3 実践プロジェクト
社会で求められる実践力
「実践プロジェクト」は、学外の建築実務者と協同で行うプロジェクトです。
自力建設で培った知識、技術、経験をもとに、住宅の設計・監理や、
構造の依頼試験、公共建築の設計、木材強度試験など、リアルなプロジェクトに参加します。
教員や実務者のサポートも受けながら、適度な緊張の中で、机上の授業だけでは身につかない実践力を鍛えます。
■森の入り口プロジェクト 「morinos」
詳しくはmorinosの建築解説ページをご覧ください。
学内に建設した森林環境教育の拠点施設「morinos」です。
基本設計は、短期集中ワークショップで学生が原案を考え、講評会で建築家・隈研吾氏と最終的な意匠原案を固めました。
この原案をもとに、構造や計画に学生がかかわりながら基本設計を行い、地元の設計事務所と協同で実施設計を取りまとめました。
■公園施設設計プロジェクト「クースの家」
詳しくは「クースの家」特設ページをご覧ください。
岐阜県加茂郡川辺町山楠公園内に建設したデッキハウス「クースの家」です。
設計協力として基本設計から実施設計、設計監理までを手伝いました。
ウッドデザイン賞2023ソーシャルデザイン部門を受賞しています。
〇 クースの家
基本設計・設計協力:森林文化アカデミー 木造建築専攻(学生 田村聡)
実施設計・監理:川辺町基盤整備課
施工:東濃ひのき製品流通協同組合(鈴木晋次、鈴村昭弘、他)
材木:可茂森林組合(井戸正也)
製材:丸七ヒダカワウッド
事務手続き:岐阜県森林組合連合会(山下幸弘)
■新築住宅プロジェクト「近江八幡の家」
古い町並みが残る近江八幡の中心市街地。
町並みになじむように軒高さを抑え、大きな屋根で守られた住まいです。
ウッドファイバー断熱材に外張り断熱を加え、高断熱を実現しつつ、外部からはその存在が見えません。
南の隣棟からの影を避けるように北に寄せて配置された東西に長い建物は、冬期でも日照を十分得られます。
設計内容についての解説は下記のブログも参考にしてください。
建築秘話 近江八幡の家(木造建築病理学に基づく調査・プレゼン)
続・建築秘話 近江八幡の家(基本設計から実施設計)
続々・建築秘話 近江八幡の家(着工~上棟)
続々々・建築秘話 近江八幡の家(上棟~竣工)
〇 近江八幡の家
基本設計:森林文化アカデミー 木造建築専攻(教員 辻充孝、学生 玉置健二・八代麻衣)
実施設計・監理:トヨダヤスシ建築設計事務所 豊田保之、森林文化アカデミー(教員 辻充孝、18期・19期学生)
施工:内保製材(とりまとめ 川瀬さん、棟梁 西川さん、現場監督 徳田さん、他)
■新築住宅プロジェクト 「小野の長家」
学生が関わった住宅の設計プロジェクトです。
授業が並行して進んでいる中、スケジュールを管理し、出来る範囲で設計、現場監理に関わります。
ここには「自力建設」で培った経験が活きてきます。
この住まいは、日射熱や通風、薪ストーブなどの自然エネルギーを極力活用しつつ、
心地よく暮らせるように、何度も学生と議論を重ねて計画されています。
当然、性能設計の学びを活かし、構造や温熱計算なども行い、わかりやすく住まい手に説明します。
特にこだわったのが木材です。
天然乾燥された地域材を活用し、含水率やヤング係数の計測などの木材管理に行き、
色目や節の様子を確認してこの材はこの柱にといった選木も学生と一緒に行いました。
竣工後は、学生と一緒に訪れることもあり、実際の性能がどうだったかを計測したり、
住まい心地などを聞く機会もあります。このフィードバックが、貴重な学びとなります。
■道の駅プロジェクト 「美濃にわか茶屋」
この施設は地域防災拠点施設として計画した木造の準耐火建築物です。
建築をはじめ、林業、木工、環境教育の教員、在校生、卒業生、
さらには行政、設計事務所、地域工務店等、様々な人が関わったプロジェクトです。
最初に、敷地上流域の木材蓄積量等を調査し、35~60年生の特に大断面の材を選択・伐採し、
適正価格で購入することで山の管理を行う持続性のある計画をたてることにしました。
また、大断面の材を用いた燃えしろ設計によって耐火性能を確保しつつ構造材を表すことができています。
県産広葉樹の家具や美濃伝統文化の手漉き和紙による内装など、地域性を活かした建物となりました。
その上で、それらの情報を伝えるハンズオン展示型の学生が企画・運営するビジターセンターを設置しました。
市民を巻き込んだ設計ワークショップなど、長く使いたいという愛着を芽生えさせる様々な仕掛けを埋め込み見ました。
■木造建築病理学に基づく改修プロジェクト 「美濃町の家」
