林業事例調査2023(2)株式会社中川さま視察(2023/7/24AM)
2日目はいよいよ林業事業体の訪問です。午前中は和歌山県田辺市の株式会社中川さんを視察させていただきました。
中川さんは「木を伐らない林業」を提唱し、森林整備の中でも過酷といわれる「造林・育林」に特化した国内でも珍しい会社です。現在の日本では主伐面積に対して3~4割しか造林されておらず、森林の持つ多面的機能が損なわれつつあるという課題があります。林業の大きな課題ではあるもなかなか進まない造林の会社であり、また創業7年目でありながら高い生産性を維持し従業員が生き生きと仕事をされているというお話を授業で伺い、訪問を決めました。
中川さんの取り組みの中で印象的だったことは、「働き方改革」と「社外への普及活動」です。『育林は育人』という社訓にもある通り、働きやすい環境の整備は類を見ないものでした。
まずは勤務時間です。中川さんとの集合時間は8:30。そろそろ一般的な始業時間と思いきや、その時間はなんとお昼ごはんです。下刈りは植林後数年の現場で行われるため、遮るものがなく直射日光下での作業であり、またGW明けからお盆までの暑い時期に行われます。そのため今回作業をされていた班は4:00~11:00の涼しい時間に働かれるとのことでした。時間は班ごとに決めることができ、退社後の時間は休むもよし、出かけるもよし、副業するもよし、好きに使えます。しかし7月末の訪問日は8:30でさえかなり暑く、立っているだけでへとへとだった私たちは、てきぱきと仕事を進める作業員さんを尊敬の眼差しで見つめていました。
二つ目は給与体系です。班員の日給は現場の班長が査定し、なんと社員全員に公表されます。現場での頑張りが給料に直結しどのような仕事をすればいくらもらえるかが明確になることで、裁量を与えられた班長は経営視点でチームを引っ張り、班員は生産性を上げられるように努力します。皆が自分にできることを最大限行うモチベーションを維持できることが、会社としての生産性の高さに繋がるのではないかと思いました。
三つめはドローンの導入です。以前までは苗や獣害対策のネットやポールを人力で運んでいましたが、林業用大型ドローンを開発したことにより、より安全に効率的に作業を進めることができるようになりました。事業体ごとに費用対効果を見極める必要はありますが、ドローンが造林育林工程に大いに影響を与えることを肌で感じることができました。
「造林はなかなかやりたいと思う人がいない。働き方や人間関係が気に入ったと思ってもらえる環境を整備する。」と話されていたことや、実際に副業で二足のわらじを履いている従業員の方が複数いらっしゃることが印象的で、3Kと呼ばれる林業でここまでフレキシブルな働き方ができるのだと驚きました。
次に「社外への普及」に力を入れているという点です。中川さんはあくまでも和歌山の会社であり、造林できる範囲や雇用できる人数に限りがあります。そこで従業員の独立や他社と共同で別会社を立ち上げるなど、和歌山以外にも普及活動を積極的に行っていました。
「GREEN FORESTERS」さんという同じく造林に特化した北関東の会社は、なんと中川さんと岡山県の会社である百森さんがアカデミーに外部講師として来校する直前に共同で起こした会社であるというお話を伺い、思わぬ繋がりと起業への思い切りの良さ(実際はたくさん考えられているのだと思いますが)に一同感嘆の声が上がりました。他にも徳島県や本学のある岐阜県の会社とも提携し、地域に合った方法で取り組めるよう活動をされています。「ほかの地域にも中川さんを知ってもらいたい。普及していくことを考えると楽しい。」と話されていたことが印象的でした。
教員の先生方も私たち生徒も林業を魅力ある仕事にしたいと考えている人は多くいます。従業員の方が前向きに、そして安全に働けるようにと工夫されている中川さんの取組みは、今後の林業の業界においてもっと必要になる視点ではないでしょうか。
そして書ききれないですが、森林所有者・伐採業者・苗木生産業者など地元の林業の中で中川さんが存在感を示されていることや、力を入れている広葉樹施業の取り組みから、林業を通じて地域づくりを行っているのだと感じました。
お忙しい中お時間を割いて丁寧に説明してくださった大谷さんはじめ、社員の方々に深く感謝いたします。
その後、後ろ髪を引かれながら急いでお昼ご飯を食べ、午後の訪問先に向かいました。次の事業体さんへ続きます。 (林業専攻1年 梅村成美)