藤板金/後藤直也
   左官工事/有限会社山口建装/山口和史
       /株式会社大沢瓦店/大澤寛記・大澤昌之・鈴村達也
協力:岐阜県森林組合連合会/山下幸弘
受賞:ウッドデザイン賞2023/建築・空間分野/街づくり・公園・庭園/ソーシャルデザイン部門

子どもたちが地域材使った工作をする木育ワークショップの舞台に

デッキと芝生の段差を利用して、健康増進・予防医学の観点で体操やヨガのワークショップを開催

「クースの家」の命名は地元の小学校で公募。安江さんがこの建物にあった名前をつけてくれました

目のように開いた穴からは、芝生広場や貯水池の桜が見えます

川辺町の森の木と、日本の大工技術のがよく見えるように表しになっている小屋組です

整然と並んだ手摺が空間に品を与えます

細い材が少しずつズレて並ぶ壁は、左官の下地にも採用した納まりです。「壁の中はこうなっています」と示しています

木組を見せながら壁に柱が埋まっていく不思議な空間になりました

ネットを登ろうとして見上げると、シンボルツリーの楠が見えます

設計する前に「地盤調査」を実施して安全な地盤を確認しました

東濃ひのき製品流通協同組合の大工、鈴木晋次さんに設計の説明をする田村さん

木組の建て方は関わった人みんなの技術や思いの見せ所です

建て方の駆けつけて、枝の伐採をしてくれる県森連の山下氏と可茂森林組合の井戸氏

田村さんは現場に通い大工の鈴木さんと打ち合わせしながら進めました

プレカット工場での打ち合わせは、3Dモデルで描いた図面を持って指示します

難しい納まりの打ち合わせも「良いもの」にしようとする熱意が集まると楽しい時間です

左官は下地が重要。塗った後も木の収縮による動きを抑えるために、小幅の板に目地をとってつくっています。大変な手間です

「この下地のままで完成でもかっこいいね」とみんなが言いました

訪れる人に地域材でつくったことがわかるように真鍮プレートを張りました

 

ウッドデザイン賞用プレゼンシート

・WOOD DESIGN用 クースの家(5.5MB)