築100年を超える町家を、木造建築病理学に基づいて改修した住まいです。断熱区画を行い、適切なゾーンを中心に改修を考えています。(岐阜県美濃市)
岐阜県美濃市は重要伝統的建造物群保存地区に指定された”うだつの町並み”という美しい町並みがあります。「美濃町の家」は、重伝建地区から道を一本隔てた通りに位置し、袖卯建と黒漆喰が特徴で、趣のある佇まいを残しています。周囲にも重伝建地区内に匹敵する立派な建物も現存しますが、改修助成や建築規制が無いため、安易に建て替えが進み、無機質な3階建の建物も目立ちます。綺麗に整えられ維持される重伝建地区と雑多な町並みとなっていく周辺地域という格差が見えてきます。
今回、重伝建地区の外縁部に、適切なコストで、使い勝手や各種性能を向上させ、当時の面影を残すひとつのモデルが完成し、工事途中や竣工後に見学会を開催するなど、地域に向けての情報発信を行った。道路側をギャラリーとして開放することも考えています。
また、技術や文化を次世代への継承することを見据え、森林文化アカデミーと東京家政大学の学生と協同で調査、改修提案を行い、壁の珪藻土塗や床塗など、住まい手も交え、地元職人の指導のもと行いました。
地域の魅力は、個々の建物だけではなく、連続している建物の表情や、そこに住む人々の活動によって育まれていくものです。「美濃町の家」が、伝建地区と周辺地区をつなぐ核となることを期待しています。
■減衰考慮型構造検討手法 開発プロジェクト
未曾有の大規模地震災害を引き起こした平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震で、以後複数回の地震(余震と思われる)が発生しています。本震で気象庁震度階級7を観測した宮城県栗原市での地震発生状況について、気象庁の震度データベースみますと、本震の後、平成28年3月4日までに、震度6強を1回記録、震度5弱を4回記録しています。
余震による建物の被害状況について、岩手県奥州市では本震での被害よりも、余震での被害が非常に大きいものでした。これは複数回地震で累積した損傷により、建物の性能が低くなったと考えられます。
平成26年度森林文化アカデミー受託研究「小中大規模木造建築の新築・改修における制振ダンパーを用いた構造技術に関する研究」(委託者:住友理工株式会社)にて実施した実大振動実験の結果の概要を述べます。1階に構造用合板耐力壁(加振方向・4P)と制振装置(粘弾性体の筋かい型TRC-30A・1カ所)を設置した「制振棟」と、1階に構造用合板耐力壁(加振方向・5P)を設置した「耐震棟」(耐震等級3)の2棟の実験をしました。複数回地震対する挙動を把握するために模擬地震波BCJ-L2(震度階6弱程度、継続時間・120秒)を続けて(制振棟・7回、耐震棟・3回)入力しました。
加振前後の建物の固有振動数を見ます。耐震棟では1回目の地震動入力では特に損傷はなく、その後損傷が累積していき、3回目ではほぼ倒壊となりました。制振棟では1回目の地震動入力では特に損傷はなく、その後損傷が累積しますが、7回目であっても倒壊には至りませんでした。
このように耐震の建物は耐震等級3であれば、大地震に対して3回程度は倒壊防止の性能を有しており、減衰を付加した制振の建物について7回程度は倒壊防止の性能を有していました。これは、減衰性能が高いことにより、耐震要素への損傷累積の軽減に繋がったためと考えられます。
耐震構造に減衰性能を考慮した構造検討をすることで、より安全な木造建築を目指す必要があると考えます。
■岐阜県産スギ・ヒノキ横架材スパン表作成プロジェクト(2006~2011年)
2階建以下の木造住宅は一般的に構造計算(地震力や風圧力に対する定量的検証など)がなされていません。2007年~2016年までの10年間で全ての木造建築のうち構造計算をしている建物は15.5%で、構造計算をせずに建築されている建物は84.5%になります。2006年以前はもっと多くの建物で構造計算がなされていません。
構造計算がなされずに安全性の検証がなされないまでも、少しでも構造的な安全性を有する木造住宅が増えるように当該プロジェクトを実施しました。岐阜県産スギ材およびヒノキ材について横架材利用に着目し、構造的諸条件に適した横架材断面が引き当てられる一覧表『横架材スパン表』を作成しました。また、実務者向けの利用講習会などを通じて、実務で実際に利用して頂いています。
■熊本地震震災調査プロジェクト
未曾有の大規模地震災害を引き起こした平成28年4月に発生した熊本地震で、熊本県益城町では最大震度7が2回、6弱が1回でした。こういった大地震が複数回生じることは、建築基準法での要求性能としては想定範囲を超えるものとなります。
熊本地震による益城町建物の被災状況を見てみます。1981年以前の旧耐震基準の建物の内、約1/3の建物が倒壊し、95%の建物が何らかの損傷を生じています。この旧耐震基準の建物は、すでに兵庫県南部地震(1995年)の被災状況からも耐震性能に問題ありと報告されており、耐震診断及び耐震補強を進めていくことが必要であると言われてきています。1981年~2000年以前の新耐震基準の建物の内、約1割の建物は倒壊し、8割の建物が何らかの損傷を生じています。2000年以後の建物の内、3%が倒壊し、45%の建物が何らかの損傷を生じています。2000年以後の建物の内、耐震等級3(品確法の性能表示制度による。建築基準法の1.5倍の耐震性能を有することを表示している。)の建物には倒壊がありませんでした。また、2000年以後の建物の内、制振ダンパーを設置した建物には倒壊が無かったことはもちろんのこと、目視で確認できる損傷も一切ありませんでした。
■岐阜県産ヒノキ材によるラーメン構造開発プロジェクト(2014年~)
岐阜県では合板工場やバイオマス発電施設の整備、全国的にはCLT工場などで、B材・C材・D材利用が進められています。しかし、山へ還元される金額面では課題があるようです。その一方で、A材に付加価値をつけて適正な金額を山へ還元するために活動している方々もいます。その提案の一つとして「木造ラーメン構造」があります。
ライン工業さん(岐阜県可児市)は本業で扱っている鋼材を、岐阜県産木材とコラボレーションする方法として、「囲柱(いちゅう)ラーメン木構造」を提案しています。非住宅の中大規模木造を想定した場合、大きな空間をつくることができる木造ラーメンを用いることが効果的です。そのため、次の3点を主たる開発コンセプトとしています。①柱に生じる許容耐力を高めるために、合わせ柱とする。②運搬のしやすさを考慮して、接合部を梁の両端部に設けることとする。③合わせ柱の間に梁を設置することで、2方向ラーメンの実現性を高める。また、汎用性のある合理的な木造ラーメンの仕様とするために、意匠設計者、構造設計者、木材供給業者などの実務者、それから木質構造の有識者、防耐火の有識者などへヒアリングを行い実際の物件で利用することを想定して仕様設計を実施してきました。
1架構で筋かい耐力壁数本分の強さがあることが実験的検証により明らかになっています。つまり、壁が全く無い状態で耐震性の高い6m×6mの空間を造ることが可能だということです。既にこの木造ラーメン構造は1方向の木造ラーメンとして実際に設計できます。一般的なニーズとしては狭小間口の敷地で1階に車庫を有するような住宅をはじめ、大空間の欲しい店舗や事務所などが想定されます。コストとしては、同じ空間構成の鉄骨造よりも何割か安く建設することが可能となっています。今後は2方向の木造ラーメンとして設計できるように技術評定を取得する方向で開発を進めています。
現状では岐阜県内外から18件ほど実物件の設計依頼があり、ニーズの高さが伺えます。このうち1件は岐阜県内に平成30年度中に竣工する予定です。
川下側では、A材に「高い耐震性能を持つ大きな空間」という付加価値をつけて、適正な金額を山へ還元する仕組みづくりがスタートし始めています。
■新築住宅プロジェクト 「自然と暮らす家」
住まいは単なる器ではなく、人の暮らしがあります。事故や災害が起これば、省エネや耐震に注目が集まり、基本の暮らしが欠落している視点が多く見受けられます。住まいには、どんな生活が営まれるのかがまず大事で、その理想の生活を実現するために、熱環境や省エネ、構造等の性能が必要です。
この住まいは清流長良川右岸の田園地帯に位置し、暮らしに合わせて土地との接点を多く持つ分棟配置とし、熱環境的に不利な形状ではありますが外部とのつながりを重視した建物です。断熱、日射遮蔽といった建物の基本性能を向上させつつ、暮らしやすさと心地よさ、健康に配慮し、太陽熱や光、風、薪、雨水、地下水といった地域で賄える資源を活かせる住まいとして計画しました。
■木造建築病理学に基づく改修プロジェクト 「豊橋の家」
岐阜県徳山ダム建設にあたって愛知県に移築された民家の改修です。
木造建築病理学の調査に基づき、耐震、劣化、温熱、エネルギー、維持管理、防耐火、バリアフリーの性能を調査し、適切な改修により性能を向上させていきます。
合わせて、移築時に深く考えられていなかった配置計画を見直し、開口部等の変更を行い、心地いい環境を実現しています。
性能が確保された改修で、さらに100年以上住まい続けられることを期待してます。(愛知県豊橋市)
■新築賃貸住宅プロジェクト 「栗原村の賃貸実験住宅」
2棟並びの賃貸戸建て住宅を計画するにあたり、同じ間取りで異なる建物仕様の住宅を隣接させて計画し、1棟は工務店の標準仕様、もう1棟は高性能仕様として計画しました。
同じ間取りで、日照条件も同程度のため、自然状態の性能による比較ができるほか、賃貸住宅という特性上、入居者が変化した場合に家族構成や、ライフスタイルの変化を同じ建物で比較することができます。
使用材料は、建築主、工務店のこだわりで、極力自然素材を利用しています。この住まいに入居する方々も、建築主の考え方に賛同される方を対象に、建物の計画や性能をある程度理解したうえで、温熱環境や、消費エネルギー量などの実測などの協力も条件となっています。
■登録有形文化財改修+コンバージョン 「美濃和紙あかりアート館」
本建物は、戦争の気配が濃厚な厳しい社会情勢の中、昭和十六年に美濃町産業会館として建築された。その後、農業協同組合、商工会議所、公民館、近年では紳士服店と所有者、用途を変えながらその姿を美濃の町並みの中にとどめてきました。平成十六年には歴史ある本建物が美濃市の所有となったことをきっかけに、耐震改修+コンバージョンを行うこととなり、翌年の平成十七年、昭和初期の洋館建築の佇まいをよく残していることが評価され、国の登録有形文化財として登録されました。
本建物を耐震改修するにあたっては様々な制約がありました。元々商業的用途に用いられていたこともあり、ファサードは開口部が多く、国の登録有形文化財に登録されたことで、外観は建築当初の姿に復元することが前提となりました。そのため外壁廻りに耐力壁を新たに設けることが出来ないため、建物の内部に耐力壁を設け、外周部に地震力を流さない計画とすることで、外周部を建築当初の姿に復元することを可能としました。
内部には「美濃和紙あかりアート展」の優秀作品を常設展示する空間が必要とされたため、内部空間にはある程度まとまったボリュームが要求され、壁の量もそれほど多く入れることができないため、新設する耐力壁には高強度・高倍率の壁を設置し、それらの要求に答えることとしました。
何百年と往時の姿を今にとどめる歴史ある町並みの中で、「美濃和紙あかりアート館」として新たな命を吹き込まれた本建物が、町並みと共に、長く人々に愛されていくことを望みます。
■白鳥林工協業組合 社屋プロジェクト
長良川沿いにある白鳥林工協業組合は、製材、製品化だけではなく、林業も同時に行うことから木材の流通を明確に把握できるスタイルをとっています。
計画にあたり、山から出てくる材種、寸法を事前に調査し、それぞれの木材の特性を活かした使い方を行いました。
梁には、国産針葉樹の中でも特にヤング係数が高い唐松を二本合わせとし、積雪2.6Mで4.6Mのスパンを可能にしています。また柱は今後増えるであろう中径木から木取りした150㎜角の杉材を使用しました。この唐松と杉の門型架構を九つ連続させたトンネル状の内部にそれぞれ機能を配置しました。
耐力壁は、長良杉パネルを柱間に落とし込む構法を用い、そのまま内部仕上げになっています。
また内部の格子には安定した乾燥材が得られる桧を用い、床材は30㎜の唐松、外部デッキは腐朽に強い天然のネズコ40㎜を使用しています。大断面の取りにくい広葉樹は、ブナ、ナラ、タモをそれぞれ巾はぎパネルに加工し、家具材として使用しました。
エントランスを兼ねた用水路に掛かるブリッジは、長良杉パネルと唐松の合成梁で構成し、巾、長さ共4Mの大きなデッキとなって製材所と新社屋を結んでいます。
■海外木造建築構造 視察プロジェクト
森林文化アカデミーはドイツのロッテンブルク大学との連携協定を結んでいますし、木造建築専攻の構造系では国際会議等への参加を兼ねて毎年海外へ建築の視察に行っています。日本と海外の林業や木材供給の状況も異なりますし、木造建築で利用される樹種なども異なります。また、木造建築の法的基準、使用状況や一般的仕様なども異なります。従って、海外の建築をそのまま日本へ導入することや日本の建築をそのまま海外へ導出することはできませんが、海外各地域で工夫している木の使い方を学ぶことはいいことだと考えています。
■アアルト模型製作ワークショップ
フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトの代表作のマイレア邸の1/1スケールの階段を有志による短期集中ワークショップで製作。
図面の読み取りから素材の選定まで、学生主体で、製作しました。
■住宅設計プロジェクト
上記で紹介した以外にも、様々な住宅プロジェクトを行ってきました。独立した卒業生とチームを組んだり、地域工務店と一緒に作り上げることもあります。
※年度によって実践プロジェクトの内容は異なります。
プロジェクトが発生した段階で、学生は自らの仕事量を把握しどの程度関わるかを検討し、参加します。